「落ち舌」を放置すると老け顔が加速!舌トレの効果とやり方を専門医が解説
鏡を見ると、表情が乏しくなり、疲れて不機嫌そう…。まぶたや頬のたるみ、二重あごなど、加齢が目立つ部位ばかりをケアしがちだが、それでは効果が持続しないどころか、逆効果かも?本当にケアすべきは「舌」だった。顔も体も引き上がる「舌」の鍛え方をお伝えする。
教えてくれた人
桂文裕(かつらふみひろ)さん/耳鼻咽喉科専門医
ましきクリニック院長。「舌がんに対するリンパ球免疫療法」のテーマで医学博士取得。熊本県益城町にクリニックを開設し、数十万人の舌を診察。著書に『舌こそ最強の臓器』(かんき出版)がある。www.mashiki-clinic.com
「落ち舌」の放置がゆがみや不調を招く
「コロナ禍のマスク生活以降、『口元のたるみ』で悩む女性が増えた」と言うのは耳鼻咽喉科専門医の桂文裕さん。30年にわたり数十万人の舌を診てきた桂さんは、その大きな要因は、「落ち舌(低位舌/ていいぜつ)」にあると分析する。
「本来、舌は上あごについているのが正しい位置。しかも、舌先だけでなく、舌の真ん中から後ろまでしっかりついていなければならないのですが、全年齢的に舌力(ぜつりょく)、つまり『舌を上げておく力』が衰えている傾向がみられます」(桂さん・以下同)
舌力低下の原因には、マスクの息苦しさで口が開いてしまったことだけでなく、硬いものをあまり食べない食生活の変化で咀嚼(そしゃく)回数が減ったこと、スマホやタブレットの見すぎによる悪姿勢も関係しているという。
「舌が落ちると口が開いて視線が下向きになり、猫背になる。さらに、のど全体の筋肉が衰え、ほうれい線やマリオネットライン(口元のたるみ)、二重あご、首のしわなどが目立ち始め、フェイスラインもぼやける。舌は、隣接する表情筋やものを噛む筋肉、側頭部の筋肉などと筋膜でつながっているため、頬やまぶたもたるみ、“老け顔”が加速してしまうのです」
舌は300gほどの重さがあるため、加齢とともに上げておくのが困難になるのは事実。だが、落ち舌の影響は全身にも及ぶという。
「体の筋肉は『筋膜』という、ソーセージの皮のような薄い膜に包まれ、それぞれ連動しています。全身には12本の筋膜ラインが張り巡らされているといわれ、下図を見ると、のどぼとけの上にある『舌骨筋群(ぜっこつきんぐん)』を起点に、かかとにある『長趾屈筋(ちょうしくっきん)』までつながっているのがわかります。
落ち舌になると、舌の筋力が低下し、連動する筋膜や骨が影響を受けて、体幹がゆがみます。その結果、姿勢の悪化、頭痛や肩こり、腰痛などが起こります。体幹の筋肉には呼吸筋も含まれているため、肺の機能が落ち、呼吸もしづらくなるという悪循環にも陥ります」
体幹を貫く筋膜のライン
舌骨筋群(ぜっこつきんぐん)
頸部筋群(けいぶきんぐん)
縦隔・横隔膜(じゅうかく・おうかくまく)
腸腰筋群(ちょうようきんぐん)
骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)
内転筋群(ないてんきんぐん)
後脛骨筋(こうけいこつきん)
長趾屈筋(ちょうしくっきん)
落ち舌が進行して「口呼吸」になると、「鼻呼吸」より吸い込める酸素量が少なくなる。すると体に酸素が充分に行き渡らず細胞の活性化が阻害され、アレルギーや認知症発症の要因にもなるという。
落ち舌を放置すると、美容どころか健康面のマイナスも大きいのだ。
「逆に、舌をきちんと鍛えていれば、顔が引き上がるだけでなく、体幹も整って姿勢がよくなり、呼吸も改善できます」
舌力を鍛える「舌トレ」。朝の歯磨きとセットで習慣化
舌は、頭と下あごのバランスを取る役目も担う。
「下あごの骨は、頭蓋骨にぶらぶらとぶら下がっている不安定な形状のため、頭を傾けるたびに舌が振り子のように動き、下あごの位置がずれないように調整しているのです。しかし、舌力が衰えて舌の動きが悪くなると、あごの位置がずれたり、噛み合わせが悪くなったり、顎関節症を引き起こすことも」
健康と美容のために舌を本来の位置に戻し、舌力を鍛えるには、「舌トレ」を行うことが有効だ。
「舌トレをすると舌が上あごにまったくつかなかった患者さんでも、3日ほどでつけられるようになります。最初は、舌がこって痛みを感じることもありますが、朝の歯磨きとセットにするなど、ルーティン化してください。
寝ている間は無意識なので、どうしても落ち舌になりがちです。それでも『舌を上げるぞ、と自己暗示をかけて寝てください』と指導しています(笑い)。冗談のようですが、くせをつけることで変化は起きます。口呼吸になるといびきをかくことが多いのですが、舌トレを実践する患者さんの中には、いびきが減った人もいます」
舌を上あごにつけておくには、充分な唾液量も必要となる。
「舌には吸盤作用があり、接触面が大きく、潤っている状態だと張り付きやすい。唾液を分泌する唾液腺は口の内側にたくさんあるので、舌トレで舌を大いに動かして分泌を促しましょう。ドライマウスのかたは、歯ぐきのブラッシングも◎。市販の歯ぐき用ブラシで5分ほどやさしくマッサージをすれば、サラサラの唾液が大量に分泌されます。朝の歯磨き前に行うのがおすすめです」
落ち舌の改善「ポッピング」を10回やってみよう!
【1】舌が丸まらないよう意識して、舌全体を上あごにギューッと吸い付け、5秒キープ。
【2】舌で上あごを弾くように一気に舌を下にはがし、「ポン!」と大きく鳴らす。大きな音が出れば出るほど効果大。
<「ポッピング」 の効果>
・舌を正常な位置に戻し、定着させる効果がある。
・口呼吸から鼻呼吸に改善する。
舌力を鍛える「高速舌ストレッチ」を30回やってみよう!
【1】両手を体の後ろで組み、胸を張る。少しあごを上げ、舌を「べーっ」とするように下に出す。
【2】【1】の舌を上に動かす。このとき、舌が唇の上の皮膚につくように。【1】と【2】をできるだけ速く繰り返す。続けるうちに舌が出やすくなってくる。
<「高速舌ストレッチ」の効果>
・舌の可動域が広がり、周辺の筋肉も活性化されて顔のたるみが引き上がる。
・声帯がしなやかになり、声が通りやすくなる。歌好きにもおすすめ。
舌トレで声帯が引き締まり、再び美声に
「年齢は声に出る」ともいわれるが、舌トレは声のアンチエイジングにもいい。
「声がかすれ、弱々しくなるのは声帯がゆるんでいるためです。高齢でも声がよく通るかたは、だいたい首元が締まっていて若々しい印象があります。舌トレを続けると首の筋肉が鍛えられ、のどぼとけの位置が上がり、声帯が細く長く引き締まってきます。そうなると、再び張りのある声が出せるようになります。『昔ほど高音が出せなくなった』とあきらめていたかたも、美声は取り戻すことができるのです」
誤嚥(ごえん)性肺炎やフレイル予防にもなる舌トレ。誰でもどこでもできるので、ぜひトライしてほしい。
取材・文/佐藤有栄 イラスト/勝山英幸 写真/PIXTA
※女性セブン2025年6月5・12日号
https://josei7.com
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