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田村正和はモテ男の象徴!?出演ドラマから紐解くそのスター性【水曜だけど日曜劇場研究】

「日曜劇場」を歴史をさかのぼって紐解くシリーズ第6回は、主演本数歴代第1位の田村正和を取り上げる。シリアスからコミカルに役のイメージの幅を広げていく過程を、ライター・近藤正高氏が追う。そこにはある人物の存在が!

田村正和は圧倒的スターだ

 スター俳優が不在といわれて久しい。そもそもスターをスターたらしめる条件とは何だろうか? そう考えたとき、私がまず思いつくのは、「どんな役を演じても、その人以外の何者でもない」ということだ。極端なことをいえば、演技力以上に存在感こそ、スターに欠かせない条件なのではないだろうか。スターといわれる俳優を思いつくままにあげてみても、石原裕次郎、勝新太郎、高倉健、吉永小百合、あるいはビートたけしあたりも含め、みな、この条件に当てはまることがわかるはずだ。

 ただ、最近では、小劇場をはじめ舞台出身の俳優が活躍する機会が増えたせいか、一般の人たちのあいだでの俳優を評価する基準はもっぱら、どんな役にもなりきれることに置かれているような気がする。さまざまな役を鮮やかに演じ分ける俳優が「カメレオン俳優」などとことさらにもてはやされるのは、そうした傾向の表れだろう。

 一方で、俳優の存在感は軽視されているというか、ともすれば煙たがられることさえある。昨年のNHKの大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』では、落語家・古今亭志ん生役として、ビートたけしがあきらかにその存在感から起用されたにもかかわらず、「滑舌が悪い」などと批判も目立った。あるいは木村拓哉は、「どんな役を演じても、その人以外の何者でもない」という意味で正しくスターへの道を歩んでいたが、今年1月に主演したスペシャルドラマ『教場』(フジテレビ系)では白髪にするなどしっかり役づくりしていたのを見ると、どうも“演技派”に転向しようとしているふしがある。

 話が横道にそれたが、田村正和という俳優は、スター不在といわれる時代にあってスターであり続けた稀有な存在であった。田村は本連載のテーマであるTBS系の「日曜劇場」でも、1993年に連続ドラマ枠となって以降では歴代最多の8作で主演を務めていることは、すでに前回触れた。

→第5回を読む:「SMAPの全員が主演していた!主演本数歴代2位はキムタク、1位は?」

田村正和はモテる男の象徴だが、私生活は謎

 かつて田村正和は、モテる男を象徴する記号のような存在であった。何しろ80年代には、田村が、女の子にふられた息子に向かって「お父さんだって言うほどモテないんだぞ」と言い放つCMがあったぐらいである。当時子供だった私はそれを見るたび「ウソだーい」とツッコんでいたものだ。子供にまで“田村正和=モテる”というイメージは浸透していたのである。

 それだけに田村はドラマでもよくモテていた。『パパはニュースキャスター』(TBS系、1987年)では、彼が演じる独身のニュースキャスターの前に、娘を名乗る3人の少女(いずれの母親も昔、彼が酒の席で口説き落とした女性だという)が現れたことから騒動が巻き起こった。あるいは、オール現地ロケが話題を呼んだ『ニューヨーク恋物語』(フジテレビ系、1988年)では、ニューヨークでバーを経営する男を演じ、ひょんなことから出会う女性たちの心を掴んだ。

 プレイボーイを演じることの多い俳優は、私生活でもえてして女性と浮名を流しがちだ。しかし、田村の場合、その手の話はほとんど聞かれなかった。田村がモテるのはあくまで劇中の設定上のことにすぎない。そもそも彼の私生活そのものが謎に包まれている。そのあたりも彼をスターたらしめていたといえる。

→日曜夜に中年男性の心を掴む戦略!?「丘の上の向日葵」あらすじ考

田村正和 二枚目からの転機

 ここで田村正和の経歴を簡単に振り返っておこう。生まれたのは1943年。9歳のときに亡くした父親の阪東妻三郎(本名・田村伝吉)も、戦前から戦後にかけての映画界の大スターであった。兄の高廣、弟の亮も俳優となったが、スターとしての資質は誰よりも彼に引き継がれている。1961年に松竹大船と専属契約を結び、木下惠介監督の『永遠の人』で本格デビューした。NHKの大河ドラマ第1作『花の生涯』などテレビにも出演を始め、1966年にはフリーとなる。

