「脊柱管狭窄症」薬、注射、手術に頼らない 五輪ドクター直伝・6つのタイプ別運動でつらい痛みを改善
脊柱管狭窄症の痛みを解消するために様々な対策を試みるも、なかなか効果が出ない……。そうして諦めかけた患者たちの症状を改善してきた専門医がいる。実は脊柱管狭窄症には「6つのタイプ」があり、それに合わせたアプローチが必要なのだという。日常生活の僅かな時間でできるタイプ別の痛み解消法を伝授する。
教えてくれた人
金岡恒治さん/早稲田大学スポーツ科学学術院教授・整形外科医
全身の生活習慣病と言われる「脊柱管狭窄症」
足腰の痛みに加えて痺れを伴い、日常生活に多大な支障が出る「脊柱管狭窄症」。加齢とともに悩まされる人が多くなり、患者数は推定580万人といわれている。
早稲田大学スポーツ科学学術院教授で整形外科医の金岡恒治医師が語る。
「背骨は椎骨が積み重なって構成されており、そのなかを神経の通り道である『脊柱管』が走っています。この脊柱管が狭まり、神経が圧迫されることで起こるのが脊柱管狭窄症。長年、無意識のうちに続けてきた姿勢や動作のクセによって狭窄してしまうので、『全身の生活習慣病』ともいえます」(金岡医師・以下同じ)
とくに狭窄しやすいのが腰だ。5つある腰椎の下2つ(第4と第5)から下肢に伸びている神経が圧迫されると、足に痛みや痺れが出る「坐骨神経痛」、細切れにしか歩けなくなる「間欠性跛行」などの症状が現われる。
消炎鎮痛剤やブロック注射による治療を行ない、悪化すれば手術するのが一般的だが、近年注目されているのが運動療法だ。
日本整形外科学会と日本脊柱脊髄病学会が作成するガイドラインが2021年に改訂され、従来の治療法に加えて運動療法が推奨された。
「多くの研究の積み重ねの結果、運動療法の有効性がはっきり認められたのです。薬物療法やブロック注射は症状を抑えるだけで根本的な解決にはなりませんが、運動療法ならつらい症状を劇的に改善することも不可能ではありません」
こう語る金岡医師は2012年のロンドン五輪でJOC(日本オリンピック委員会)の本部ドクター、シドニー、アテネ、北京五輪では水泳チームドクターを務めた、運動療法を用いた腰痛治療研究の第一人者。『脊柱管狭窄症どんどんよくなる!劇的1ポーズ大全』(文響社)など数々の著書を持つ。
金岡医師はこれまでの研究を通じて、脊柱管狭窄症患者には6つの「傾向や癖」があることを発見した。それが「背骨圧縮型」「くの字型」「ネコ背型」「股関節型」「反り腰型」「体幹不安定型」の6タイプである。
クセと傾向で見分ける6タイプと対策
●背骨圧縮型…若い頃より身長が2cm以上縮んだ 【椎間広げ】
●くの字型…背中が硬く、前傾姿勢になる時、腰だけ曲げてくの字になる【背骨ロール】
●ネコ背型…知らず知らずのうちに背中を丸めたネコ背の姿勢になりやすい【胸椎反らし】
●股関節型…股関節が硬く、ひざ下だけを使ってすり足で歩きがち【股関節ゆるめ】
●反り腰型…骨盤が前傾し、腰を後ろに反った姿勢になりがち【四つばい正座】
●体幹不安定型…背骨が不安定で前後左右にぐらつきやすい。臀部に痛みが出がち【ドローイン】
「6つのタイプを知らずに漫然と脊柱管狭窄症の対策をしても、なかなか効果が出ない。重要なのは自分のタイプを知り、それに応じた運動療法を実践することです。1つだけでなく複数のタイプに当てはまる人が多いので、思い当たる傾向や癖があれば、それぞれに該当する運動療法を試してみてください」
「背骨圧縮型」タイプは「椎間広げ」で骨の隙間を広げる
年を重ねるごとに背骨を構成する椎骨と椎骨の間は狭くなる。それにより神経が圧迫されるのが「背骨圧縮型」だ。若い頃より身長が2cm以上低くなった人は、このタイプに該当する可能性があるという。
「椎骨と椎骨をつなぎとめ、クッションの働きをしている椎間板は、体のなかでも老化が早い。成人する頃から少しずつ弾力性が失われ始め、徐々に間隔も狭まってきます。そこに前かがみのクセが加わると、脊柱管がますます狭窄してしまう」
背骨圧縮型に効果的なのが「椎間広げ」だ。
「椎骨と椎骨の間を広げて背骨の配列を整えるポーズです。脊柱管が広がって神経の圧迫がゆるみ、血液とともに酸素と栄養が神経に行き渡るので、坐骨神経痛や間欠性跛行の改善につながります」
やり方は簡単。イラストのようにまっすぐ立ち、4秒かけて息を吸い込み、8秒かけてゆっくり息を吐き出す。「背骨に意識を集中しながら伸ばす」ことで、より効果がアップするという。
「くの字型」タイプは「背骨ロール」で腰椎の負荷を分散する
