解熱鎮痛薬や糖尿病の処方薬に潜む危険 心筋梗塞&脳梗塞で死亡するケースも【薬を飲んだ後に死亡した症例一覧付き<医師監修>】
どんな薬にも副作用があるが、多くの人が処方される薬を飲んだ後に死亡するケースもある。「薬を飲んだ後に患者が死亡した事例」を収集した大規模データベースを読み解くと、何の薬を飲んで、どんな症状が出たのか、因果関係が浮かび上がってきた。病院・薬局では教えてくれない、身を守るための情報を専門家の解説とともに紹介する。
教えてくれた人
谷本哲也さん/ナビタスクリニック川崎院長、長澤育弘さん/薬剤師
気なく飲んでいる薬に“死に至るリスク”が…
一般的に医薬品の副作用は、医薬品添付文書に記載される。さらに発売後の薬を服用した患者に副作用と疑われる症例が出た場合、医薬関係者が厚労省所管の医薬品などの安全性を司るPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)に報告することが法的に義務付けられている。
その情報は、PMDAのホームページに公開されている。
PMDAの審査専門員を務めたナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也さんが指摘する。
「報告された症例のうち患者が死亡したケースは調査の完了後、薬と死亡の因果関係を『A・否定できない』『B・認められない』『C・評価できない』の3つに分類しています。この評価は担当医師や製薬会社、薬剤師などの意見を踏まえて行ないます」
本誌は谷本さんと薬剤師の長澤育弘さんの協力のもと、PMDAが公表する最新のデータから生活に身近な「薬効分類」の薬について、厚労省が発表している処方数上位の薬について調査。死亡例を抽出して一覧表にまとめた。
糖尿病治療薬の副作用にも注意!異変を感じたら医師に相談を
糖尿病の治療薬では60代女性が「メトホルミン」を飲んだ後に乳酸アシドーシスを発症。その後、死に至ったケースがある。
「乳酸の蓄積または代謝の低下が原因で血中の乳酸濃度が上昇し、体内に過剰な酸が発生する症状で死亡率は5割とされます。体内の乳酸は肝臓の糖新生(ブドウ糖を作ること)により消費されますが、メトホルミンは糖新生を抑制して乳酸アシドーシスを引き起こすと考えられます。乳酸アシドーシスの初期症状には悪心、嘔吐、下痢などの胃腸症状や倦怠感などがあり、進行すると過呼吸や昏睡などの深刻な症状が見られます。服用している際に不安があったらすぐに医師に相談しましょう」(長澤さん)
糖尿病治療薬を飲んだ後に「脳梗塞」を発症、のちに死亡した症例も見られた。
「表にある『エンパグリフロジン』や『イプラグリフロジン L-プロリン』ら4例は比較的新しいSGLT2阻害薬というタイプの薬です。尿からの糖の排泄を増やす薬のため尿量の増加で脱水が進行、血液が濃くなり血栓ができて脳梗塞のリスクが高まる可能性があります。使用する際は十分な水分補給が欠かせません」(長澤さん)
評価の見方
A:被疑薬と死亡との因果関係が否定できないもの
B:被疑薬と死亡との因果関係が認められないもの(今回の表では除外した)
C:情報不足等により被疑薬と死亡との因果関係が評価できないもの (-):調査は完了しているが、まだいずれの評価も記載がないもの
※医療用医薬品の分類ごとに厚労省の「第9回NDBオープンデータ 内服薬 外来(院外)」(2022年4月~2023年3月)から処方数の多い順に当該医薬品の一般名を記し、その一般名に対応する症例を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「副作用が疑われる症例報告に関する情報」の2004年度以降の報告から死亡例を抽出。同データベースの「評価」が「B(被疑薬と死亡との因果関係が認められないもの)」、「年代」が10代以下の症例は表に掲載していない。また、報告に関する情報の「副作用/有害事象」が当該医薬品の添付文書の副作用に掲載されていれば、添付文書の記載を「あり」とした。同一の副作用でも言葉が異なる場合は「あり」の後の( )内に添付文書の言葉を記載した。「転帰」とは、「副作用/有害事象」の発現後の患者の経過や結果のこと。
(PMDA「副作用が疑われる症例報告に関する情報」の「注意事項・項目の説明等」より)
脂質異常を治す薬にも副作用あり
増えすぎたコレステロールや中性脂肪の量を改善する脂質異常症治療薬は、「ロスバスタチンカルシウム」や「フェノフィブラート」を服用した患者が横紋筋融解症を発症した後、死亡していた。
「筋細胞が融解・壊死し、筋肉が溶けていく病気です。身体に力が入りにくくなることで歩行困難になるほか、溶けた筋肉の成分が血中に漏れ出すことで腎機能障害や腎不全が生じるリスクがあります」(長澤さん)