猫が母になつきません 第353話「さいようしけん」
教員採用試験です。全国的に受験の年齢制限の廃止が進んでいるそうですが、80代の受験者はいないでしょう。なぜ教員採用試験を受けるなんて言い出したのかというのは、若いころ先生になりたかったのに親に嫁に行けといわれて果たされなかったこととか、被害妄想で「自分はまわりの人たちに馬鹿にされている」と思っていて、その人たちを見返したいという願望があるとか、いろんな要素が絡まりあってのことなのだろうと思います。「受験票がない」「試験の場所がわからない」、状況はいつも切羽詰まっています。「受験票は来ていないよ」と言うと「学校がちゃんと手続きしてくれなかったんだわ(怒)」。「試験はまだ何ヶ月も先だよ」と言うと「明日だって知らせが来てたんだから!」とお知らせの紙を探し始める。父のお葬式と同じように、ひとつのことにこだわりはじめるといつまでもこだわり続けるという認知症の典型的な症状です。私が「試験受けるなら勉強しないとだめでしょ」と近所の英会話クラブに行っていたときのテキストを出すと、母は「勉強はしなくても大丈夫!」となぜか自信満々で、すでにその先の就職を見据えています。自分が高齢者だという自覚はあるのにもかかわらず、です。母の認知症はいつも私の想像の「斜め上」どころか「異次元」の展開を見せてくるのです。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。