倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.75「言葉にして伝えることを躊躇わないで」
漫画家の倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さん(享年56)は子育てに熱心だった。娘を喜ばせることを常に考えて行動し、自分も一緒に楽める人だったという。そんな夫を失って1年が過ぎ、この春高校生になった娘との生活が始まって――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新著『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)が発売中。
普段心がけていること
普段、心がけているというか習慣になっていることがあります。それは、「相手の言動・行動を、いいと感じたらすぐに相手に伝える」ということです。
先日、バドミントンの大会で娘を少し遠い学校まで連れて行きました。
「夫が生きていたら、夫が行くのになあ」
小学生の頃からバドミントンを習っている娘、大会で都内の大きな体育館や違う学校に行くことはしばしばありました。そしてそのほとんどの引率は、夫の仕事でした。娘だけではなく、同じチームの子どもたちを連れていくこともよくありました。
「たまには私が行こうか」
「いいよ、俺が行く」
夫はいつも、率先して引率を引き受けてくれました。どんなに朝早くても、長丁場でも、むしろ喜んで行ってくれる、そういう人でした。
だから私はその度に、「こういうことを一切面倒がらない、あなたのそういうとこ、いいよねえ」と夫に向かって言葉にして感想を伝えていました。本気でいいと感じていたから。
夫はそれを聞いて特に喜ぶわけでもありませんでしたが、こうやって「あなたのこういうところ、いいね、好きだな」というのを常に言葉にしてちゃんと伝えてきたので、私はその点では後悔が少なくてすみました。
私にはない夫の素敵なところ
夫の素敵なところ、私にはない美点を知るたびに感心し、あるいは感動して「あなたと結婚してよかったよ」と伝えてきました。夫は充分、私からその言葉を聞いてきたと思います。
いいと思った時、躊躇なくそれを相手に伝える。
これは、夫に対してだけではありません。誰に対しても、そうしています。せっかく「素敵だな」と感じたのなら、それは相手に伝えたほうが相手だって嬉しいし、気持ちのいいコミュニケーションを取れます。
伝えないまま、相手がいなくなってしまうこともあります。躊躇はいりません、相手のいいところを見つけたらすぐに言葉にして伝えてあげてください。