倉田真由美さん「塗り絵にハマる友人」くらたまね~&らいふVol.18
漫画家の倉田真由美さんは50代半ばにささかかり、今後の人生を充実させる楽しみを模索している。そんな中、10年来の付き合いがある女友だちと会い、新たな希望を感じたという。彼女がハマっていたのはなんと「デジタル塗り絵」だった――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。夫の叶井俊太郎さん(享年56)の闘病から看取りまでを綴った書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
10年来の友人のこと
「今、塗り絵にハマってるんです」
タイ料理店でランチの最中、10年来の女友だちNの口から出た言葉に、私は耳を疑いました。
「塗り絵?」
「はい。昨日も徹夜しちゃいました」
Nは私の5才下、元アナウンサーで現在は専業主婦です。昔一緒にレギュラーだったラジオの仕事で出会い、初日から意気投合して、お互いその仕事から離れてもずっと付き合いが続いています。
「Nちゃん、絵心とか全然なかったよね?」
「はい、まったく。絵は描けません」
Nは若い頃からお酒と飲みの場が好きで、人付き合いも多い賑やかな生活をしていました。明るく元気で話も面白いので、どこの飲み会でも人気者でした。でもここ数年はすっかり落ち着いて、毎日家の中にこもって動画を観てばかりいるとこぼしていましたが…。
「それにしても、なんで塗り絵?絵に興味があったわけじゃないよね」
私はあまりにもNのイメージと合わない「塗り絵」の唐突な登場に、すっかり面食らってしまいました。Nは頷いて、答えました。
「今まで一度も絵に興味を持ったことないです。美術館なんかも行きませんし。塗り絵を始めたきっかけは、存在を知って何となくやってみたというだけなんですけど、これがびっくりするほど私に向いてたんですよ。あ、ちなみに紙じゃなくてデジタル塗り絵です」
デジタル塗り絵…そんなものがあること、知りませんでした。
「どうやって塗るの?」
「私がやってるのは、色は最初から指定されてあるんですよ。区画に分けて数字が振ってあって、その数字の通りに色を塗るんです。手作業で」
「え!自分で好きな色を塗るんじゃないの」
「違います。だから、独創性とか創造性はゼロなんですけど」
でもそれが楽しいんですよ、と私に一晩かかって仕上げた作品を見せてくれました。きれいに塗れてはいるけど、色の指定まできっちりしてあるってそれ、「作業」では…。
「だからいいんですよ、何も考えずに夢中になれて。気づいたら何時間も経ってます」
ここ最近の議題は…
実は私とNは、moをここ最近の議題にしていました。若い頃のように飲み会で騒ぐことも楽しくなくなってしまったというN、その気持ちは私もよく分かります。とどまっていたくても、肉体の加齢と共に気持ちや感受性も変わってしまうんですよね。
「それにしても、塗り絵か…いい趣味見つけたね」
お金も大してかからないし、いつでもどこでもやれるし、楽しみの一つとしてはかなり優秀です。飽きずに続けられるかどうかは、もう少し時間が経ってみないと分かりませんが。
「はい。とりあえず、しばらく時間潰しには困りません」
と、笑顔を浮かべるN。意外な人に意外なものがハマることもあるんだなあと感心しました。
この話は、私にとって希望でもありました。今まで、自分が過去にある程度興味を持ったことがあることしか、趣味にするのは難しいと思っていたから。まったく気にしたこともない、自分でもまさかと感じるようなことでも、新たな楽しみとして人生に迎え入れることができる、これは希望です。可能性が一気に広がるのですから。
とはいえ、私は塗り絵はやらないかな…絵を描くのは好きですが、色を塗るのは昔から苦手で、このコラムのイラストも塗っているのではなく色を「置いている」だけなので…。
