認知症の母の介護で大変なのは「入れ歯の管理」焼きそばをほぼ完食した母に息子が血の気が引いた理由
認知症の母の遠距離介護を長年続けている作家でブロガーの工藤広伸さん。これまでの介護でしんどかったことに「母の入れ歯の管理」がある。入れ歯の破損や作り直しなど帰省のたびに歯科通院をサポートしてきたが、新たな問題が浮上して――。認知症介護における口腔ケアや食事介助の課題とは?
母の「入れ歯」に振り回されてきた9年間
まもなく丸14年になる遠距離在宅介護。「これまでの介護で大変だったことを3つ挙げてください」と言われたら、わたしは迷わず「入れ歯の管理」と答えます。母の認知症が進むにつれ、入れ歯にまつわる想定外の出来事が次々と起こるようになったのです。過去の記事でも何度か触れてきましたが、改めて母の入れ歯について振り返りたいと思います。
2017年、母は口腔カンジダになりました。ピンク色であるはずの口の中が真っ白になっていて、歯科医から白いコケのようなものと説明されたのです。入れ歯の洗浄不足が原因だったので、そこから口腔ケアをしっかりやるようになりました。
その後は入れ歯が何度も割れるようになり、修理のための通院が続きました。歯科医は東京から通うわたしの苦労を気遣ってくださり、入れ歯の強度を上げるためにイチから作り直すことを提案してくれたのです。
訪問歯科に切り替えてみたら…
8か月かかって入れ歯が完成し、これで一安心と思っていたら、今度は上の入れ歯の前歯が抜けたり、母が入れ歯を握りつぶしたりと、トラブルは続きました。これ以上通院を続けたらわたし自身が疲弊してしまうと考え、頼ったのが訪問歯科でした。
訪問歯科に切り替えたことで、通院の負担から解放されただけでなく、入れ歯が割れる原因も判明しました。母の歯は上1本、下3本のみで、あとはすべて入れ歯です。残っていた下の歯が硬く、それより弱い上の入れ歯とぶつかることで割れてしまうようでした。
→認知症の母が初めて訪問歯科を利用して驚いた「レントゲンや治療は母がいつも過ごす部屋で」<実録レポート>
入れ歯が見つからない日は誤嚥の不安も
再び入れ歯を作り直し、かみ合わせを調整してからトラブルはなくなりました。ただ、母には入れ歯を日常的に外す癖があり、ケースにしまわずに、食器棚や冷蔵庫の中など想定外の場所に置いてしまうため、見つけるのに時間がかかることもありました。
入れ歯が見つからない日は、咀嚼できない母が固形物をのどに詰まらせる恐れがあったので、おかゆや歯ぐきでつぶせるレトルトのおかずに変更するなどして乗り切りました。
これ以上入れ歯を壊したり、なくしたりして欲しくない。そう考え、母がひとりのときは入れ歯を外してケースに入れ、食事のときだけわたしやヘルパーさんが装着するようにしたのです。
母と一緒に夕飯には「焼きそば」を
帰省時のある日の夕食のメニューは、焼きそば。以前の母は、焼きそばが苦手でした。どうやら付属の粉末ソースの味が母の口には合わないようで、長らくわが家のメニューから外れていました。
とはいえ、料理が苦手なわたしにとって、肉と野菜と麺を炒めるだけでできる焼きそばは、正直助かる存在でした。認知症が進行した母ならどう反応するのだろうと思い、試しに作って出してみたところ、意外にも「おいしい」と言って完食。それ以来、焼きそばは定番メニューになったのです。
母の食事前には、ルーティーンがあります。まずわたしが料理を仕上げたあと、母がよくこぼすので、使い捨てのエプロンをつけます。その後ビニール手袋をつけ、ケースから入れ歯を取り出して、母の口の中に装着するまでがいつもの流れです。
いつものように仕上げた焼きそばを、母と一緒に食べ始めました。母はいつも以上に「おいしい、おいしい」と言ってくれて、簡単な料理でもこんなに喜んでもらえるのはうれしいと感じていました。そんな母に、食後の話をしました。
わたし:「それ食べ終わったら、アイスクリームあるよ」
母:「あら、アイスあるの!」
アイスが好きな母は、いつもなら食事のペースが上がります。ところがこの日は、テレビを見ながら、口の中でもぐもぐするだけ。少し食べてはまたもぐもぐと、なかなか飲み込もうとしません。
焼きそばをほぼ完食した母に「血の気が引いた…」
どうしてこんなに遅いのだろうと思いながら母の口元に目をやった瞬間、サーッと血の気が引いていくのが分かりました。そうです、食事の前にわたしが入れ歯を装着するのを忘れていたのです。
母は残っている4本の歯で、焼きそばをほぼ食べきっていました。血の気が引いた理由は、焼きそばをのどに詰まらせた母の姿が想像できたからです。あわてて入れ歯を装着してもらい、無事完食しました。
母は重度の認知症なので、入れ歯がないと自分では訴えられません。わたしがしっかり確認しないと、今回のように入れ歯をつけずに食事をしてしまうことになります。確認もれを猛省しながら、わたしは訪問歯科医のある言葉を思い出しました。
「歯が数本しか残っていなくても、歯ぐきで咀嚼できる高齢者もいます」
入れ歯がなくても案外食べられる人もいて、咀嚼の仕方は人それぞれだと聞いていたのです。それを思い出し、少し救われた気持ちになりました。
だからといって、同じミスを繰り返すわけにはいきません。血の気が引いたあの感覚を忘れずに、食事前のルーティーンは徹底していきたいです。
今日もしれっと、しれっと。
