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毒蝮流高齢者との付き合い方「磨きをかけた相づちでマンネリを追求」【連載 第5回】

「マンネリはホメ言葉」だと毒蝮三太夫さんは言う。スタートして50年を超えたラジオの生中継番組(『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』TBSラジオ)では、今週も「ジジイ、ババア」と愛ある毒舌が炸裂し、会場に集まった高齢者が大喜びしている。「偉大なるマンネリ」と胸を張る毒蝮さんの考えを通じて、高齢者と楽しくコミュニケーションを取るコツを探ってみよう。(聞き手・石原壮一郎)

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 * * *

時代に合わせて「変わらない味」を守る

 TBSラジオでやっている生中継の『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』が、とうとう51年目に入っちゃったよ。始まったときは、こんなに長く続くとは誰も思ってなかった。当たり前だ。最初に「50年やるぞ」って言ったって、本気にするヤツはいないよな。

 俺の年齢は30代から80代になったけど、マイク1本で集まった人の輪に入っていくという中継のスタイルは、ぜんぜん変わってない。言ってみればマンネリですよ。偉大なるマンネリ。俺はマンネリっていう言葉には、いいイメージを持っている。

 千代の富士が左上手(ひだりうわて)を取ったら絶対に負けない。これは型だよね。毒蝮がマイクを持ってジジイやババアの前に出たら、絶対に面白く盛り上がる。これも型だ。

 ただ、まったく同じことを繰り返しているわけじゃない。そのときの相手や状況によって、型を守りながらも少しずつ変えていくから、何度やってもうまくいくわけだ。

 老舗の味も同じだよね。羊羹で有名なあの名店だって、時代に合わせて少しずつ味を変えているはずだ。でも、お客さんだって味の感じ方が変わっているから、常に「やっぱりこの店はうまいなあ」と感じるんだよ。だから、ちょっと油断して慣れたやり方を続けちゃうと、「味が落ちた」ってことになる。

 俺だって油断したら、近ごろ面白くないだの歯切れが悪くなっただのって、すぐ言われちゃうよ。時代に合わせて少しずつ変えているから、みなさんに「変わらない味だね」と喜んでもらって、50年続いてきた。だから俺はマンネリであることに誇りを持ってる。

 師走に入るとあちこちでベートーベンの「第九」(編集部註:「交響曲第9番」)が演奏されるけど、あれだってマンネリもいいとこだよ。だけど、みんなコーラスのところになると何度聞いても感動する。俺も大工のせがれだから、「第九」に負けずにマンネリに磨きをかねなきゃな(笑い)。

年寄りのマンネリな話に応じるコツ

 年寄りの話っていうのも、まあたいていはマンネリだ。同じ話を何度もして来るし、興味の幅がいまさら広がるわけでもない。しかも、本人は自覚がないから、「話す度に芸に磨きがかかる」ってこともないしね。だけど、聞いてる側の息子や娘が、「その話、もう何度も聞いたよ!」と会話をシャットアウトするのはよくない。だんだん話さなくなっちゃうよ。

 同じ話を始めたときは、マンネリを楽しむスタンスで聞くといいんじゃないかな。志ん生の落語を聞いてるときに「また同じ話か」とは思わないだろ。相づちを打つこっちだってマンネリになるわけだけど、そこはどんどん磨きをかけてほしい。「それは大変だったねー」にどれだけ心を込められるか、とかね。

 おざなりな相づちでお茶を濁すのは、悪いマンネリだ。相づちに磨きをかけていいマンネリを追求すれば、同じ話を聞く自分も張り合いが出るし、話している年寄りだっていい気持ちになれる。悪いマンネリを繰り返しちゃうのは、お互いにとって不幸だよ。

「俺の番組はラグビーボール。思いがけない方向に転がる」

 今年はラグビーがずいぶん盛り上がったけど、昔から俺は自分の番組はラグビーボールだと思ってる。話を振った相手の反応によって、思いがけない方向にどんどん転がっていく。俺も楽しいし、聞いてるほうだってそれが面白いんじゃないかな。

 年寄りとの会話って、そういうところがある。野球のキャッチボールみたいにはならないかもしれないけど、ボールがヘンなほうに転がっていくのを面白がればいいんだよ。いろんな話題を“試し”に振ってみて、見事に食いついてくれたら、それは「トライが決まった」ってことだな。ハハハ。

今回の極意

年寄りの同じ話を聞くときはこちらが相づちに磨きをかけようという吹き出しと毒蝮三太夫さん

毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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