調査で判明!「シニアの転倒が圧倒的に多い履き物は“つっかけ”」高齢者の転倒事例と転びにくい靴選びのポイントを社会福祉士が解説
大型連休中のお出かけも、近所の散歩にも、高齢者にとって「靴選び」には細心の注意が必要だ。「もっとも転びやすい危険な履き物は”つっかけ”」という調査結果や転倒事例をもとに、社会福祉士の渋澤和世さんから高齢者が転倒を避けるための靴選びのポイントなどについて詳しく解説いただいた。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
渋澤和世さん/在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
慣れない道で転倒して手首を骨折「靴がすり減っていた」
ゴールデンウィーク中に帰省してご両親と一緒に出かける予定のかた、連休を利用して気分転換に旅行を計画されているかたがたも多いのではないでしょうか。楽しい外出では、歩き慣れない道はとくに転倒に要注意です。
筆者はアラカン世代ですが、体力面においては何時間でも歩ける自信があります。ですが、数年前、旅行先の雪道で転倒し手首を骨折しました。息子から「お母さん、歩くとき足をあげていない、スリ足だからいつか転ぶよ」と言われていましたが、原因はその歩き方のクセと、靴底がすり減っていたことでした。
普段歩き慣れていない雪道はもちろん、山道、坂道、平坦な道であったとしても、その形状や年齢に合った靴を選ぶことが大切です。
近所の買い物で転倒した80代男性「履いていたのは…」
知人のSさん(80才、要支援1)は、毎日、朝の散歩とラジオ体操を欠かしていない元気なかたです。
ある日、頬にひどい青あざがありました。理由を聞いてみると、徒歩5分くらいのスーパーマーケットに買い物に行った帰りに、自宅前のちょっとした段差でつまずいてしまい転倒したとのこと。
買い物カートが杖代わりだし、通い慣れた道だからと、“つっかけ”(甲廻りだけで足を固定しているタイプ、サンダル)で出かけたとのことでした。
幸いにして骨折などはせず右ひじに擦り傷をおい、買い物カートに頬をぶつけたため、青あざがひどく残ったそうです。
実は、東京都生活文化局のヒヤリ・ハット調査によると、シニアの転倒原因の中で、履物を着用していたことによる転倒の中で最も多いのが、このつっかけなのです。
※東京都生活文化局消費生活部「ヒヤリ・ハット調査 シニア世代における衣服・履物の危険報告書」
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/anzen/hiyarihat/documents/hokokusho_senior2.pdf
高齢者の介護要因となる「骨折・転倒」
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターの調査※1によると、65才以上の統計で、自宅で暮らす人の約2割、施設入居では3割以上が1年間に転倒すると報告されています。女性は男性より転倒する率が高く、高齢になるほど高くなります。80才以上では不慮の事故による死亡は、転倒がその3割近くを占めます。
また、令和4年版高齢社会白書(内閣府)※によると、介護が必要になった主な原因について見ると、「認知症」が18.1%と最も多く、次いで、「脳血管疾患(脳卒中)」15.0%、「高齢による衰弱」13.3%、「骨折・転倒」は13.0%で第4位となっています。
認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱は、予防しきれない部分も残りますが、転倒に関しては、“履物”に意識を向けることで多少なりとも防止できるのではないかと思います。
※1国立長寿医療研究センター「転びやすくなる原因は?」
https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/22.html
※2内閣府「令和4年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/s1_2_2.html
転倒理由と履き物別・高齢者の転倒事例
前述のヒヤリハット調査(東京都生活文化局消費生活部)によると、履物を着用していたことによる転倒の具体的な内容としては、以下のようなケースがあります
滑る
・サンダル・つっかけ(60代女性)/雨あがりの鉄骨の階段で滑って階段を数段落ちて、額にこぶをつくった。
・運動靴(60代男性)/雪の降った後で外の階段が凍っていたところを歩いて滑り、唇を切り、歯を折った。
つまずく
・革靴(70代女性)/道路の側溝につまずいて転び、骨折した。自宅で3か月寝たきりとなった。
・サンダル・つっかけ(70代女性)/玄関から廊下へ上がろうと つっかけを脱いだのに脱げておらず、 慌てて脱ごうとしたら足が両方上げるような格好になり 尻もちをついて倒れた。
引っかかった
・サンダル、つっかけ(90代男性)/近所の家の門扉付近で、地面の凹凸に足が引っかかり転倒し、手首を骨折した。
靴紐を踏んだ
・スニーカー(60代男性)/スニーカーの紐が緩んでいて踏んでしまった。転倒した際に、手で防ぐのが遅れたので、膝を地面に強打した。
このように、転倒の理由は、履物や履き方に問題があった、床・道等が滑りやすかった、バランス感覚の衰え、不注意・油断、足が上がらなくなったなどが考えられます。
また、うまく歩けないと感じるときは、脳血管疾患、パーキンソン病、筋力の低下など身体に原因があることも多いのですが、履物が影響していることもあります。
歩行の際、足を固定できないつっかけやサンダルなどの履物は、地面を正しく蹴りながら歩行ができません。つま先が上がらず、ずっと地面をするようになり、歩幅も狭くなって、結果的に転びやすくなります。
高齢者が歩きやすく転倒しにくい靴選びのポイント
よくある介護用靴と呼ばれるものは、軽くて柔らかい素材を使用し、履き口が大きく作られています。マジックテープやファスナーを使って楽に履くことができるようにさまざまな工夫がされています。
徳武産業のあゆみシリーズは介護用のシューズとしても人気で、品揃えも豊富ですし、カラフルな色や柄も選べます。足のむくみが気になるかたなどでも履きやすい靴の幅が広いタイプもあり、高齢者が転倒しにくい靴としておすすめです。
■徳武産業 https://www.tokutake.co.jp/shop/
また、自立歩行、杖歩行でも、歩ける状態であれば、介護用のシューズに限らず、転倒防止のためには、足をしっかり固定できるスニーカーを選ぶことが大切です。
ニューバランスのスニーカーは、足のサイズや幅に合わせた種類や色が豊富なのでおすすめです。紐付き、紐なしなどの希望や身体に合わせた種類が選べます。なお、ニューバランスには、ナースシューズもあります。白が中心ですが看護師など医療職のかた向けに長時間の仕事にも疲れない工夫があるので、高齢者はこちらを普段使いするのもありだと思います。
他にもアシックスの『ライフウォーカー』もマジックテープで履きやすく、つま先が少し上向きなので転倒もしにくく、ウオーキングなどにも適していると思います。
シューフィッターに相談する
シューフィッターとは、足に合う靴を選ぶ専門家のこと。靴の専門店などに配属されています。一般社団法人『足と靴と健康協議会』(FHA)から、どこの店舗にシューフィッターがいるのかを検索できます。靴のトラブルでお悩みのかたも一度相談をしてみると良いかもしれません。
■一般社団法人『足と靴と健康協議会』(FHA)
http://fha.gr.jp/
加齢による筋力低下、歩行障害、視力の低下などの要因が重なり、高齢者はバランスを保つのが大変になります。めまいなども起きやすいため、転倒リスクは若い人より高くなっています。今一度、お出かけ前に靴の底がすり減っていないか、壊れそうな箇所はないかなどを確認してからお出かけください。