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健康

「脊柱管狭窄症だが手術はしたくない…」痛みが長引くとき、自宅でできるストレッチ|理学療法士が写真でわかりやすく解説

 脊柱管狭窄症による腰痛は多くの人が経験する痛みの一つ。腰痛は生活に直接影響を与えるため、様々な悩みを持つ人も多いのではないでないだろうか?そこで、現役の理学療法士の黒木綾乃さんに、実例をもとに腰痛に効果的な自宅で行えるエクササイズと、ケアのポイントを教えてもった。どれも短時間でできるので、忙しくてあまり時間が取れないという方にもおすすめ。ぜひ参考にしてほしい。

教えてくれた人・文

黒木綾乃(くろきあやの)さん/理学療法士・ヨガインストラクター・介護予防運動指導士・パーソナルトレーナー脊柱管

理学療法士として総合病院や訪問リハビリ、老人保健施設などで経験を積み、その後介護施設の役員も務める。リハビリテーションの豊富な経験を活かし、現在は医療ライターとしても活動中。また、腰痛や肩こりのパーソナルトレーニングも行い、一般の方へのサポートを提供も行う。

歩行が困難になるほど…つらい脊柱管狭窄症の症状とは

 これまで私がリハビリテーションを担当してきた方の実例を元に、脊柱管狭窄症の痛みを和らげるストレッチをご紹介したいと思います。

背景:「脊柱管狭窄症で手術を勧められたが、年齢的に怖い」

 O・Aさん(女性、70代後半)は、腰部脊柱管狭窄症の診断を受けていました。彼女は町の小さなコーヒー屋を一人で営んでいましたが、腰痛と足の神経痛・しびれのため、立ち仕事である店番が困難になり、長く歩くことも難しい状態でした。

 病院では「脊柱管狭窄症」と診断され、医師から手術を勧められましたが、Oさんは年齢的にも手術に恐怖心があり、手術での治療を拒否されていました。しかし症状は辛く、なんとかしたいと考えリハビリテーションを選択されたようです。

症状:「歩行や長時間の立ち仕事で、痛みが悪化する」

 Oさんは脊柱管狭窄症により、腰痛や神経痛、間欠性跛行(かんけつせいはこう)などの症状に悩まされていました。間欠性跛行とは、歩行中に脚や腰に痛みや不快感が生じ、歩行が困難になる状態です。歩くのをやめると痛みが和らぎ、再び歩くと再発するため「間欠性」と呼ばれます。これは、腰の椎間板や脊柱管が圧迫され、血流が不足することで起こります。ウォーキングや長時間の立ち仕事で悪化し、休息を取ると改善するのが特徴です。

実例からわかる:痛みを和らげるのに効果的なストレッチと運動法

 初めてOさんを評価した際、典型的な反り腰が見られました。原因は個々に異なりますが、Oさんの場合、お尻の緊張が高く 、普段サンダルを履くことで偏平足が生じていました。薄いサンダルの使用で偏平足になり、脚全体、特に足部が緊張し血行も悪化。お尻やふくらはぎ、足の裏に硬さがあり、脚全体の柔軟性が低下していました。

 このため、狭窄部位の神経根の血流改善を目的 に運動療法を実施し、お尻や足部、脚全体を緩めるストレッチを指導しました。

運動療法:痛みを和らげる3つのストレッチ

 Oさんの痛みを和らげるには、脚の緊張をほぐし、血流を改善することが重要でした。また、脊柱管が過度に狭くならないようにしながら、運動を継続することも大切です。ストレッチでは、腰を少し丸めた状態で行うのがポイントです。

 最初に以下の3つのストレッチを指導・実施していきました。

【1】足首ストレッチ
【2】 お尻の筋肉のストレッチ
【3】足の裏の筋膜リリース

 写真とともに順番に解説していきます。

【1】足首ストレッチの方法

1. リラックスして椅子や壁などに手をつく
2. 少し腰を丸めるようにして脚を前後にひらく
3. アキレス腱伸ばしの姿勢で足首をストレッチしていく
4. 前足や後ろ足はつま先と膝がまっすぐになるように意識する
5. 深く深呼吸をしながら、30秒ほどキープ、左右同じ動きで行う
6. 回数は30秒×2~3回

【2】お尻の筋肉のストレッチ方法


1. リラックスして仰向けに寝る
2. 両膝を曲げる
3. 右足首を左足の膝上あたりにのせる
4. 右足の膝を両手で抱え、左肩に向かって引き寄せてお尻の筋肉が伸びるのを感じながら行う
5. 深く深呼吸をしながら、30秒ほどキープ
6. 左右同じ動きを行う、回数は30秒×各2回

【3】足の裏の筋膜リリース方法

1. リラックスして椅子や壁などに両手をつく
2. 少し腰を丸めるようにして脚を前後にひらく
3. ゴルフボールなどを用意して足の裏の下にセット
4. 足を前後左右に動かしながら足の裏の筋肉をリリースしていく
5. 足の裏の内側・真ん中・外側を丁寧にほぐす
6. 左右同じ動きを行う

