フレイルとは?予防する3つ対策、心理的、社会的フレイルも要注意
「フレイル」とは「虚弱」を意味する言葉で、要介護の一歩手前の状態のこと。「フレイル」は、人生100年時代を迎えた日本で、いつまでも元気で暮らしていくためのカギになるといわれている。「フレイルチェック」で自分の健康状態をしっかり把握し、フレイルから要介護へと進む時間を少しでも遅らせるべく、日々の生活を見直そう。
平均寿命と健康寿命、その差は女性で約12才、男性で約9才
世界一の長寿を誇る日本。だが、平均寿命と健康寿命には大きな差がある。
2016年の日本人の「平均寿命」は、女性が87・14才、男性が80・98才だったが、元気に自立して日常生活を送ることができる「健康寿命」は、女性が74・79才、男性が72・14才で、その差は女性で約12才、男性で約9才もあった。
「健康長寿を目指すなら、この差をできるだけ埋めることが重要です。日常生活におけるさまざまな老化のサインを早期に発見し、加齢による生活機能の低下を予防することが大切なのです」
そう話すのは、東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢さんだ。
健康→プレフレイル→フレイル→要介護へ進行
「フレイルとは、日本語では『虚弱』という意味です。虚弱という言葉には、マイナスイメージが強いため、明るく、前向きな気持ちで予防意識を高めてほしいという思いを込めて、日本老年医学会が2014年にこの言葉を作りました。フレイルは、『健康と病気・要介護状態の間』を指しており、その前段階を『プレフレイル』といいます」(飯島さん・以下同)
一般的に、高齢者は健康な状態から、まずプレフレイルになり、フレイル、要介護へと徐々に進行していく。
「しかし、プレフレイルやフレイルの状態を発見して、適切な対策を行えば、現状を維持したり、元の健常な状態に戻すことも可能です。つまり、フレイルとは、健康に戻ることができるポジティブなものなのです」
身体的なフレイル以外に「心理的フレイル」「社会的フレイル」も
これまで体の老化予防といえば、ウオーキングや筋トレなど体を鍛えることが中心だったが、フレイルを予防するには、これだけでは不充分。
「フレイルの最も大きな原因の1つが筋肉の衰えですから、運動を定期的に行った方がいいのは明らかです。しかしフレイルには、『身体的なフレイル』に加え、心の問題である『心理的フレイル』や、社会や人とのつながりを失うことで起きる『社会的フレイル』も、かなり大きなウエートを占めていることがわかってきました。定年でリタイアして外出の回数が減ると、人とのつながりや行動範囲が狭まります。このように社会とのつながりを失うことが、フレイルの入り口であることもわかってきています」
そして、以下の3段階を経て要介護状態へと進行していく。
第1段階では、社会とのつながりを失い、生活範囲が狭まると、やる気の低下やうつ病などの心の問題も生じてくる。
第2段階では、食生活のバランスが崩れ、口腔機能の低下で充分に食べられなくなる。
そして、第3段階でますます体が衰え、判断力や認知機能の陰りが現れ始める。このように多面的な衰えが絡み合いながら要介護状態へと進行していく。
フレイル予防の対策
フレイル予防の具体的な対策は、以下の3つが有効だ。
【1】社会参加:仕事やボランティア、趣味などで人とかかわる。
【2】運動:体を動かし、筋肉を鍛える。
【3】栄養:しっかり噛んで、しっかり食べる。
仲間と一緒に運動をすれば【1】【2】がクリアでき、その後に栄養価の高いものを食べれば、同時に【3】までクリアできるため、これは健康長寿の3つの柱と呼ばれており、この3つをバランスよく実践することが望ましい。
「運動で体を鍛えるのに加え、頭を使ったり、地域活動に参加することもフレイル予防に大きく役立ちます。リスク要因を見つけて改善していけば、フレイルからの脱却も予防もできます」
千葉県柏市で約5万人を対象に運動を定期的に行う「身体活動」、囲碁・将棋、手芸などの足腰はあまり使わないが頭を使う「文化活動」、社会的な「ボランティアや地域活動」という3つの活動と、フレイルリスクの関係を調査した結果が上のグラフだ。
「3つとも行っている人を1とすると、『運動のみ』を行っている人(上グラフの右から2つ目)のリスクが6.42倍、『運動以外の2種』を行っている人(同じく、左から4つ目)のリスクが2.19倍に。運動だけしていたのでは、フレイル予防にはならないのです」(飯島さん)。
西東京市で進むフレイル予防
健康長寿に向けた取り組みがどんなに優れていても、高齢者自身が取り入れたいと思わなければ効果は期待できない。
そこで、飯島さんが考えたのが「市民の手による、市民のための簡易フレイルチェック」だ。
「健康長寿にとって大切な情報は、巷にあふれているので、知識としては知っていても、どこか他人事で実行していない人がほとんどです。そこで、フレイル対策を医療や介護の専門家が指導するのではなく、元気な高齢者にサポーターとして協力してもらうようにしました」(飯島さん・以下同)
同世代の人の頑張っている姿を見たり、彼らから「フレイルの怖さを身につまされている」「口腔フレイルを知って、歯医者さんに定期的に行くようにした」などの話を聞くことで、フレイルを自分事として捉えやすくなるというのだ。
この取り組みに賛同し、2017年から市民を対象にフレイル対策に取り組んでいる東京都西東京市では、導入から約2年半経った今も、毎週のように市内で「フレイルチェック」を行っており、延べ1000人が受けているという。
同市健康福祉部の徳丸剛さんは、
「フレイルチェックは、自分でフレイル状態を確認するプログラムです。フレイルサポーターは、これまでに男女合わせて104人が養成され、中心は60代。会場を運営し、正しく判定するためのポイントを確認してサポートするのが役割です。また、チェック結果は東京大学の研究に使われるというアカデミックな側面があり、サポーターのやりがいになっているようです」と笑顔で話す。
夫婦でフレイルチェックに参加した86才の男性は、普段からウオーキングを欠かさず、体力に自信があったが、運動習慣がなく文化活動が好きな妻(82才)よりもフレイル危険度が高くてショックを受けていた。しかしそれを機に習慣を改善することで半年後にはフレイル危険度が下がったという事例もある。
「自己流の健康法ではなく、本当に必要なものに気づいて行動したことが、よい結果を生んだのでしょう。ひざや腰が悪かったサポーターの女性が、和式トイレを使えるようになるなどの改善報告もあります。フレイルチェックを受ける人も、サポートをする人も、みんなが元気になっていく、これは、楽しくてうれしい取り組みです」(徳丸さん)
教えてくれた人
飯島勝矢さん/東京大学高齢社会総合研究機構教授
イラスト/坂木浩子(ぽるか)
※女性セブン2019年10月24日号
https://josei7.com/