入院しただけで認知症に…筋力や活力の低下も “病院頼み”の弊害
日本人がいかに“病院好き”であるかを示す、こんなデータがある。2018年のOECD(経済協力開発機構)の統計では、日本は入院・外来を行う病院の数が約8400と、世界で最も多い。約3倍の人口を抱えるアメリカですら約6200で2位というから、日本は世界で最も“病院に通いやすい”国だといえる。“病院好き”はもはや国民性ともいえそうだ。
「慢性疾患や急な体調不良などで足を運ばないわけにはいかない」という人も多いはずだが、その治療や投薬が、いま本当に必要なものなのかどうかを一度しっかりと見つめ直してみてほしい。“ちょっとの不調”で病院に行ったはずが、過剰な検査や薬によって、さらなる不調を招き悪循環となってしまうことにもなるのだ。
→「とりあえず病院へ」病院好きの日本人がクラスターをつくることも
入院しただけで認知症になる
一日中病室で暇を持て余し、味気ない病院食だけを食べて過ごす。そんな入院生活も、心身に悪影響を及ぼす可能性がある。その代表例として注目されているのが「フレイル」と呼ばれる状態だ。
→フレイルとは?予防する3つ対策、心理的、社会的フレイルも要注意
長期にわたる慢性疾患や投薬、入院によって、よくなったり悪くなったりを繰り返しながら心身が衰え、健康と要介護の中間の状態になることをいう。特に、骨折などでベッドから出られなくなったりすると、「サルコペニア(筋力低下)」を起こし、寝たきりになるケースもある。それに伴って脳神経系の機能低下につながることもある。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。
→健康長寿を脅かす「フレイル」とはいったい何? その5つの診断基準とは
「日本は健康保険が充実しているので患者の入院費負担額が安く、病院側もベッドに空きをつくりたくないがために、安易な入院が選択されがちです。家族が海外旅行に行くときに、“高齢の親を家にひとり残していくのが心配だから”といって、脱水などの適当な理由をつけて入院させていたら、帰ってきたときには、元気だったはずの親が自立した生活ができないほど体が弱っていた、という話もあります」(室井さん)
特に多いのが、白内障などの検査入院。「ホテルに泊まるより安いから」「遠方の名医にかかるのに、移動が面倒だから」と、ホテル代わりに入院しようとするケースもある。“病院好き”も、ここまでくると本末転倒だ。新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんが話す。
「現在、高齢者医療にかかわっているなかで、実感として高齢者に多いのが、骨折による入院です。できるだけ体を動かさずに、寝たきりでじっとしていなければならず、この環境が特に筋力や認知機能に悪影響を及ぼします。骨折で入院して、退院する頃にはゲッソリやせてしまう人は少なくありません。そこにきて、いまは新型コロナウイルス対策のために、病院も介護施設も面会を全面的に禁止してきました。入院や入所している高齢者は見るからに元気がなくなっています。“面会禁止が解除され、ようやく会った高齢の親の認知症が進んでいた”という話は、枚挙にいとまがありません」(岡田さん・以下同)
もちろん、誰しも苦しい検査やつらい治療を受けたいわけではない。しかし、それでも「放っておく方が不安で、ストレスを感じる」という日本人の根深い“病院信仰”には、大きな問題がある。
「“病院好き” “薬好き”は、日本人に限った話ではありません。でも、日本人が海外の人に比べて圧倒的に病院通いが多いのは、健康保険制度による医療費の安さに加えて、“不安だったら検査すればいい” “とりあえず病院に行けば医師がなんとかしてくれる”という考え方が染みついているからです」
病院自体に潜む危険を正確に認識せず、感染症リスクが高まっている現在、「なんとなく」で病院に通い詰めるのは愚策といえないだろうか。リモート診察や処方箋の郵送など、自宅から医師の判断を仰ぐことができるようになったのは、不幸中の幸いだ。スマートに病院を活用する時代の流れについていこう。
※女性セブン2020年7月30・8月6日号
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