猫が母になつきません 第354話「けんがくする」
その介護施設は私の幼なじみがやっています。母もよく知っていて、仲のよい幼なじみのお母さんも週3回デイサービスでその施設に来ています。うちからだと二時間半くらいかかるのですが「母のことをよく知っている人がいる介護施設」という環境は距離なんて楽々と超えてしまう条件でした。ただし、それは私に限ってのことで妹や弟からは「遠すぎる」と不満が出ました。彼らの住んでいる場所からはさらに遠いので。しかし今後の母の状態によって施設を変わる可能性もあるし、とりあえず入門編としてはここにしたいという私の望みを彼らもしぶしぶ受け入れてくれました。見学の日、母はひさしぶりに幼なじみとそのお母さんに会えたことをとても喜んでいて、デイサービスに参加したときも同年代の方たち相手におしゃべりが止まりません。お部屋を見学したときも「陽当たりがいいですねー」「トイレも広いんですねー」とここが気に入ったようなような口ぶり。でも母はただ単に「昔馴染みに会いに来ただけ」で、見学はあくまでも「ついで」。自分が入居するという気はないのです。まだひとり暮らしができるくらいに思っています。帰りの車中でも鼻歌がでるほど母はご機嫌でした。同年代の人たちがいるにぎやかな環境にいれば、母ももっと楽しく過ごせるかもしれない。そんな希望を持ちました。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。