痛みを和らげるのに効果的な有酸素運動

 この症例において、脊柱管狭窄症での痛みを和らげるのに効果的であった運動をご紹介します。

有酸素運動

 有酸素運動とは、心拍数が一定の範囲内で行われ、体内で酸素を使用してエネルギーを生成する運動を指します。 具体的には、軽〜中程度の強度で長時間持続する運動のことです。

 ウォーキングなどの有酸素運動が有名ですが、Oさんの場合、ウォーキングは症状を悪化させる恐れがあったため、エアロバイクによる有酸素運動を実施。エアロバイクの利点は、自然に腰を丸めた姿勢になり、反り腰状態を予防できることです。そのため、脊柱管狭窄による痛みが少ない姿勢で運動を継続できることから選択しました。

 高齢者の場合、心肺機能が弱っていることが多いため、無理なく徐々に負荷を上げることが大切です。Oさんは間欠性跛行があったため、腰を丸めた姿勢でエアロバイク(有酸素運動)を行い、全身の血流を改善しました。最初は低負荷で週3回行い、徐々に運動時間と負荷を増やして、最終的に20〜30分間の運動が可能になりました。
運動療法施行からの経過と結果

 結果として、日常生活での腰痛が軽減されました。セラピストの施術やストレッチの施行から約2か月で徐々に血流が改善し、間欠性跛行の症状も和らぎ、歩行時間が10分から20分に延長。
また、脚とお尻の柔軟性も向上し、腰痛の軽減が確認されました。その後、有酸素運動をストレッチと併せて行うことで、最終的に30分以上の連続歩行が可能になりました。

 日常生活では、Oさんは自身のコーヒー屋で店番を再開できるようになり、完治したわけではないものの、手術をせずに現在も生活を続けています。

痛み軽減効果のために押さえたいポイント3つ

 今回の症例で痛み軽減に効果的であったポイントは以下の3つです。

【1】 靴の選定
【2】歩行補助具の使用
【3】 ウォーキングに注意

 順番に説明していきます。

【1】靴の選定方法

 Oさんはサンダルを愛用しており、土ふまずが下がる、いわゆる偏平足により脚全体の機能を落としていました。土ふまずの重要な機能は、足の衝撃を吸収し、体重を効率よく分散することです。また、歩行時の安定性や推進力を高め、脚の筋肉や関節の正しい機能をサポートする役割もあります。 この構造が崩れると、歩行能力が下がり全身のバランスが崩れ、長期間続くことで脚全体の血流不全となる恐れがあります。

 Oさんにはサンダルの使用を辞めるよう説明し、着脱しやすいチャック付き、かつ踵をしっかり支える機能のある適切な運動靴への変更を指導しました。

【2】歩行補助具の活用

 シルバーカーや歩行器の使用を検討し、転倒予防や腰部への血流不全を悪化させないために導入しました。高齢者のため、今後を見越した適切な歩行補助具の選定も重要なポイントです。具体的に指導したのは、シルバーカーと言われる歩行補助具を生活で使用してもらうことでした。

 Oさんは手術を拒否されていたので、長期的な視点から、転倒予防や腰部への血流不全を悪化させないため、使用するようにご本人に指導しました。

【3】歩行に注意

 腰痛を持つ方の中には、「歩けなくなるのが怖いから、少し辛くても歩かなければ」と考えてしまう人がいますが、脊柱管狭窄症では、ただ歩くことが症状を悪化させるリスクがあるため注意が必要です。

 脊柱管狭窄症 では、立った姿勢で脊柱管が狭くなりやすく、症状が現れやすくなります。座って休む、または立ったまま膝に手をついて休むと症状が和らぐのが特徴です。また、下り坂では症状が強まり、上り坂では軽くなることもあります。

 Oさんも「歩けなくなるのが心配で、少しは歩かないと」と思っていましたが、運動としての歩行は症状を悪化させる可能性があるため、歩行以外の運動を続けることが重要です。単に「歩かなければ」と考えず、主治医や専門家に相談することが大切です。

まとめ

 脊柱管狭窄症による腰痛は、高齢者に多く見られる問題で、痛みやしびれが日常生活に影響を及ぼすことがあります。手術や痛み止めの対症療法が提案されることが多いですが、高齢者には手術のリスクが気になる方も少なくありません。そこで、リハビリテーションやホームエクササイズによって症状が軽減された事例を紹介しました。

 ストレッチや適切な運動の継続で、完治は難しくても症状の改善が期待できます。また、良い靴を履く習慣や歩行補助具の使用も、歩行困難な状態を改善する大切なポイントです。杖や歩行器を持つことは、見た目にも影響し抵抗がある方もいるでしょう。しかし、補助具の使用は高齢者にとって身体の治療やケアと同じくらい重要な選択肢と言えます。

 今回のケア方法は、自宅で簡単に行えるものばかりなので、ぜひ実践・継続してみてください。

●「脊柱管狭窄症の人の痛みが軽減した例も」腰痛の悩みに!寝たままできる簡単ストレッチを理学療法士が紹介 改善実例と効果的なやり方

●シニアに急増中の【脊柱管狭窄症】6割を改善する「蹴り出し体操」のやり方

●腰を反らせると痛む腰痛で疑われる症状<腰部脊柱管狭窄症>おすすめの運動法「お尻キック」を医師が指導

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