「若返りリトミック」を支える大人気音楽療法士コンビの魅力に迫る
「濱ちゃん&松ちゃん」の愛称で親しまれる、濱田幸子さんと松島裕子さんは、日本各地で開催される「若返りリトミック」講座で多くの高齢者に音楽を届け、笑いの渦を巻き起こしている。高齢者に絶大なる人気を誇るお笑いコンビ?ではなく、その正体、実は――音楽を通じて心身を活性化させる「音楽療法」の専門家だ。2人の活動内容や、「若返りリトミック」にかける思いをうかがいながら、その魅力に迫る。
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2人の元教員が運命の出会い!?
濱田さんと松島さんが指導する「若返りリトミック」は、童謡や唱歌、歌謡曲などの親しみ深い楽曲を使って、合唱や合奏、簡単な運動をするセラピーのひとつ。音楽を楽しみながら心身の健康保持や認知症予防を図るのがその目的だ。
若返りリトミック講座は、60分から90分。その間、高齢の参加者は歌ったり、動いたり。飽きることはもちろん、一時たりとも集中力を絶やすことはない。
――参加者がこれほど夢中になってしまう理由は何でしょうか?
松島:やっぱり音楽の力だと思います。音楽は振動として体に伝わって、肌から入っていくんですよ。歌が歌いづらい、耳が聞こえづらいとった人も、心の中ではきっと歌って、楽しんでくださっていると思います。体が動かない人には音楽に合わせてお体を軽くタッピングして、刺激を味わってもらいます。
濱田:認知症で普段は会話ができない人が突然、正確な歌詞を口にすることもありますよ。それも1番だけじゃなくて、2番も3番も。眠っていた記憶や能力を音楽の力で引き出せるというのが、私にとってはすごくやりがいを感じる部分です。
松島:身動きしなかったり寝ていたりする人が、知っている曲になると口を動かしたり、指先や足でリズムを取ったりすることもあります。そんな姿を見つけると、「あっ! 歌ってる!」って感動しちゃう。ご本人も気持ちがよさそうですし。定期的に通っている高齢者施設では、私たちがくる日はわざわざお化粧したり、朝からお風呂に入ったりして待っていてくださる方もいるんですよ。
濱田:「私たちの顔を見ると元気が出る」って。私たちも元気出るよね!
若返りリトミックを開発したのは、東京にある「国立(くにたち)音楽院」。濱田さんと松島さんは、この学校の音楽療法学科で出会った。
――どういう経緯でコンビを組むことになったのですか?
濱田:2010年に国立音楽院に入学しまして、そこで松ちゃん(松島さん)に出会ったんです。一緒に授業を受けるうちに、「なんだかこの人、“ニオうもの”があるぞ」って。
松島:そう! 私も「こいつ、ただ者じゃない」ってすぐに感じました(笑い)。
濱田:それが、お互い教員だったということ。私は34年間、小学校の教員をしていたんです。
松島:私は中学校や特別支援学校の音楽教員。でも、前職の話は全然しないうちに友達になって、一緒に実習やボランティア活動などに参加するようになりました。
濱田:1年ほどして、音楽院から「2人は気が合うようだし、『若返りリトミック』を活かす現場を受け持ってみないか」という話がありました。そこで、じゃあやってみようかなって2011年、東日本震災の年から一緒に活動するようになりました。
松島:ハマちゃんとマッちゃん、ちょうどあの『ダウンタウン』と同じだから私たちは「ダウン“ダウン”」だね、なんて言いながら(笑い)。一緒に活動を始めてもう5年になります
――お2人が音楽療法を学ぼうと思ったきっかけは?
濱田:教員を退職する5年ほど前に、たまたま音楽療法を紹介しているテレビ番組を見たんです。そのときは「退職したら、こんな仕事もいいな」と思っただけでしたが、その後、体調を崩して早期退職。第2の人生を考えたときに「そうだ、音楽療法だ!」と思い出して、国立音楽院に入学しました。
松島:私は特別支援学校に勤めていた経験がきっかけです。その学校には知的障がいや肢体不自由など、さまざまな障がいをもった子どもがいました。ある日、言葉が出ない障がいのある生徒が、授業中に怒ってプイッと教室を出て行ってしまったことがあったんです。私がピアノでその子が好きな曲を弾いていたら、いつの間にか教室に戻って、みんなと一緒に歌っている。言葉が使えなくても、音楽を通じてならわかりあえる! 音楽ってすごいなとあらためて思ったんです。特別支援学校には部活動がないから、中学教員の頃より自分の時間が持てました。そこで休日のたびに音楽療法の研修に参加するようになって、国立音楽院に入ったら…。
濱田:私がいたの!(笑い)