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暮らし

「80代の母が倒れて骨折、入院」介護の始まりに備えること、決めること 経済ジャーナリストが実体験をもとに解説「入院中に退院後のことを決めることが大事」

 2021年から近くに暮らす両親の介護をしている経済ジャーナリストの酒井富士子さんは、「介護は突然始まるもの。何が起こるのか、情報を仕入れて準備しておくと安心です」という。お金のプロが直面した、介護の始まりの実体験をもとに、いざという時に慌てないための段取りや準備について解説いただいた。

教えてくれた人

経済ジャーナリスト・酒井富士子さん

金融メディア専門の編集プロダクション・株式会社回遊舎 代表取締役。ファイナンシャル・プランナー。上智大学卒業。日経ホーム出版社(現日経BP社)にて「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長を歴任。リクルートの「赤すぐ」副編集長を経て、2003年から現職。「お金のことを誰よりもわかりやすく発信」をモットーに、暮らしに役立つ最新情報を解説する。近著に『おひとりさまの終活準備BOOK』(三笠書房)、『「お金の増やし方ぜんぶわかる!新NISA超活用術』(Gakken)など多数。現在、90代の父(要介護5)、80代の母(要支援2)の介護中。

介護の始まりは「骨折による入院」

 元気に暮らしていると思っていた親にも、いつかは介護が必要になる。酒井さんの80代の母親は、3年前に転倒して骨折し、介護の準備が始まったという。

「両親は私の自宅から数駅離れた場所に住んでいるので、ときどき様子を見に行っていました。父と母ふたり暮らしで安心していたのですが、2021年に母親が転倒して脚を骨折し、病院に搬送されました。

 父親に電話で状況を聞いても要領を得ないので、私が中心となって介護の準備をしなければ、と覚悟を決めました」

 骨折から始まって急な入院、介護へと進んでいくにあたり、準備しておくべきなのが、マイナンバーカード、介護保険証、健康保険証、後期高齢者医療被保険者証、公費負担医療受給者証、おくすり手帳など。これらの保管場所を聞いておき、いざというときに持ち出せるようにまとめておくことで、慌てずに済むと感じました。

 肝心なのは介護にかかるお金。こちらはなるべく親の預貯金から使えるようにしておくといいと思います。キャッシュカードの暗証番号を聞いておくなど、普段から情報を共有できるといいですよね」

入院中にやるべきこと【1】「地域包括支援センターで相談」

「母の入院を機に、『いよいよ介護が始まる』と感じました。入院中に、退院後のことを具体的に準備し始めました」(以下「」内・酒井富士子さん)

 まずは、親の居住地の地域包括ケアセンターに相談に行くことがおすすめだという。

 地域包括支援センターは、高齢者支援のよろず相談窓口のような施設。介護全般の専門家である主任ケアマネジャー、医療・保険・介護予防を担当する保健師、福祉の専門家の社会福祉士が在籍しており、地域の介護専門職の人たちと連携して介護業務を行なっている。

まずは地域包括センターへ「介護の不安を打ち明けてみて」

「相談はいつでも受け付けているので、親の介護で不安があるなら活用すべき。親と離れて暮らしている場合は、帰省のタイミングで親が住んでいる地域包括支援センターに行き、相談をしておくと気持ちの面でも楽になると思います。要介護認定を受けてなくても、地域包括支援センター内の職員さんが、サポートしてくださいます。

 第三者に相談することで、ご自身の介護についての考え方に改めて気づくこともあると思います。一緒に住んで在宅介護をしたいのか、離れて暮らしながらケアを続けるのか、介護の方針を定めておいたほうがいい。

 今は親と同居して献身的に世話をするという時代ではありません。介護が必要になっても親にはなるべく自立した生活を送ってもらう、介護をする側の家族も仕事は辞めることなく、自分たちの生活を維持しながら親のケアをする。そのために介護サービスを活用する、プロにおまかせするという考え方が主流になってきています。

