ケアマネジャーとうまくつき合うには…いいケアマネって?|訪問看護師がアドバイス
親の介護が始まって、つきあい始めるのがケアマネジャー(以下、ケアマネ)。キーパーソンともいえるだけに、関係がうまく行かないと介護に大きな影響が出る。看護師として700人以上を看取り、今は訪問看護師として、ケアマネと患者や家族の関係にも接している宮子あずささんがアドバイスを語ってくれた。
ケアマネジャーは何をする人か
●ケアマネは介護ネットワークの中心的存在
ケアマネは、介護のハブ、つまりネットワークの中心です。工務店の現場監督のようなものですね。
家を建てるには、大工さんだけでなく、いろいろな専門家が必要です。基礎のコンクリート、足場、塗装、サッシ……。現場監督は彼ら専門家を集め、采配を振るいます。また現場監督は、施主との窓口でもあり、施主は現場監督を通じていろいろな依頼をします。ケアマネは、そういう大事なポジションです。
ケアマネとうまく行かない場合はどうしたらいいか
「ケアマネさんに本当に良くしてもらった」と感謝している人がいる一方で、「担当のケアマネがあんまり動いてくれないから」と悩んでいる人もいるようです。
介護サービスに不満を持っている場合は、ケアマネとの関係に問題があることが多いのです。
「担当のケアマネが思うように動いてくれない」と悩んでいる場合、なぜそう思ってしまうのでしょうか。
●「やるケアマネ」「やらないケアマネ」がいる
訪問看護でうかがっている利用者さんの例で、ケアマネによって仕事のしかたが違うというお話をしましょう。
ケアマネのTさんは、自身で介護タクシーの予約をしていました。この利用者さんは、1週間単位のショートステイを頻繁に利用していて、ショートステイの合間には病院に行きます。また、訪問看護も頼んでいて、看護師が(これは私ですが)通っていました。つまり、ショートステイ、介護タクシー、病院、ヘルパー、訪問看護のスケジュールが、すべて連動しているのです。
このとき担当していたケアマネのTさんは、ハブである自分がタクシーの調整するのがスムーズだと考えていたのだと思います。ショートステイと病院の予約を入れて、ヘルパーと訪問看護師に連絡し、介護タクシーの予約を取るというわけです。
ところが、プライベートの事情で、Tさんが辞めてしまいました。後任のケアマネは、「自分に定められた範囲の中で仕事をする」という考え方で、介護タクシーの予約は、ケアマネの仕事ではないのでやらない、ということになりました。「やらない」のは間違ってはいるわけではありません。
どんな仕事でもそうですが、それぞれの人のスタイルがあります。
特にグレーゾーンが多いケアマネの仕事は、その人のスタイルに左右されることが多いといえます。フットワーク軽く、何でも自分でやってしまう人もいれば、自分から動かない人もいる。
事業所ごとの内々の決まりの違いもあります。事業者によっては、方針がはっきりとマニュアル化されていないところもあるので、やはり個人のキャラクターによって変わってきます。
●親切なのがいいケアマネとは限らない
フットワークのいいケアマネが、誰にとってもいいケアマネか、というとそうではありません。あまり介入されずに自分たちで進めたいと思っている利用者にとっては、動かないケアマネのほうがいいこともあります。
ときには、病院の受診にまで付き添ってくれる親切なケアマネもいたりします。しかし、利用者に親切なのが必ずしもいいケアマネとは限りません。「親切」はできるときとできないときがあるからです。
受診が大変だから私が一肌脱いでしまおう、というより、ヘルパーを頼むという形を取ることのほうが、安定したサービスを提供し続けるためには必要なわけです。
激務のケアマネに頼んでもいいのか
そもそもケアマネの仕事は激務です。事業所によっても異なりますが、一人のケアマネが100人を受け持っていることもあります。それぞれの人に対応していくのですから、相当の忙しさです。
●ケアマネができること、できないことを確認していく
ただし、家族の側が、希望していることを言わずに不満をため込んで、「やっぱりやってくれないんですね」と腹を立ててしまうのは、不幸なことです。
言葉にしなければわかりませんから、むしろ積極的に聞きましょう。「これは、やってもらえますか?」と聞けば、向こうはできるならやってくれるし、だめなときは、「それはできません」と答えます。
そうやって、家族側が希望していること、ケアマネができることとできないことを、お互いに確認していけば、「担当のケアマネが動いてくれない」という不満は少なくなっていくのではないでしょうか。
●家によって判断して変えている場合もある
また、ケアマネによっては、Aさんの家の介護タクシーは(ケアマネ自身で)予約するけど、Bさんの家は自分たちで予約してもらったほうがかえっていいかもしれない、と判断して使い分けていることもあります。