背中のしなやかな動きが失われることで起きるのが「くの字型」の脊柱管狭窄症だ。
「背骨全体の動きが硬くなると、日常のちょっとした動作のときに、上半身を『く』の字に曲げるクセがつきがちです。これは背骨のなかでも前後に曲げやすい第4・第5腰椎の間を折り曲げているのです。結果、この部位の脊柱管が狭窄しやすくなってしまう」
くの字タイプにはひとつひとつの椎間の動きを柔軟にする「背骨ロール」が有効だ。第4・第5腰椎に集中していた負荷を分散し、症状を軽減することができる。
「口から息を吐きながら椎骨を上からひとつひとつ動かして、首・背中・腰の順にゆっくり折り曲げていきます。ポーズが完成したら、鼻から息を吸いながら、逆の順番で起こして直立の状態に戻ります」
「ネコ背型」タイプは「胸椎反らし」で胸椎の柔軟性を回復させる
知らず知らずのうちに背中を丸める癖がある人は「ネコ背型」に該当する可能性が高い。
「ネコ背を続けるうちに、背骨の胸の部分にある胸椎が丸まったまま硬直し、可動域が狭くなる。すると少し手を上に伸ばしただけで第4・第5腰椎が強く反る形になって、負担が集中してしまうのです。ネコ背を正す『胸椎反らし』で、胸椎の柔軟性と可動性を回復させましょう」
「股関節型」タイプは「股関節ゆるめ」で腰の深部の筋肉をほぐす
腰ではなく股関節に問題があって脊柱管狭窄症になるケースもある。
「股関節が硬くなると、膝下だけを動かす“すり足”のような歩き方になりがちです。この状態は背骨、骨盤、股関節、下肢の筋肉が連動しないため、背骨や骨盤にゆがみが生じ、脊柱管狭窄症を引き起こしやすくなる。それが『股関節型』です」
このタイプに適しているのが「股関節ゆるめ」。腰の深部にある腸横筋をストレッチすることで、股関節を柔軟にする運動だ。足を前後に大きく開き、後ろ足の股関節が十分に伸びるところまで、ゆっくり腰を落としていく。前の足のかかとの上にひざがくる形が理想的だという。
「股関節ゆるめを取り入れることで、足を高く上げる力が強化され、蹴りだしも強くなって、速く歩けるようになります」
「反り腰型」タイプは「四つばい正座」で骨盤の傾きを正す
「反り腰型」の脊柱管狭窄症はネコ背型とは逆に、腰を後ろに反る姿勢になりがちな人に多い。
「腰を反らすと脊柱管の背中側の椎骨と椎骨をつなぐ靱帯がたわんで神経を圧迫します。普段から反り腰のクセがついている人は、ただ立っているだけで脊柱管を狭め続けているようなものです」
反り腰を正すポイントは、骨盤の傾きだという。
「反り腰型の人は骨盤が前傾しているので、これを後傾させる『四つばい正座』を実践しましょう。四つばいになって、猫が伸びをするように背骨を『C』の字に丸め、そのまま正座をして上体を倒す。この動作を続けることで脊柱管が広がり、神経の圧迫がゆるんで症状が改善します」
「体幹不安定型」タイプは「ドローイン」で天然のコルセットを作る
最後は「体幹不安定型」。金岡医師によれば、脊柱管狭窄症の患者には「体幹の筋肉の衰え」から背骨が不安定になっているケースもよく見られるという。このタイプに最適なのが「ドローイン」だ。
「背骨がグラつくと腰椎が前後にズレる『腰椎変性すべり症』や、腰椎が曲がってしまう『腰椎変性側弯症』、『圧迫骨折』などにもつながりやすい。『ドローイン』で腹横筋を鍛えれば、天然のコルセットのように腰椎を支え、体幹を安定させることができます」
仰向けに寝て両足を腰幅に開き、ひざを直角に立てるのが基本姿勢。胸の前で両腕を交差し、右手を左肩、左手を右肩に当て、息を限界まで吸ってから5秒かけて吐き、10秒間キープする。
これらの運動療法を実践することで、脊柱管狭窄症が改善した患者は多いという。
「右の下肢全体が痛んで数十メートルしか歩けず、『間欠性跛行』の症状も出ていた70代の患者さんに、クセを確認したうえで運動療法を指導したところ、再び好きなゴルフを楽しめるようになるほど回復した。臨床の過程でこうした実例を数多く見てきました」
今回紹介した6つのポーズはどれも最新の運動理論をベースにしたもの。
「反動をつけず、体の動きを自分で制御しながら行なえるので、安全性が高く、運動事故の危険が極めて少ないのが特徴。ただし、万一ポーズの実践中に異変を感じたらすぐに中止してください」
自分の痛みや癖に合わせた正しい対策で、脊柱管狭窄症を乗り越えたい。
イラスト/タナカデザイン
※週刊ポスト2025年8月15日・22日号
●シニアに急増中の【脊柱管狭窄症】6割を改善する「蹴り出し体操」のやり方