猛暑で注意したい服用薬|「降圧剤は“効きすぎ”て低血圧に」「利尿薬は脱水症状からの熱中症に」【専門家解説】
連日の猛暑で脱水症や熱中症のリスクが増しているが、見落とされがちなのが「服用薬」だ。夏場に飲むと“効きすぎる”薬があるのだという。注意すべき薬と対処法について医師が解説した。
教えてくれた人
横尾隆さん/医師・東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科主任教授
体調不良の原因は猛烈な暑さではなかった…
都内在住の60代男性が語る。
「先日、庭作業中に立ち上がろうとしたら目の前が真っ暗になって転倒して救急搬送されました。猛烈な暑さだったので、てっきり気温のせいかと思っていたら、医者には『降圧剤による血圧低下が原因の可能性がある』と言われました」
高血圧の持病を持つ男性はACE阻害薬の一種であるエナラプリルという降圧剤を服用していた。
夏は血圧が下がりやすい季節 降圧剤の服用は注意が必要
東京慈恵会医科大学附属病院の横尾隆医師(腎臓・高血圧内科主任教授)が指摘する。
「ここ数年の猛暑で降圧剤による低血圧を招く患者が増えています。夏は血管が広がって血圧が下がりやすい季節。そのうえ、発汗で体内の水分と塩分(ナトリウム)が失われて循環血液量が減り、血圧がより下がりやすくなります。ミネラルバランスが崩れた状態では降圧剤が効きやすくなり、ふらつきや転倒を招きやすくなります。
血圧が急低下すると最悪の場合、脳梗塞や腎障害を引き起こしかねない。年を重ねると暑さや渇きの感度が鈍り、脱水気味なのに自覚症状が出づらくなるので、いっそうの注意が必要です」
降圧剤の代表的な種類であるACE阻害薬やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)は、よく処方されるからこそ猛暑での服用に気をつけたいと横尾医師は言う。
「汗が出て体内のナトリウムや水分量が減ると血圧を上げるホルモンのレニンが活性化しますが、ACE阻害薬やARBは活性化したレニンに反応して効きすぎることがある。また、最近では体内の水分量の減少に合わせて降圧作用が強まる薬が多い。注意したいのは脱水症状をきっかけにした血圧の急低下による脳梗塞や心筋梗塞、急性腎障害です。夏にこれまでと同じ量を服用し続けるとリスクが高まります」
自律神経に作用して血管を拡張するα遮断薬やβ遮断薬、尿の排出を促すサイアザイド利尿薬やループ利尿薬、カリウム保持性利尿薬も夏場に効きすぎてしまうケースがあるという。
「座る、寝るといった体勢から起き上がる際、自律神経が反射して脳に血流を送りますが、脱水状態でα遮断薬やβ遮断薬を服用するとその反射が鈍り、一時的に血圧が下がって立ちくらみを起こす『起立性低血圧』が生じやすい。一方、利尿薬は尿と一緒にナトリウムを排出するので脱水症状が進み熱中症を招きやすくなる。脱水は腎臓に負担をかけるので腎障害を発症するケースもあります」(横尾医師)
服用量は必ず医師に相談
対策には薬を変える、服用量を減らすといった方法がある。
「高血圧以外に合併症などがない人であれば、体内のナトリウムやカリウム量に関係なく作用するカルシウム拮抗薬に変える選択肢があるでしょう。薬を変えると効果が出るのに2〜4週間かかるので、これからさらに本格的な暑さがやってくる前に早めに対応したほうがよい。減薬も効果は期待できますが、くれぐれも独断で服用量を減らすのはやめましょう。必ず医師に相談してください」(同前)
薬を見直すタイミングの目安もあるという。横尾さんが指摘するのは「血圧10以上の変動」だ。
「1週間毎日血圧を測り、上の血圧の平均値が通常よりも10以上下がったら要注意です。20以上下がったら確実にかかりつけ医に減薬か薬の変更を相談してみてください」(同前)
※週刊ポスト2025年7月18日・25日号
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