 私自身も、母親の入院中に地域包括ケアセンターに連絡し、職員のかたに今後の生活について相談をしました。

 母親が骨折で入院、父親も元気ではあるものの母親の介護を担うほどの体力も判断力もなくなってきている。こうした場合、どのような流れで介護をすればいいのか、その後の生活はどうなるかなど、今後の流れなどを聞いておくことで、介護に必要なものや、気持ちの準備もできると思います」

入院中にやるべきこと【2】「要介護認定や認定の再調査」

 酒井さんの母親は骨折の治療のために約1か月入院した。その間に筋力は落ち、トイレに行くことも難しくなっていたという。

「自宅に帰ってきてから、介護サービスを活用するには、要介護認定が必要になります。病院に入院中でも行えるので、まずはケアマネジャーさんに相談してみてください。

 我が家の場合は、入院前にすでに要支援の判定を受けていました。入院して介護度が進んでいる場合には、入院中に要介護認定をし直すということもできます。

 要介護認定の申請をすると、要支援1から要介護5まで7段階の認定を受け、レベルに応じた介護サービスを活用できるようになります。

 要介護と認定されると、ケアマネジャー(ケアマネ)が今後のケアプランを立て、在宅介護における、必要な介護サービスの調整を行います」

入院中にやるべきこと【3】「リハビリ病院への転院を検討」

 骨折などで入院・退院後、まっすぐ自宅に戻っても日常生活にすぐに戻れない可能性もある。

「地域包括支援センターで相談したケアマネさんから、『退院後にはリハビリ病院で歩行訓練をし方がいい』とアドバイスをしてくださっていたので、その通りにしました。

 母親の退院の目途が立ったとき、病院の看護師さんに自宅に戻る前に『リハビリ病院に転院させたい』と要望を伝えたのですが、その看護師さんは手続きについてよくわからなかったようです。

 病院で気が付いたのは、医師は治療のプロ、看護師は病院内での管理や生活・サポートのプロであり、入院中のことは頼りになっても、退院後の生活については、彼らの仕事の範疇外だということ。退院後のことについては、院内のソーシャルワーカーや、地域包括支援センター、ケアマネが決まっている場合はケアマネに相談すること。

 私がリハビリ病院の選択肢を知らなければ、母は歩行も満足にできないまま帰宅し、在宅介護が始まっていたかもしれません。

 改めて病院に所属するソーシャルワーカーに相談し、リハビリ病院への転院の準備を進めていただきました。

 リハビリ病院に転院する場合は、病院からリハビリ病院に打診していただき、受け入れ可能かどうかの返事がきます。個人では交渉できないので、注意が必要です」

リハビリ病院で「自宅での暮らしを取り戻す」

「骨折の場合、リハビリ病院には最大で180日(半年)いることができます。母の場合は、入院で1か月、リハビリ病院で3か月過ごし、自宅でトイレには自分で歩いて行ける状態まで回復しました。

 入院・リハビリの期間は、在宅介護の準備に充てられます。ケアマネさんと相談し、自宅に手すりや介護用のベッドを搬入するなど、いろいろとやることは多いのです」

 しっかりリハビリをして、自宅に帰ってからもある程度自立した生活ができるようにしておくことが大事だ。また、病院に自分の要望を伝えることも大切だという。

「母親が倒れてから、数か月後、今度は父親が遠方で倒れたのです。搬送された病院は自宅からかなり離れた場所でした。そのままその病院に入院してしまうと、私がその病院に通うのが大変だったため、自宅の近く病院に転院できないかと、病院についてから交渉もしました。

 たまたま自宅から近い総合病院に空きがあり、3日後には救急車で搬送する形で転院することができました」

「高齢の場合、どうしても入院期間が長期になりがちです。医療費は1割などの負担とはいえ、それなりにかかるもの。入院の手続き時に、『高額療養費※を適用してほしい』ということを必ず、窓口に伝えておきましょう。そうすることで、最初から高額療養費の範囲での請求額となります。

 一度立て替えて、後から申請となると、お金が戻ってくるのに数か月かかります」

※月にかかった医療費の自己負担額が一定の金額を超えた場合、軽減(払い戻し)される制度。

介護の「キーパーソン」を決めておこう

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