倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.15「亡くなる2日前、夫が食べたいとリクエストしたもの」
漫画家の倉田真由美さんの夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎さんは、すい臓がんで2月16日に帰らぬ人となった。最期の日々では腹水がたまり「苦しい」と訴えていた叶井さん。腹水を抜くべきか、食事や治療方針をどうするか――。夫の意思を尊重していた倉田さんが、亡くなる2日前のことを振り返る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
夫の身体は夫のもの
夫は亡くなる2日前、初めて自宅で腹水を抜きました。それまでは週に一度病院に抜きに行っていましたが、移動がきついという理由で自宅に切り替えた初回でした。
この、「腹水を抜く」というのはいいことばかりではなく、医師によっては「体力をごっそり奪うからあまり勧めない」という人もいます。自宅で腹水を抜いてくれた訪問医も、「患者さんが望むなら」という感じで抜いてくれました。
昨年末ごろから溜まり始めた腹水で、お腹はみるみる大きく硬くなり、今年1月上旬には今まではけていたズボンがすべて入らなくなるほどでした。自宅ではゴムの半パンでなんとかなっていましたが、外出するためにはサスペンダーが必要になりました。
身体は痩せているのにお腹はパンパンに腫れ上がって、夫もよく「腹が張って苦しい」「仰向けに寝られない」等訴えていました。
がんによる痛さ、だるさより、波がなく常にその状態である腹水による不調が最もつらそうで厄介でした。少なくとも6、7リットルは入っているだろうと医師にいわれた腹水、さぞ不快だったと思います。
でも正直なところ、私はあまり腹水を抜くことに賛成ではありませんでした。腹水は毒水ではなく栄養等身体にいいものも入っています。しかも抜いてもすぐに元に戻ってしまうのに、その分の栄養を補給するのは大変です。一度に抜いていた量は2リットルか3リットル、確かに一瞬楽にはなるようですが、夫の身体にとっては大きな負担でもあったと思います。
それでも、夫は「一時でも楽になりたい」「腹水を抜いた直後、食べられる量も増える。その時好きなものを食べたい」という気持ちが上でした。私の「少しでも長く生きてほしい」という願いとは異なります。これは腹水の件に限らず、食事や治療方針、様々な選択で衝突しかねなかったところです。でも、夫の身体は夫のもの。私は意見を言うこともありましたが、基本的にはすべて夫が決めました。
夫が食べたいとリクエストしたもの
自宅で腹水を抜いた後、「腹が軽くなった」と夫は嬉しそうでした。気分的なものも大きいのでしょうが、毎回、直後はちょっと元気になります。
ちょうどお昼頃だったので、「今のうちだよ、何食べたい?なんでも買ってくるし、作るよ」と言うと、夫は考えた挙句、「マクドナルドのチーズバーガー、ポテト、ナゲット」をリクエストしました。ジャンクなものが好きな夫らしい選択……複雑な気持ちを抱えながら、買いに行きました。
結局食べられたのは、チーズバーガー3分の1、ポテト4本、ナゲット1個。残りは「娘が喜ぶから」と、娘にあげていました。娘に何かあげる時はいつも嬉しそうな夫。この時も嬉しそうでした。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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