西城秀樹さん闘病中もあきらめなかった家族旅行の思い出【第5回】
→第4回:「西城秀樹さん闘病中の自宅改修と愛用した暮らしの道具」を読む
東京ディズニーリゾートで乗った電動カート
「秀樹さんは旅行が大好きでした。急に休みが取れたときには、さあ行くぞ~って、ぱっと出かける行動力のある人で、温泉や遊園地によく行きました」
秀樹さんとの旅の思い出を、まるで昨日のことのように美紀さんはとても嬉しそうに話す。子供たちが小さかったころは、東京ディズニーリゾートにも家族でよく出かけたそうだ。長距離を歩くと疲れやすくなっていたときには、ある乗り物を使ったという。
「秀樹さんが6度目の脳梗塞の後遺症で足が動かしにくくなってしまった2011年当時、子供たちは小学校の低学年で、みんな東京ディズニーリゾートが大好き。リハビリや仕事の合間をみつけて、秀樹さんはよし、行こうっ!って。
普段は車椅子に頼らず、リハビリになるからとなるべく歩くようにしていたのですが、2013年以降は、東京ディズニーリゾートでは、電動カートを借りたこともありました。電動タイプは押す必要がなく、私は秀樹さんの隣を歩きながらおしゃべりすることもできて嬉しかったですね。座面も一般的な車イスよりしっかりしたクッションが付いているので秀樹さんは長時間座っていても楽な様子でした。パークには障がいを抱えた人のための設備や道具が揃っていて、ありがたかったですね。私も秀樹さんもリラックスして楽しめました」
東京ディズニーリゾートでは、一般的な車椅子のほかに、介助者が押すタイプの介助用電動車椅子や、1人乗りの電動カートをレンタルできる。秀樹さんが借りたという電動カートは、18才以上で自力歩行ができて長時間の歩行が困難な人、レンタルする本人の試乗が利用対象で、1日のレンタル料金は2000円となっている。車椅子は、事前予約のほか、当日の予約の受付も行っている。
「電動カートならボタンを押すだけですーっと走りますから、秀樹さんは『これはいいなぁ~』って、すごく嬉しそうにしていました。顔を隠すこともなく堂々としていたのは、どんなときもファンの前では笑顔でいた秀樹さんらしい。周りの方に『やぁやぁ、ど~も~』なんて言いながら、電動カートでどんどん進んでいく楽しそうな姿を見て、私は彼の横を走りながら、ホッとしていたように思います。
彼はジェットコースターが苦手だったのですが、子供たちと一緒にスペースマウンテンによく乗っていました。子供思いの秀樹さんは、どんなときにも家族サービスをしてくれる人でしたから…。そういう彼の思いを叶えたいといつも思っていました。旅先ではとくに…」
美紀さんはにっこりと笑い、秀樹さんと過ごした日々を記していた手帳をゆっくりとめくった。そして家族で出かけたフランス・パリ旅行の思い出を語ってくれた。
夏休みのパリ旅行では車椅子をレンタル
家族でパリへ行ったのは子供たちの夏休み。
「8度目の脳梗塞が見つかった年の夏でした。パリは石畳の町ですから、秀樹さんにとって長く歩くのは負担になるかなと少し不安でした。だから旅先では歩くのがしんどくなったときに備えて、車椅子を用意していきました。
我が家は、専用の車椅子は持っていなかったので、空港やホテルなど行く先々でレンタルしていました。車椅子は買わなくても、色々な場所で“借りる”という選択肢があるんですよ。
パリ旅行では、まず成田空港のカウンターで車椅子を借りておきました。広い空港は、飛行機に乗るまでに結構歩くことが多いので、車椅子があると移動がずっとラクになるんです」
成田空港をはじめ、ほとんどの空港では、案内カウンターで車椅子を無償で貸し出している。また、航空会社でも車椅子をレンタルでき、航空会社によっては金属探知機のゲートを乗ったまま通過できる木製の車椅子や、機内まで乗り込めるタイプのものなども選べる。
「パリのホテルには、事前に車椅子を使いたいと伝えておきました。滞在中はホテルの車椅子を車に積んで、あちこちに出かけました。秀樹さんは自分の足でパリの街を歩いていましたが、もしものときには車椅子がある。そう思うことで心に余裕ができ、旅先でも安心して過ごせたと思うんですよ。
ルーヴル美術館などパリの観光地はどこもバリアフリー化が進んでいます。車椅子の人は優先的に入場できることもあります。段差のないフラットな場所では子供たちが進んでパパに声をかけて車椅子を押してくれたこともありました」