室内の転倒予防に「壁ドンサイドブリッジ」骨密度増加に「最大ジャンプ」整形外科の名医が教える《骨を鍛えるエクササイズ4選》
年齢が上がるほど高まる骨折の危険性。転んで打ちどころが悪ければ、寝たきりや要介護状態の原因になる可能性も。だが、「いまから骨を鍛えておけば心配はいらない」と整形外科の名医は断言する。100才まで自力で歩く「骨活」の極意を紹介する。
教えてくれた人
戸田佳孝さん/整形外科医・戸田整形外科リウマチ科クリニック院長
1分でできるトレーニングで転倒による骨折を防ごう!
年を重ねると、転倒による骨折がその後の生活をガラリと変えてしまう恐れがある。
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、65才以上の高齢者が「要支援・要介護になる主な原因」は認知症(16.6%)、脳卒中(16.1%)に次いで骨折・転倒が第3位(13.9%)だった。
日本整形外科学会の全国調査(2021年)によると、大腿骨(だいたつこつ)近位部(脚の付け根、股関節の周辺)骨折の患者数は1月が最も多く、12月、10月、11月と続いた。いずれも1万人を超えており、室内でこたつ布団などに足を引っ掛けたり、厚手の靴下を履き階段をおりる際、滑って転ぶなどの事例が多いという。
『9割のひざの痛みは自分で治せる』(中経出版)など数々のベストセラー著書を持つ整形外科医の戸田佳孝さん(戸田整形外科リウマチ科クリニック院長)が言う。
「筋肉と同様、骨もトレーニングで強化が可能です。雪が踏まれて固くなるのと同じように、荷重をかけることで骨の主成分であるカルシウムの沈着が促され、骨粗しょう症になりにくくなるのです。僅か1分で誰でもできる体操ばかりなので、ぜひ実践してみてほしい」(以下、戸田さん)
以下、戸田さんが具体的な骨活のメソッドを解説していく。
【1】「最大ジャンプ」で骨密度を増加!
腕を振り上げて、その場で可能な限り高くジャンプする。
「足関節に不安がある方はつま先立ちしてかかとを落とす程度から始めて、痛みがない範囲でジャンプするようにしてください。1日10回、週3回が目標ですが、連続して跳ぶとめまいやふらつきの原因となるので、一呼吸置いたり、5秒ごとに跳ぶなど体調に合わせて行なってください」
英国の研究でも、ジャンプ運動は股関節の骨密度の増加に有用であると報告されているという。
<ポイント>
左右にふらつかず、垂直方向に跳ぶことを意識してジャンプ。足の関節に不安がある場合は、つま先立ち→かかと落としの動作を繰り返してOK。目標は1日10回、週3回。
【2】「壁ドンサイドブリッジ」で腰回りの体幹を鍛える
室内でのつまずきを予防するには、転倒しないように「平衡感覚と腰回りの体幹」を鍛えることが特に重要になる。
片方の足でつま先立ちし、同じ側の腕(肘から先)を肩の高さで壁に密着、反対側の足を開いて伸ばす動作を繰り返す。
「左右20秒ずつ足を上げて1セット。1日2回が目標です。これにより主に骨盤の縁から一番下の肋骨に向かってついている腰方形筋というインナーマッスルが鍛えられ、脊柱を安定させることで転倒しにくくなります」
サイドブリッジは太ももの外側の筋肉(膝の動きを支える外転筋)も効率的に鍛えるため、変形性膝関節症による膝痛の予防にもなるという。
<ポイント>
つま先立ちの状態で、同じ側の腕(肘から先)を壁に密着。反対側の足を開いて伸ばす。同じ動作を左右各20秒ずつ、1日2回行う。
【3】「目つぶり片足立ち」で平衡感覚を鍛える
こちらも平衡感覚を鍛えることができる体操。
「両手を広げて目をつぶり、片足を床から5cm上げて10秒間キープします。これを3回1セットとし、左右で計1分間、朝夕の2回行ないます」
目を開けたまま片足立ちする場合は、後ろ方向に足を上げるほうが平衡感覚を鍛えられるという。
「寝たきりなどにつながる股関節や大腿骨骨折は、後方や横方向にバランスを崩すことで起こります。予防には足を後ろに浮かせバランス感覚を鍛える運動が効果的です」
<ポイント>
目をつぶるのが怖ければ、開いたままでもよい。足を身体の後方に上げることで平衡感覚がより鍛えられ、転倒防止につながる。目標は1セット=10秒×3回。1日各2セットでOK。
【4】「ガニ股筋トレ」で足回りを鍛える
ふくらはぎから足の内側にかけての「後脛骨筋」を鍛える体操で、転倒予防に効果的だという。
「後脛骨筋は主に足裏を内側に返す動きで使う筋肉ですが、日常生活でほとんど使うことがないため、“サボり筋”とも呼ばれます。これを鍛えると、足裏のアーチが維持されて歩きやすくなり、バランスがとりやすくなります。つま先立ちして足をガニ股に開き、5秒キープを3回1セットとし、1日3セットを目指しましょう」
<ポイント>
つま先立ちし、ゆっくり足の内側をガニ股に開くだけ。目標は1セット=5秒×3回、1日3セットでOK。
食生活でも骨は変わる。タマネギや牡蠣も効果的
骨や体幹を鍛える4つの簡単なエクササイズを紹介したが、それらの実践に加え、食生活を工夫することでも骨粗しょう症の予防や改善に繋げることができるという。
「タマネギに含まれる含硫アミノ酸が男性ホルモンの増加に役立つことがわかっています。同様の観点から、亜鉛を多く含む牡蠣やオートミールなどの摂取もおすすめ。食生活の工夫で男性ホルモンが増加すれば、骨粗しょう症が改善される確率が高まります」
体操や食生活の工夫で骨粗しょう症が予防できれば、「100才まで自力で歩くことは十分に可能」と戸田さん。
健康長寿は「骨」から始まる。
イラスト/河南好美
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