窒息のリスクもある“落ちベロ”って?改善する「ベロトレ」を提唱者が解説
近年、病気との関連性が注目されているのが高齢者に多い「落ちベロ」と呼ばれる症状だ。
福岡・みらいクリニック院長の今井一彰医師が解説する。
加齢で舌の筋力が衰える
「舌は200グラム前後の重さがある大きな筋肉ですが、加齢による筋力の衰えにより、舌が通常の位置より下がってしまうことがある。これが“落ちベロ”と呼ばれる症状です」(今井医師、以下「」同)
舌の正しいポジションを覚えよう
「自然に口を閉じた状態で舌が上顎にぺったりくっついているのが正しいポジション。
一方、舌先が前歯の裏側に付いていたり、口内で宙ぶらりんになっている“落ちベロ”の人は、舌の老化が始まっている可能性がある。咀嚼や飲み込む機能の低下を招き、誤嚥性肺炎や食事の際に窒息死を引き起こすこともあるので注意が必要です」
→死を招く誤嚥性肺炎を防ぐ のみ込む力を鍛えるトレーニング法
落ちベロが招く怖いリスクとは
それだけではない。
「落ちベロになると鼻呼吸ができず口呼吸をするようになります。口呼吸によって乾燥した口腔内では病原菌や歯周病菌が繁殖しやすい。最近の研究で、歯周病が脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病、認知症などの危険因子になることが分かってきました。さらに歯周病を患うと、その原因菌が血管を通じて体内を巡り、さまざまな全身疾患のリスクとなるのです」(今井医師)
ただし、この落ちベロはトレーニングでの改善が可能だと今井医師は指摘する。
「筋肉のかたまりである舌は、何歳になっても簡単に鍛えることができる。そのトレーニング法こそ私が提唱する“ベロトレ”です」
落ちベロを改善する「ベロトレのやり方」
ベロトレの基本は「あいうべ体操」と名付けられた口のトレーニング。
「あー」「いー」「うー」「べー」という基本動作を各1秒ずつ10セット、1日3回、繰り返すというものだ。舌そのものを鍛えるだけでなく、口周りや首、表情を作る顔の筋肉も同時に鍛えられる。
より鍛えたいならば「べー」のときの舌出しを3回から10回に増やす。口内が乾燥しないよう入浴中に行なうのもいいという。
「ベロ回し」トレーニングで口臭対策も
今井医師が指導しているもうひとつのトレーニングメニューが「ベロ回し」。
口を閉じて上の歯と唇の間に舌を入れ、自動車のワイパーのように左右にゆっくり舌をこすりつける。下の歯も同様に、これを10回ずつ繰り返すだけなので、マスクをしたまま外出先でトレーニングすることも可能だ。
「トレーニングを続けた結果、落ちベロの解消によって様々な疾患のリスクを避けられるだけでなく、顔の色つやがよくなったり、蓄膿症が改善、口臭がなくなった、あごの肉がスッキリしたなどの反響が寄せられています」(今井医師)
特別な器具が必要というわけではないのでお金もかからず、一般的な筋トレのようにケガのリスクもない。試してみる価値はありそうだ。
教えてくれた人
今井一彰さん/医師。福岡・みらいクリニック院長
イラスト/河南好美
※週刊ポスト2020年10月30日号