【高齢者が見直したい薬】その不調は副作用かもしれない…飲み続けることで増すリスクを専門家が解説
年を重ねるにつれ体の機能は衰え、持病も増えてくる。医療機関を頼ることも多いだろう。だが、治療をすべて医者に委ねるのは危険だ。副作用リスクを無視した薬の処方はかえって不健康になるケースが絶えないのだという。医者の言いなりにならず、自分の健康を正しく守るために、見直すべき薬を網羅した。
教えてくれた人
長澤育弘さん/薬剤師、谷本哲也さん/医師・ナビタスクリニック川崎院長
薬の作用は年齢とともに変化。漫然とした処方で重篤な副作用リスクも
持病や突発的な体調不良に対し、多くの人が最初に頼るのは「薬」だ。厚労省の調査(2023年)によれば、国内で出荷される医療用医薬品は年間1700億錠、市場規模は11兆円に上る。
医者から処方されるもの、ドラッグストアで購入できるものを問わず、年を重ねるごとに薬の服用が日常になっていく。
だが、忘れてならないのが「副作用」のリスクである。
「いまの薬をそのまま飲み続けていいのかどうか、一度見直すべきです」
そう訴えるのが薬剤師の長澤育弘さんだ。
「とりわけ高血圧や糖尿病などの生活習慣病の患者に対しては、専門知識のない医者が『とりあえずお薬を』と漫然と処方し、患者も言われた通りに服用しているケースが少なくありません。しかし、体内での薬の作用は年齢とともに変化します。何も考えずに飲み続けていると、思わぬ重篤な副作用が出かねないのです」
薬は体内で「吸収」「分布」「代謝」「排泄」の4段階を経るが、加齢はこのすべての段階に影響するという。
吸収の段階では胃酸の分泌低下による吸収の遅延などが起こるが、より大きな影響が出るのはその後の段階だ。
薬の副作用に詳しいナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也医師が言う。
「高齢になると体内の水分量が減るため、水に溶ける薬は血中濃度が上がりやすい。一方、体脂肪が増加するため脂肪に溶ける薬は体内に残りやすくなる。薬の分布が変わるため、同じ薬を同量飲んでも“効きすぎ”や副作用の問題が生じやすくなるのです」
加齢によって肝臓への血流量が減ることで、薬を分解する酵素の活性も低下するため、薬の代謝が遅れ、血中濃度が高い状態が長時間続くこともある。
「さらに問題なのが腎臓の機能低下です。腎臓の糸球体濾過率(GFR、血液を1分間にどれだけ濾過できるか)は加齢とともに変化し、60代、70代、80代と年代を重ねるごとに機能が2割程度ずつ落ちていくと言われている。それを考慮せず同じ量の薬が処方され続けていると、副作用のリスクがますます大きくなってしまう」(長澤さん)
薬を長期で服用する場合、年齢を考慮して「飲む量」を検討し直す必要があるのだ。
しかも、高齢になればなるほど飲む薬の種類が増え、日本では75才以上の約25%が6種類以上の薬を服用しているとのデータもある(厚労省レセプト分析)。谷本医師が言う。
「内科、皮膚科、泌尿器科、整形外科など受診した先々の病院で薬を貰い、言われたままにそれを飲んでいるとポリファーマシー(多剤併用による副作用で身体的な影響や飲み忘れ・飲み間違いなどが生じている状態)のリスクが生じます。なかには相性が悪い薬が処方されていたり、似たような効果の薬が重複して処方されていることもある。副作用のリスクを高め、肝臓や腎臓に負担をかけ続けることになるので、余分な薬を減らしていくことが大切です」
ポリファーマシーに関して、長澤さんもこう警鐘を鳴らす。
「6種類以上の併用で有害事象リスクが急増し、10種類以上では転倒リスクが約2倍になるとのデータがある。薬物相互作用は薬の数が増えるほど複雑化します。高齢者の転倒・骨折・認知機能低下・せん妄・食欲不振・尿失禁などが、実は薬の副作用によるものであるケースを『薬剤起因性老年症候群』と呼びますが、治すために飲んでいる薬が、逆に不調の原因になっているケースが実際にあるのです」
薬を「足す」のではなく、原因薬を特定して「引く」ことで、症状が改善することも少なくないと長澤さん。「やめてもいい薬」「やめたら元気になる薬」を具体的に見ていく。
気づきにくい副作用を招く治療薬に注意
現在、日本人の3人に1人が高血圧と言われるなか、多くの高血圧患者が服用する降圧剤にも服用を見直すべき薬があるという。
降圧剤はCa(カルシウム)拮抗薬、ARB、ACE阻害薬が「第一選択薬」として主に選ばれ、降圧の目標数値に達しない場合に「第一次併用薬」としてβ遮断薬、利尿薬、「第二次併用薬」としてα1遮断薬が併用されることが多い。
