高齢者に多い転倒からの骨折 理学療法士が教える転倒防止に役立つ6つの運動法
高齢者にとって転倒は非常に重大な問題であり、転倒をきっかけに骨折や寝たきりになるケースも少なくない。理学療法士の黒木綾乃さんは「最新の研究により、筋力を強化することで転倒リスクを減らせることが分かっている」と話す。そこで黒木さんに、高齢になると転びやすくなる理由や、自宅でできる転倒防止に役立つ運動方法を教えていただいた。
(※)運動は安全を確保したうえで行ってください。特に高齢のかたは、おひとりで行わず、まわりに支えてくれるかたがいる状態で行ってください。
教えてくれた人・文
黒木綾乃(くろきあやの)さん/理学療法士・ヨガインストラクター・介護予防運動指導士・パーソナルトレーナー
理学療法士として総合病院、訪問リハビリ、老人保健施設、デイケア、デイサービス、有料老人ホーム、介護施設役員などを経験。さまざまな現場でリハビリテーションを提供する。長年のリハビリテーションの経験から予防の発展と普及のため、医療ライターとしても活動中。現在は現場でのリハビリテーションの傍ら、一般の方へ腰痛や肩こり予防のパーソナルトレーニングも行っている。
転倒は高齢者にとって最大のリスク
「転んだことがきっかけで、寝たきりになってしまった」そんな話を耳にしたことはありませんか? 高齢者の介護が必要となった主な原因のうち「骨折・転倒」が13.9%を占め、高齢による衰弱より多くなっているといいます(※1)。
(※1)1厚生労働省令和4年国民生活基礎調査
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202106/2.html#firstSection
また、高齢者の転倒・転落による死亡者数は1万人を超えています。このように、転倒は高齢者にとって重大なリスクがあります。とくに注意したいのが、転倒による骨折です(※2)。
(※2)厚生労働省 令和4年人口動態統計https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei22/dl/11_h7.pdf
高齢のかたに多い、脚の付け根部分の骨が折れてしまう大腿骨近位部(だいたいこつきんいぶ)骨折、手首の骨が折れてしまう橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折、腕の付け根が折れてしまう上腕骨近位部(じょうわんこつきんい)骨折のほとんどが転倒にともなった骨折です。とくに、大腿骨近位部骨折は、長期入院や手術、場合によっては歩行困難や寝たきり状態に至ることも珍しくありません。
しかし、日頃から筋力やバランス感覚を維持・強化することで、日常の動作を安定させ、転倒リスクを減らせることが、最新の研究結果からも分かっています。そこで、特別な道具も器具も必要ない、自宅でできる簡単な転倒予防運動をご紹介します。今日から少しずつ取り組んでみましょう。
なぜ高齢者は転びやすくなるのか3つの原因
高齢者が転びやすくなる原因は多岐にわたり、身体機能、認知機能および環境要因が複合的に影響しています。
1.バランス機能・筋力の低下
高齢者に多い、前かがみの姿勢や加齢に伴う筋力低下、関節の可動域の制限が全身のバランス機能を低下させる大きな要因です。特にふくらはぎや太ももの筋力の低下、足首、股関節の固さによりバランスを保てなくなり、とっさの反応が遅れ、ささいな段差やふらつきから転倒につながります。
2.視力・聴力の変化
加齢により感覚機能も低下します。視力や内耳のバランス感覚、筋肉や関節からの感覚が衰えることで、身体の位置や動きを正確に把握しにくくなり、バランスをとることが難しくなり、結果的に小さな段差や障害物でつまずく危険があります。
加えて、注意力や判断力の低下といった認知機能の衰えも、状況判断や体のコントロールに影響を及ぼし、転倒リスクを高める一因です。
3.「運動しない」と転倒リスクは加速
使わない筋肉はどんどん衰えます。さらに、運動しないことで立ったり歩いたりする身体能力が低下した状態に陥ります。これをロコモティブシンドロームといいます。ロコモティブシンドロームになると日常動作に影響が出るため、後ろを振り返る・方向転換をするなど、何もないところで転倒することがあります。
また、服用している薬の副作用も転倒リスクを上げる要素です。副作用で起きるめまいやふらつきと、家の中の小さな段差や滑りやすい床といった環境要因が組み合わさることで、より転倒しやすくなります。