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認知症の母と食べるお餅とカップうどんの絶妙な昼食の話

 認知症などで介護が必要な高齢の親が、「お餅を食べると喉に詰まるのでは…」と心配している人も多いだろう。作家でブロガーの工藤広伸さんも認知症のお母さんと過ごす1月には、お餅を食べることが多いというが、毎回不安は尽きないようで――。

認知症の母とお餅の思い出

 1月は、お餅を食べる機会が多い月。食欲旺盛な77歳の母も、岩手の実家でよく食べています。

 高齢者がお餅をのどに詰まらせて窒息してしまうケースもある中で、認知症介護をしているわが家では、お餅には特に注意を払っています。

 わが家では、真空パックに入った鏡餅をお正月にお供えにしていて、1月10日前後の鏡開きで、お餅を食べます。あるいは、母と離れて暮らす岩手の妹の家でついたお餅を分けてもらって、食べることもあります。

 わたしが小学生の頃は、母がお正月に必ずお雑煮を作ってくれましたし、あんこやくるみだれ、磯辺焼きなど、子どもたちの飽きがこないよう、様々な餅のレパートリーで楽しませてくれました。

 しかし、母の認知症が進行した今は、今日が何月か理解していないので、鏡餅やお飾りなど正月の準備は息子や娘の役割になりましたし、鏡開きも、餅の調理もわたしの仕事になってしまいました。

→認知症の母が作った不思議な夕食に心がざわついた話

母と食べるお餅の昼食は緊張の連続!

 母の飲み込む力はまだ弱っていないように見えますが、高齢者ですし、万が一のことがあるかもしれないという思いから、お餅を食べるときは、他の食材とは比べ物にならないくらい緊張しますし、母の食事の一挙手一投足に気を配る必要があります。

わたし:「今日はあんこときなこで、お餅を食べようか」

母:「あら、おいしそうね」

わたし:「箸で細かくして、ちゃんと噛んで少しずつ飲み込んでよ。のどに詰まらせたら、大変なことになるからね」

母:「はいはい、分かりました」

 母は「分かりました」と返事しますが、数秒後にはわたしの忠告を忘れてしまいます。そのため、餅を細かくちぎっているか、口に運ぶ餅の量は多すぎないか、きちんと噛んでいるか、一気に飲みこんでいないかなど、細かく観察を行います。

 2口目を食べようとしているときも、

わたし:「細かく切ってね。ちゃんと噛んで少しずつ飲むんだよ。のどに詰まらせたら、大変なことになるからね」

母:「分かってます」

 3口目、4口目と、母が餅を食べ終わるまで、この会話のラリーは続きます。何度も注意すると、さすがに母も気づくようで、

母:「大丈夫だから。わたしも母さんを介護したとき、同じだったわ」

 母の話が事実かどうかは分かりませんが、同じく認知症だった自分の母親(わたしの祖母)を介護していた頃、お餅には注意していたようです。

→喉につまらないお餅で「お汁粉」~10分でパパっと介護食作り

カップうどんがもたらした休息の時間

 この日の昼食は、餅だけでは足りない気がしたので、カップうどんを用意しました。料理が上手で、インスタントや冷凍食品を使うことがなかった母は、インスタントの味が珍しいようで、たまに作ってあげると大喜びします。

 喜んでもらうためのカップうどんでしたが、このうどんがわたしにとって大きな「救い」になったのです。

 母が餅を食べている時は、注意深く観察する必要があるので、自分の餅が食べられません。しかし、母がカップうどんを食べているときは、観察を止めても大丈夫なので、自分の餅を食べることができます。

 また、命の危険を感じながら、食事の観察をするとかなり疲れます。しかし、うどんのおかげで休息時間ができ、緊張感から解放されて、わたしもゆっくり食事ができました。まさか、カップうどんに救われるとは、思ってもいませんでした。

高齢者が食べるお餅の工夫

 高齢者の中には、お餅を食べないと、新年を迎えた気がしないという方もいますし、お餅が大好きな方もいます。

 我が家の新年は、必ずお餅を準備する必要はないのですが、母にお正月気分を味わって欲しいので、たまには食べてもらいたいと考えています。こうした思いから、高齢者に優しいお餅はないか、探したことがあります。

 お餅の風味は残しつつ、歯切れのいい触感のある、飲み込みが苦手な方でも食べられるお餅や、しゃぶしゃぶのようにして食べる薄いお餅、ねばりやくっつきが抑えられたお餅など、高齢者でも安心して食べられるお餅は、数多く販売されています。

 また、介護施設などではお正月のイベントとして、杵や臼を使って餅つきをして、昔懐かしい演出をしてくれるところもあります。施設ではもちろん、餅の安全対策は徹底されているので、家族がムリに餅を提供する必要はないかもしれません。

→硬くなった餅をトロトロにやわらかくする方法

 認知症が進行しても、大好きだったお餅を食べてもらいたいと考える介護者もいると思います。食事中の見守りを強化しつつ、餅を細かく切るなど調理方法を工夫したり、のどにひっかからないお餅を選んだりして、安全にお餅を楽しむとよいかもしれません。

 現在は、母が住む岩手・盛岡の実家に介護帰省するため、前回と同様に岩手のビジネスホテルで健康観察中です。今年は実家に鏡餅が飾ってあるかどうか分かりませんが、もしあったらカップうどんを用意して、母とお餅を楽しみたいです。

 今日もしれっと、しれっと。

→コロナ禍の介護帰省で実践した3つのこと

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

●認知症の母と祝うクリスマスの食卓が不思議なメニューの深い理由

●認知症の母がコロナ禍で”マスクしねばねぇの?”と言う意味は…

●認知症の母が料理に使うフライパンに謎の傷がつく不穏な話

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この記事へのみんなのコメント

  • デ・アイより

    大寒波…積雪量はいかがですか?  困難な事が多いけど、しれっと  サポートしてきてくださ〜い。

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