倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.14「葬儀と骨壷」
2月16日に亡くなった夫・叶井俊太郎さんの最初の月命日を迎えたばかりの漫画家の倉田真由美さん。末期がんと宣告を受けてからも、普段と変わらぬ様子で過ごす夫と共に歩んできた倉田さんにとって、別れの日は突然だったという。叶井さんを慕う大勢の人が駆けつけた葬儀を振り返る。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
妹たちが決めてくれた葬儀の内容
葬儀について、ほとんど何も考えていませんでした。
夫の希望も聞いていません。夫の存命中に彼の死後のことなんて考えたくなかったし、そのことについて話をするのも嫌でした。こだわりがあれば向こうが言うでしょうし。実際私の祖母は、大腸がんで亡くなる前自分の葬儀について、「お坊さんを5人呼んで欲しい、100人以上入る◯◯の会場で会席をふるまってほしい」等、細かいことまであれこれ要望を出していました。
夫はがんだったから、それも亡くなるかなり前から末期がんと言われていたから、遠くない未来にいなくなってしまうんだろうとずっと覚悟はしていたつもりです。でもいつも、まだしばらく大丈夫、少なくとも今日と明日は絶対大丈夫、と思っていました。端から見た時に急死とは言えないかもしれないけど、私にとっては急な出来事でした。あの日に亡くなるなんて、前日までまったく思っていなかったんです。
夫が亡くなって呆然としている時に、すぐに決めなければならないのが葬儀のことでした。私だけだったらあの時期に葬儀を執り行えていたか分かりません。妹、そして夫の妹が葬儀社との交渉、具体的な内容を決めてくれました。私は予算のことすら碌(ろく)に考えられず、「決めてくれたらそれに従うよ」という感じでほぼ任せてしまいました。
後から振り返ると、「あれはこうすればよかったかな」「これはこっちにすべきだったな」と後悔することはいくつかありましたが、元々夫も私も儀式的なことに強いこだわりがあるわけではないので、「妹たちのおかげでなんとかなった」という感謝の気持ちが一番大きいです。生前に決めておいた方が後悔も少ないのでしょうけど、やっぱり心理的なハードルは高いので、無理に考えたくない人は考えておかなくていいと思います。
「あ!父ちゃんがいない!」
葬儀が終わってうちに戻ってきた夫の骨壷は、夫の使っていた仕事机の上に置いていました。でも先日、骨壷を別の部屋に移動した日に、学校から帰宅後気づいた娘が、「あ!父ちゃんがいない!」と声を上げました。骨壷を自然に「父ちゃん」という娘が健気で胸がいっぱいになり、「父ちゃんは別の部屋にいるよ」と涙を堪えて答えました。
夫に似た娘は、さっぱりとした気質で私のようにメソメソしていません。私にも早く時間薬が効いたらいいのに、と願いながら日々を過ごしています。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
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