連載

認知症の母と祝うクリスマスの食卓が不思議なメニューの深い理由

 今日はクリスマス。コロナ禍の今年は聖なる夜を静かに過ごすという人も多いのでは。岩手・盛岡に暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さんは、毎年母と過ごすクリスマスについて教えてくれた。クリスマスケーキと一緒に食べたものは…。

クリスマスは母か妻か…優先順位は?

 新型コロナウイルスの影響で、いつもと様子が違う今年のクリスマス。わが家も、例年とは違うクリスマスになりました。

 岩手の母と東京に居る妻。どちらと一緒にクリスマスを過ごすかというと、妻です。そのため、クリスマスは東京に居る前提で遠距離介護のスケジュールを決めていて、12月20日前後あたりまでは、岩手にいることが多いです。

 母の介護の発信ばかり続けていると、優先順位は常に母が上と勘違いされがちですが、クリスマスに限らず、常に妻が優先されます。例えば、妻が膠原病で2か月入院したときも、妻のスケジュールを優先して、母の遠距離介護の日程を決めました。

 こうした優先順位を日頃から意思表示しておくと、大事なときに親の介護を優先している、わたしより嫁を大事にしている、といった小さな争いは避けられるかもしれません。

も っと言うと、自分自身が倒れないようムリのないスケジュールを組むことが、母のためでもあり、妻のためでもあります。

 コロナの感染拡大が止まらない今、岩手と東京を気軽に往来できる状態ではありません。そのため、2020年のクリスマスは、聖なる夜の雰囲気が全くない時期に行いました。

クリスマスより雪かきシーズンが大変…

 1年の遠距離介護の中で、絶対に実家にいなければならない時期があります。それはクリスマスでも年末年始ではなく、1月から2月にかけてです。岩手は雪が積もるため、誰かが雪かきをしなければならないからです。

 母は足が不自由で雪かきできませんし、ヘルパーさんにお願いしようにも、雪かきは介護保険サービスには原則含まれません。市のボランティア雪かきもありますが、希望の日時に雪かきしてもらえない可能性もあるため、わたしが長めに帰省して対応します。

 コロナ禍の遠距離介護は、東京に2か月滞在したあと、岩手に1か月のペースで行っています。わたしの講演会の日程も考慮した結果、岩手に居られる年内最後の日は11月5日になってしまったのです。

2020年のクリスマスの過ごし方

 クリスマスは1か月以上先なので、今年はやらなくてもいいかなと思ったのですが、帰京する前日にクリスマスを決行しました。

 なぜかというと、 コロナの影響で外食する機会がほとんどない1年だったので、年の最後くらいは豪勢にお祝いしようと思ったからです。

 実家近くのケーキ屋さんに行ってみると、ショーケースにはたくさんのショートケーキが並んでいました。しかし、クリスマスケーキはありません。

 クリスマスでなければ、ショートケーキ2個を買って帰るところを、クリスマスの雰囲気を出すために、2人分のサイズのショートケーキを注文しました。

 店員さんが「お誕生日用ですか? チョコレートプレートはどうされますか?」と微笑みながら質問してきたので、わたしは「ここで、メリークリスマスでお願いしますと言ったら、店員さんどう思うかな」なんて想像しながら、プレートはお断りしました。

 わたしが小学生の頃は、母が手の込んだチキンとたくさんの料理、時にはケーキを焼いてくれたものです。しかし、認知症が進行した今は、チキンもケーキも焼けなくなってしまったので、わたしがクリスマスケーキを購入するスタイルに落ち着きました。
 
 ケーキを買った帰り、近所のスーパーで「少し高めの」そばも購入しました。

クリスマスランチはケーキと…

 その日のランチは、そばとクリスマスケーキでお祝いです。

 なぜ、高めのそばを購入した理由は、大晦日も一緒にやってしまおうと考えたからです。年末年始も一緒にいられないので、年越しそばも一緒に食べて、クリスマスと大晦日を同日開催にしました。

 母も意味が分からかったようで、

母:「今日は何のお祝いなの?」

わたし:「盆と正月がいっぺんに来たじゃなくて、今日はクリスマスと大晦日が一緒に来ました~」

 食欲が旺盛な母は、年越しそばもケーキもペロッと食べてしまいました。

クリスマスディナーは豪華なお寿司を…

 その日の夕方のことです。

「こんばんは、寿司屋です」

 わたしが出前を頼んでおいた、うにやいくらや大トロが入った特上寿司が2人前到着。この寿司でさらに、新年のお祝いまでやりました。

 本当は、2日に分けてイベントを開催するつもりでした。しかし、帰京前に母がご飯を3合も炊いてしまったため、ご飯の消化に時間がかかり、すべて1日に詰め込むことになってしまったのです。

なぜ毎年クリスマスを母と祝うのか?

 もし、母が認知症になっていなかったら、軽く外食に行く程度でクリスマスは済ませていたと思います。母娘の関係にはないことかもしれませんが、息子が母とクリスマスを祝うことに、正直恥ずかしさがあります。

 恥ずかしさもなくクリスマスをお祝いできるのは、母がクリスマスをやった直後から忘れてくれるからです。いつも「今日はごちそうだったけど、なんで?」となります。いい具合に忘れてくれることで、わたしも照れずに堂々とクリスマスのお祝いができます。

 クリスマスケーキに灯したろうそくの火のように、母の記憶がフッと消えてしまうのは寂しいものです。恥ずかしいけれど、クリスマスケーキを食べて、おぼろげでも季節感を取り戻してくれれば…。

 これからもずっと、母とクリスマスを楽しもうと思います。

 今日もしれっと、しれっと。

→ひとり暮らしの認知症の母が準備した朝食が切なすぎた話

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

●認知症の母がコロナ禍で”マスクしねばねぇの?”と言う意味は…

●認知症の母が作る謎の料理「ゴールドブルー風」に衝撃を受けた話

●認知症の母が作る朝ご飯の目玉焼きともやし炒めに違和感…

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