介護する家族の側としては、いつも何でもやってもらわなくてもいいから、必要なときは対応してほしい、と思っているのではないでしょうか。
そういう気持ちを伝えて、ケアマネとしっかり意思の疎通をすることが大切です。うちではケアマネに「丸投げ」しているのではなく、家族でできることはがんばるのだと、きちんと見せて伝えることです。「協力して介護していく」というスタンスのほうが、ケアマネも安心して仕事を進められて、うまく行くでしょう。
●相性が良くない場合、性別で抵抗がある場合もある
ただし、人間なので相性もあります。こればかりはどうしようもありません。「なんだか、このケアマネとは合わないな」という場合は、大概向こうもそう思っているはずです。
最近は、男性のケアマネも増えて来ました。しかし、女性の利用者で、しもの相談などをするのにも、男性では困るという人も多いようです。男性の利用者で、男性のケアマネに抵抗がある人もいます。一般に、男性に介護されるということには慣れていないのですね。男性につとまるのかと感じてしまう年配者も多いのは事実です。
それはどうにもならない部分もあるので、ケアマネを替えてもらいたいと相談するといいでしょう。
替えたいと言ってはまずいのではないかなどと思って、我慢していなくてもいいのです。ケアマネの所属する事業所の管理者に連絡してみましょう。事業所の方針と合わないなら、地域包括支援センターに、交替を依頼します。
ケアマネとのつきあいかたのまとめ
●ケアマネはハブ。介護サービスへの不満はケアマネとの関係に問題があることが多い
●その人のスタイルによって仕事のしかたが違う
●親切なのがいいケアマネだとは限らない
●スタイルによっても事業所によっても仕事のしかたは違う
●「これはやってもらえますか?」と聞いて、ケアマネができることとできないことを確認
●相性が合わない場合は、ケアマネもそう思っていることが多い
●性別の問題で困るという場合は、どうにもならないことが多い
●ケアマネを替えてもらいたいなら、事業所や地域包括支援センターに相談してみる
今回の宮子あずさのひとこと
●ケアマネがリモコンの電池やトイレットペーパーを買いに行くことも
ケアマネが一人暮らしの年配者の家に様子を見に行くと、電池が切れているせいでエアコンがつかないということがあったとします。
リモコンの電池を買いに行くことは、ケアマネの仕事ではないけど、見つけてしまったら買いに行くという場合は多いでしょう。
多くの高齢者が、新型コロナウイルスの流行で外出できないために機能低下したり、酷暑で体調をくずしたりしています。それに伴って、ケアマネの仕事も大変になっています。ショートステイの手配もしなくてはならないし、一人暮らしの家に行ってみて調子が悪かったら、受け入れてくれる病院を探して連れて行かなくてはならないこともあるわけです。
自粛期間中、ドラッグストアに行列して、トイレットペーパーを買ったというケアマネさんもいました。買い物はケアマネの仕事ではないと言っても、一人暮らしで紙がなくて手で拭いているというような高齢者の暮らしを目の当たりにしたら、買いに行かざるをえなかったのはよくわかります。
●家族がいる家庭には、そこまで手を差し伸べられないことも
今回、自分でやってしまうケアマネがいいわけではないというお話をしました。しかし、なんとか一人暮らしをしていたのに、生活が立ち行かなくなった高齢者を支えるために、ケアマネが動かざるをえない、ぎりぎりの状況があることも確かです。
一方、家族と同居している利用者には、そこまで手を差し伸べられなかったりします。日本の福祉の限界とも言えますが、ケアマネが、家族がいる家庭には、家族の協力を期待してしまうことになるのです。
こうした状況がいつまで続くか、今のところは見通せません。
お互いにできることとできないことを率直に伝えながら、少しでも無理なく乗り切っていきたいですね。
教えてくれた人
宮子あずさ(みやこあずさ)さん/
1963年東京生まれ。東京育ち。看護師/随筆家。明治大学文学部中退。東京厚生年金看護専門学校卒業。東京女子医科大学大学院博士後期課程修了。1987年から2009年まで東京厚生年金病院に勤務。内科、精神科、緩和ケアなどを担当し、700人以上を看取る。看護師長を7年間つとめた。現在は、精神科病院で訪問看護に従事しながら、大学非常勤講師、執筆活動をおこなっている。『老親の看かた、私の老い方』(集英社文庫)など、著書多数。母は評論家・作家の吉武輝子。高校の同級生だった夫と、猫と暮らしている。
構成・文/新田由紀子
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