夏場に気をつけたい薬|頻尿治療薬は「発汗を抑制することにより熱中症のリスクが」下痢薬は「不整脈などのリスクも」【医師監修】
今年も猛烈な暑さが続いているが、日常的に服用している薬が夏場では効き目が強くあらわれるケースもあるという。知らないまま飲み続けていると、熱中症や低血圧、光線過敏症のリスクを高める。注意すべき薬と代替薬について医師が解説した。
教えてくれた人
矢野宏行/やのメディカルクリニック勝どき院長、堀正隆さん/薬剤師、横尾隆さん/医師・東京慈恵会医科大学附属病院腎臓・高血圧内科主任教授
利尿作用が強いSGLT2阻害薬は脱水症状に注意!
夏に怖い「服用薬」は降圧剤、糖尿病治療薬、高脂血症治療薬など多岐にわたる。糖尿病や生活習慣病の専門医で、やのメディカルクリニック勝どき院長の矢野宏行医師が言う。
「糖分を尿とともに排出する糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬は利尿作用が強く、1日300~400mlほど排尿量が増えて夏場は脱水症状に陥る恐れがあります。服用する人には1日にペットボトル1本、500ml以上の水分をいつもより多く摂るように伝え、人によって処方量を半減するか6〜9月は中止して脱水のリスクが少ないDPP‒4阻害薬に切り替えるなどの対策をしています」
他に代表的な糖尿病治療薬であるメトホルミン製剤やSU剤も夏特有のリスクがある。
「インスリン感受性を高めて血糖値を下げるメトホルミン製剤は、脱水状態で服用すると乳酸が血中に溜まって血液が酸性に傾く『乳酸アシドーシス』を起こす恐れがある。致死率が50%と高く大変危険です。運動をしていないのに筋肉痛などがあればすぐに医師に相談しましょう。
すい臓からインスリンを分泌するSU剤は夏バテで食欲が減り低血糖状態のところに普段と同じ量を処方すると薬が効きすぎてめまいや立ちくらみなどを起こします」(矢野医師)
高脂血症、痛み止め、頻尿治療薬が熱中症を引き起こす可能性も
高脂血症治療薬を飲んでいる人はスタチン系製剤に気をつけたい。
「肝臓のコレステロール合成を抑え、血中LDLコレステロール値を下げる薬で基本的に安全性は高いのですが、脱水状態で服用すると『横紋筋融解症』を引き起こすことがあります。筋肉が溶ける重篤な病気で、腎障害につながる恐れがあり、運動をしていないのに太ももや腕が縮むような筋肉痛が続いたらすぐに医師に相談してください」(矢野医師)
身近な薬にも注意が必要
痛み止めやアレルギー薬といった身近な薬にも夏に服用するリスクがある。夏場は腎臓に大きな負担をかける薬や、副作用の発汗抑制作用で熱中症を引き起こしやすい薬があるという。
「痛み止めや解熱鎮痛剤として代表的なロキソプロフェンナトリウムなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、腎臓の血管を収縮させる副作用があり脱水状態が進んで腎臓の血流が低下している人が飲むと腎機能の低下から腎不全を引き起こすことがある。夏場は腎臓への負担が少なく安全性が高いアセトアミノフェンへの変更をお勧めします」(矢野医師)
薬剤師の堀正隆さんは、消化管などの動きを抑える抗コリン薬の服用は慎重になるべきだと話す。
「頻尿治療薬や胃腸薬、多汗症を抑える薬、抗パーキンソン病薬など幅広く使われる抗コリン薬は消化管を活性化させる神経伝達物質アセチルコリンの働きを抑える一方、汗を抑える発汗抑制作用があります。夏場に汗をかけなくなると、体内に熱がこもってしまい熱中症リスクが増す恐れがあります。抗コリン薬を使う場合、体温をこまめに測ったうえで、体温が上昇してきたら冷やしすぎに注意し、手のひらを氷嚢で冷やすといいでしょう」
少しでも異変を感じたらすぐに医師に相談することが大切だ。
※週刊ポスト2025年7月18日・25日号
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