「いずれの薬も血圧が下がりすぎることによるめまい、ふらつきによる脱力感や転倒に注意が必要です。転倒して頭を打ったり、足や腰を骨折してそのまま寝たきりになってしまうケースもある」(谷本医師)
いま抱えているさまざまな不調が降圧剤の副作用の可能性もある。長澤さんが語る。
「例えばCa拮抗薬では顔や足のむくみ、頭痛、ほてり、歯茎の腫れ、便秘などの副作用があり、“歯周病の治療をしているのに治らない”“下剤を処方されても改善しない”という訴えがよくあります。
ACE阻害薬は飲んでいる人の10~30%に空咳があり、β遮断薬では気力の低下やうつ、だるさ、手足の冷え。利尿剤では足がつる、なんとなくだるいという症状が出る。これらの症状は降圧剤を減らすことで改善するかもしれません」
高血圧と同じく、代表的な生活習慣病である糖尿病も、治療薬の副作用リスクに注意する必要がある。
「SU薬はインスリン分泌を持続的に促進する薬ですが、食事を十分に摂らなくてもインスリンが分泌され続けるため、少し食事量が減っただけでも重篤な低血糖を引き起こす危険性があります。さらに深刻なのが無自覚性低血糖で、加齢により自律神経系の反応が鈍くなっているため、発汗・動悸・手の震えなどの警告症状が出にくい。
腎機能の低下によって薬が体内に蓄積し、数十時間にわたって低血糖が持続する遷延性(せんえんせい)低血糖も高齢者特有のリスクです」(長澤さん)
低血糖によるふらつきで転倒すれば、降圧剤同様、骨折して寝たきりになる可能性がある。
「若い人の場合、将来の失明や合併症予防のために血糖値を厳密に下げる意義があります。しかし高齢者では、残りの人生や生活の質を考えて、血糖値を薬で無理に下げない方が、日常生活を過ごしやすくなる可能性もあるのです」(谷本医師)
コレステロール薬(スタチン系)はリスクが比較的少ないが、やはり「下げすぎ」が心配だと長澤さんは話す。
「代表的な副作用は筋肉が溶けて血液に流れ出る横紋筋融解症。筋肉が溶けた成分が腎臓に詰まり、腎障害などを引き起こすこともあります。
筋肉が溶けること自体は運動で繰り返されていることなので問題ありませんが、運動をしない人の場合、筋力低下がさらに進行することが懸念されます。近年では75才以上での一次予防(未発症者への投与)の有効性は明確でないとされている。コレステロール値がそこまで高くない場合は、見直す選択肢があってもいい」
処方された薬でも定期的に見直そう!
関節痛や腰痛などの症状に処方されがちなのが解熱鎮痛薬のNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)だ。谷本医師によれば、「薬の効果が高いため、リスクがあると説明していてもNSAIDsを希望する人が多い」という。
「血流に影響するので、消化器障害が起きやすく、胃の出血リスクがあります。とくにもともと臓器機能が弱っているケースでは、発熱や脱水の症状があると短期間の使用でも急性腎障害を起こしやすい」
長期服用すると痛みを感じないまま出血が進む「無症候性出血」から、大量出血に至るケースもある。
血栓ができるのを防ぐ目的で処方される抗凝固薬(ワーファリン)もリスクが大きい。長澤さんが言う。
「血が止まりにくくなるので、転倒した際に頭蓋骨内が出血するといった危険なケースが起こり得ます。効きすぎても効かなくても危険なので繊細な管理が必要。近年は別の薬への切り替えが進んでいるので、次に血管が詰まったら命に関わるというような人以外は見直してもいいでしょう」
頻尿などに悩む人が飲む排尿改善薬(抗コリン薬)にも、意外な落とし穴がある。
「口腔乾燥(嚥下困難)、便秘、尿閉、眼圧上昇などの副作用がありますが、注意が必要なのは認知機能障害やせん妄です。もの忘れが実は抗コリン薬の影響だったというケースも多い」(長澤さん)
睡眠薬を長期服用する人も多いが、代謝が落ちている人は「朝まで効果が残って転倒しやすいほか、頭がボーッとして認知症と勘違いされてしまうケースもある」と谷本医師は言う。
「ふらつく、頭がボーッとする、食欲がないといった症状が、実は薬の副作用だったということもあり得ます。とはいえ自己判断で薬を減らすのは危険なので、お薬手帳を使って薬の情報を医師、薬剤師にしっかり伝え、相談のうえで減薬を目指しましょう」(同前)
人間の体はずっと同じ状態ではなく、5年、10年と年を重ねるごとに変化していく。不調の原因が副作用である可能性も考慮して、漫然と同じ薬を飲み続けるのではなく、数年ごとに薬を見直すことが肝要だ。
※週刊ポスト2026年6月26日・7月3日号
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