もし自分が認知症になったら…チェックリストと今からできる対策
厚生労働省によると、2025年に65才以上の高齢者の5人に1人が認知症になるという。親や夫のことを心配しがちだが、あなた自身が認知症になることも充分にあり得るのだ。誰にどんな介護をしてほしいのか。今から準備が必要だ。
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徘徊、ご飯を食べたことを忘れる、家族を他人と勘違いする――認知症といえば、そんな症状を思い浮かべる人は多い。もし自分自身が認知症になったら「もう人生の終わり」と思っている人もいるかもしれない。
だが、実際には冒頭のような症状はかなり認知症が進行した場合のものだ。
10年後には認知症患者は700万人に達するとみられており、誰もが認知症と無関係ではいられない。大切なのは正しい知識、そして準備だ。
新田クリニックの新田國夫院長は次のように解説する。
「認知症は進行が遅い病気です。初期段階で治療すれば、症状を軽い段階である期間留めておける可能性が高い。
それなのに、みなさん認知症に悪いイメージしか持っていないから、自分に認知症の症状が表れても『認知症と認めたくない』と、病院に行かず、どんどん症状が進んでしまうことがあるのです」
私は認知症?チェックリスト
まずはどれだけ自分に認知症の可能性があるのか、下のチェックリストで確認してほしい。もし該当する項目が5つ以上あれば、病院で受診したほうがいい。
□誰かへの伝言を頼まれても、その事自体を忘れてしまいがち
□ど忘れした物事を最後まで思い出せない
□昼寝から起きたとき、昼か夜かわからない
□スーパーに買い物に行き、帰り道に迷ったことがある
□知らない人から親しげに話しかけられる
□物を置いた場所がわからない
□料理の手順が途中でわからなくなる
□料理の味付けが同じようにならない
(監修:加藤伸司さん)
チェックリストを作成してくれた認知症介護研究・研修仙台センター長の加藤伸司さんは言う。
「最初はかかりつけの病院の医師に相談してみてください。健康診断のような気軽な気持ちで行ってください。そこで簡単な物忘れの検査などを受け、専門医の診断が必要と判断されたら紹介状を書いてもらいましょう」
もし認知症になったらどうすればいい?
●認知症なったら適切な要介護認定を受ける
もし病院で認知症と診断されたら、私たちはどうすればいいのだろう。自分が認知症になった日のための対策を今から勉強しておこう。
認知症になるとさまざまな介護サービスを利用する。金銭的に補助してくれるのが介護保険だ。利用できる金額は「介護度」によって決まる。だが、介護認定調査員が自宅を訪れ、『要支援1』から『要介護5』までの介護度を認定する際に、つい見栄を張って、元気に振る舞ってしまうケースがある。
「そうすると実際に必要な介護度より軽く認定されてしまいがち。その場合、家族に必要以上の負担をかけることになりかねません。普段通りの生活を見てもらい、適切な介護認定をしてもらいましょう」(介護福祉士の吉田三和子さん)
認知症なったひとり暮らしの高齢者にはFAXがおすすめ
ひとり暮らしの高齢者にFAXの購入をすすめるのは、介護・暮らしジャーナリスト太田差惠子さんだ。
「離れて住む子供や親戚との連絡手段に最適です。大きな文字で書けば視力が悪くても読めるし、耳が遠くなっていても心配ない。何より電話と違って、紙なので読んで忘れてしまってもまた読めます」
実際に介護されることになったら、誰にどんな希望を伝えればいいのか。
千葉県在住のA子さん(54才)は、母親の介護経験から、自分が認知症になったら、どうしても守ってほしいことがあるという。
「下の世話は男性ではなく女性スタッフにしてほしい。母が特養に入ったとき、男性スタッフに排泄物を見られるのが嫌だからと、汚れたオムツを隠したことがありました。私も同じ気持ちです。
また入浴介助も女性スタッフにしてほしいですね。どれだけ認知症が進んでいたとしても男性に裸を見られることは恥ずかしいと思うんです」(A子さん)
どんな介護を希望するか伝えておく
こうした介護の希望を伝える手段として、ケアプランがある。
「ケアプランはケアマネジャーが作ります。その際に、自分がどんな介護を希望するかを伝えておく。それこそ入浴介助スタッフは女性限定にしてほしいなど細かい部分までしっかり伝えましょう」(前出・加藤さん)
認知症になったとき家族に守って欲しいことを伝えておく
ケアプランに記述しないことは、家族に直接伝えよう。
現在、認知症の父親の介護をしているB代さん(53才・愛知県)は、介護を通じて感じたことがある。
「私は父親に対して、『そんなことが、なんでできないの?』『どうして、そんなふうにするの?』なんて、つい口にしていました。先日、そんな調子でまた言ったら、父がとても顔を曇らせたんです。冷静に考えれば言われる側は嫌ですよね。だから、私が認知症になった時は、そんなふうに言われたくない。認知症になってもきつく責めないでほしい」
ママ友の介護経験を聞き、食事についての希望を家族に伝えたいと思うようになったのは、栃木県在住のC美さん(55才)。ママ友の母親は、認知症が進むにつれ、食事中に食べ物をポロポロこぼしたり、クチャクチャ音をたてて食べたりするようになった。それが原因で、家族が母親と一緒に食事をしたがらなくなってしまったという。
「ママ友は、その母を違うテーブルにひとりで座らせて食事をさせるようになりました。その母は自分ひとりの力では食べられないので、ママ友がスプーンですくって、口に押し込むようにして食べさせていました。かつて母が元気だった頃は家族みんなで食卓を囲み、楽しくおしゃべりしながら食事をしていたそうですから様変わりです。
そうしているうちに、その母は何も口にしなくなりました。あっという間に認知症が進んでしまい、介護施設に預けることになったそうです。私が認知症になった時は、もし在宅なら家族と一緒に食卓を囲ませてほしい。施設にいたとしてもゆっくり楽しい食事の時間を送らせてもらいたい」(C美さん)
●自分の生きがいや最低守って欲しいことを家族に伝えておく
B代さんやC美さんのような希望を持つことはとても重要だと、ケアマネジャーの峯村良子さんは言う。
「認知症患者の生きがいを奪ったり、軽蔑したりすると、認知症が悪化してしまうケースがあります。家族は、あなたの生きがいや言ってほしくない言葉を意外と知らないことが多い。最低限、家族に守ってほしいことはきちんと伝えておきましょう」
もし家族に伝えにくければ、地域包括センターの職員などに話しておくといい。
「自分の中だけで悩み続けないでください。その間に認知症が進行して困難なことに直面してしまうことになりかねません」(前出・新田院長)
教えてくれた人
新田國夫さん/医師。新田クリニック院長。著書に『安心して自宅で死ぬための5つの準備』(主婦の友社)などがある。
加藤伸司さん/東京福祉大学総合福祉学部福心理学科教授。認知症介護研究・研修仙台センター長。著書に『認知症を介護する人のための本ーケアする家族をストレスから救う』(河出書房新社)などがある。
吉田三和子さん/介護福祉士。
太田差惠子さん/介護・暮らしジャーナリスト
峯村良子さん/ケアマネジャー
※初出:女性セブン
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