 ブレイクしたのは、1972年、テレビ時代劇『眠狂四郎』(関西テレビ・フジ系)で主演したのがきっかけだった。原作者の柴田錬三郎は、田村の狂四郎を甘さとニヒルを兼ね備えていると可愛がり、「10年経ったら素晴らしい狂四郎になるだろう」と家族にも洩らしていたという(能村庸一『実録テレビ時代劇史』ちくま文庫)。柴田の予想は的中し、狂四郎は田村の当たり役となり、後年にいたっても特番ドラマとして放送されている。劇中、狂四郎がゲスト女優の着物をはぐ「帯解き殺法」がエロティシズムの匂いを漂わせた。おそらく田村はモテるというイメージは、このあたりからできあがっていったのだろう。

 狂四郎にしてもそうだが、田村はデビュー以来二枚目で売ってきた。そんな彼に転機が訪れる。それは1983年、TBS系の金曜夜8時台のドラマ『うちの子にかぎって…』に主演したことだ。『3年B組金八先生』をはじめ学園ドラマが多かった同枠だが、このドラマでも小学校を舞台に、田村が子供たちに振り回されるという教師を好演した。二枚目半というべきその役柄は、視聴者に親しみを与え、以後、前出の『パパはニュースキャスター』をはじめ田村がホームドラマに出演する端緒となる。

 田村に新たな路線を敷いたのは、当時まだ30代だった八木康夫プロデューサーである。八木は、同じく1983年に放送された単発ドラマ『昭和四十六年 大久保清の犯罪』で初めてプロデュースを手がけ、主人公の凶悪犯にビートたけしを起用していた。お笑い芸人であるたけしにはシリアスな俳優としての道を拓いたのに対し、田村は逆の方向へと導いたともいえる。

 もっとも、二枚目を演じても、二枚目半を演じても、田村はどこまでも田村だった。独特のしゃべり方はモノマネの格好の対象となった。『ニューヨーク恋物語』をパロディに仕立てたとんねるずをはじめ、近年におけるハリウッドザコシショウの「誇張しすぎた田村正和のモノマネ」にいたるまで(これは後年のヒット作『古畑任三郎』の田村を真似したものだった)、彼をネタにしたタレントや芸人は数多い。そんなふうに笑いのネタにされるのは、田村が謎めいたところを残し、現実感がないからでもあるのだろう。そうした存在は、すでに80年代に入るころにはテレビでは貴重になっていた。

子役時代の高橋一生が出演しているドラマ作品

『うちの子にかぎって…』以降、田村はTBS以外のドラマでも二枚目半を演じるようになった。前出のフジ系『ニューヨーク恋物語』に続く『男と女 ニューヨーク恋物語II』(1990年。いずれも脚本は鎌田敏夫)は、前作のシリアスな物語から一転して、ニューヨークで複数の女性と恋愛を謳歌していた田村演じる弁護士が、別れた妻子が突然日本からやって来て騒動に巻き込まれるというコメディタッチの作品となった(したがって前作の物語とは何の関連性もない)。余談ながら、このとき田村の末の息子を演じていたのは、子役時代の高橋一生である。

『男と女』では田村の浮気相手のひとりとして、現地で中古車ディーラーとして働く人妻が登場、これを篠ひろ子が演じている。その第1回は、2人がセントラルパークを階下にのぞむホテルで密会するシーンで始まった。

 はたしてこのときの共演をTBSのスタッフが意識したのかどうか、篠ひろ子と田村は、それから3年後の1993年にも、今度は夫婦役で共演している。それが、連続ドラマ枠に移行した「日曜劇場」の第3作となった『カミさんの悪口』だ。このときのプロデューサーも、すでにTBSの田村主演のドラマではコンビ常連となっていた八木康夫である。同作は好評を博し、1995年には『カミさんの悪口2』と題して続編もつくられた。「日曜劇場」ではまた類似作品として、このシリーズで共演した田村・橋爪功・角野卓造のトリオが別の人物として登場する『カミさんなんかこわくない』(1998年)も放送されている。次回以降は、これら田村主演の「日曜劇場」作品をくわしく振り返ってみたい。

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文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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