「若返りリトミック」を支える大人気音楽療法士コンビの魅力に迫る
音楽教員だった松島さんにとって、動きに合わせて即興でメロディを作ったり、ピアノで合唱をリードしたりすることはお手のもの。音楽療法の研究・研修を行う日本最大の団体「日本音楽療法学会」の認定資格も取得した。
一方の濱田さんの専門分野は体育。大きな声で体の動きをわかりやすく教えるプロフェッショナルだ。さらに、介護予防運動指導員の資格も取り、若返りリトミックの指導にそのテクニックも取り入れている。
――高齢者といっても、認知機能や身体機能には個人差があります。大勢を相手に指導するために、どんな工夫をしていますか?
濱田:高齢者施設の場合、車椅子やストレッチャーに乗っている方や目の見えない方も参加されます。そういう方はホワイトボードに貼った歌詞幕が見えませんから、必要に応じて、耳元で歌詞をちょこちょこっと「先読み」するんです。
松島:でも、最初から最後まで一様に歌詞を教えるのはダメ。その人が覚えていそうな部分はあえて教えないとか、表情や状況に合わせてやり方を変えるんです。知っているのに歌詞を教わるとプライドが傷つくでしょうし、中には「自分ばかりに気をつかわれるのは申し訳ない」と恐縮される方もいますから。
――その場の状況に応じて対応していくと、あらかじめ準備したプログラム通りに進めるのは難しそうですね。
濱田:それがこの仕事の大事なところ。受講者の反応に合わせて、音楽や運動の順番を入れ替えたり、カットしたりするのはいつものことなんです。そんなときでも松っちゃんは「何やるの?」なんて聞かずにさっと対応してくれるから、すごくやりやすいの。
松島:2人とも音楽療法士だし、ピアノも弾けますから、わかり合えるんですよ。濱田センパイの無茶ぶりにだって、ついていくわ!(笑い)
笑顔の奥にある高齢者への敬意
話を聞くうちに気づいたのは、2人それぞれが高齢者に対して敬語を使う、ということ。
濱田:お相手は私たちよりもずっと人生経験が豊富ですし、ものすごい知識をお持ちの方もいますから、尊重するのが当たり前。「どうせわからないだろう」とか「やってあげている」みたいな感覚でいたら、絶対にダメですね。
松島:笑いはすごく大事だけれど、ちょっとしたトークのネタを考えるときも、ちゃんと調べて、間違ったことを言ったり、あいまいにごまかしたりしないように気をつけています。人生の大先輩たちの前に立たせてもらって、一緒に楽しんでいるという感じです。
明るさの背後にある、元教員らしい深い思いやりと生真面目さ。それが濱ちゃん&松ちゃんコンビの人気の秘密だ。音楽の力と2人のあふれんばかりのエネルギーは、これからも多くの高齢者の心と体を若返らせていくに違いない。
撮影/政川慎治 取材・文/市原淳子