「80代の母のショートステイ利用料が想定より高い!」負担軽減制度の落とし穴と正しい活用法をFPが解説
親の介護経験があり、介護のお金の相談や手続きを専門とするファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さん。80代の母親がショートステイを利用しているという女性から、「想定していた金額より請求額が高くて驚いた」という相談を受けたという。介護施設の費用は、負担額を減らす制度があるが、正しく利用しなければ適用されないケースも。相談事例をもとに、費用負担制度の正しい活用法を解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
相談事例「母親のショートステイの請求額が想定より高い」
都内在住の相談者Aさんの母親(80代半ば)は、地方で弟さんと暮らしています。母親は認知症の症状が少し出始めて要介護1。ケアマネジャー(以下、ケアマネ)とのやり取りをはじめ、母の介護は弟に任せており、Aさんは経済的な支援をしています。
数か月前に母親は階段を踏み外し、骨折したのをきっかけに入院。その後、ショートステイ※を利用しています。
あるとき、弟さんからショートステイの利用料について連絡がありました。請求額を聞いてみると、Aさんが想定していた額よりかなり高かったので疑問を感じたとのこと。
弟さんは仕事が不規則な勤務なので遠慮もあり、あまり話す機会を作れていないそう。そこでまずは、母親のショートステイ代について詳しく知りたいということで、ご相談にいらっしゃいました。
※ショートステイ(短期入所生活介護)/最短1日から施設に宿泊できる介護保険サービス。
→「ショートステイ」とは? 利用条件、介護保険は使える? サービスや費用を徹底解説
ショートステイの利用料が想定より高かったのはなぜ?
ショートステイの利用料には、介護サービス費や日常生活にかかる費用のほか、食費や居住費などがあります。
食費や居住費については、費用の負担を軽減する「特定入所者介護サービス費」(補足給付)※という制度があり、所得や預貯金等などの要件が定められています。
※<特定入所者介護サービス費(補足給付)>
介護保険施設入所者等の人で、所得や資産等が一定以下の方に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給されます。
なお、特定入所者介護サービス費の利用には、負担限度額認定を受ける必要がありますのでお住まいの市区町村に申請をしてください。(厚労省HP:https://www.mhlw.go.jp/content/000778218.pdf 参照)
Aさんの母親は、年金収入が約50万円、預貯金もわずかしかないため、「特定入所者介護サービス費」の対象となり、第2段階に該当していました。
母親の場合、居住費880円、食費600円(合計1,480円)となり、そこに介護サービス費と日常生活費を加えた金額を想定していました。
ところが、請求額は、居住費2,066円、食費1,445円(合計3,511円)となっていて、想定の2倍以上の請求額となっており、疑問を感じたそうです。どうやら、「特定入所者介護サービス費」の制度が適用されていないようです。
「特定入所者介護サービス費」の対象施設
「特定入所者介護サービス費」の対象施設は、以下のような介護保険施設になります。なお、デイサービス、有料老人ホーム、グループホームなどは対象外です。
・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
・介護老人保健施設
・介護医療院
・ショートステイ利用時(短期入所生活介護、短期入所療養介護等)
認定証が交付されたら、施設への提示が必須
所得や資産などが「特定入所者介護サービス費」の要件に該当する場合は、市区町村に申請し、「介護保険負担限度額認定証」の交付を受ける必要があります。
そして、「介護保険負担限度額認定証」は、交付を受けたら施設側に提示することで負担額の軽減を受けることができます。提示しなかった場合は、負担額の軽減を受けることができないので注意が必要です。
以上のことをふまえ、Aさんは弟さんに連絡し、認定証について確認してみることにしました。
弟さんは、ケアマネージャー(以下、ケアマネ)から説明を受け、「介護保険負担限度額認定証」を役所に申請し、交付はされていました。
しかし、交付後は自動的に費用が軽減されるものだと思っていて、施設側に提示をしていませんでした。そのため、施設側では減額の対象として認識されていなかったことが判明しました。
そこでAさんは、ケアマネに事情を説明し、施設側と交渉してもらった結果、差額分を返金してもらえることになりました。
このような経緯から、Aさんはなんでも弟さんに任せっ放しにせず、姉弟で適切なコミュニケーションをとり、情報を共有しながら母親の介護を進めていくことにしたそうです。
お金の制度は自分でしっかり調べておくことが大切
認定書は提示が必要であることを知っていればこのような事態にはならなかったはずであり、ケアマネや施設側から説明して欲しかったところです。
ある裁判で「施設側には『介護保険負担限度額認定証』の説明義務がある」と認められたケースはあります。この事例では、利用者の娘さんが、施設側に利用料の軽減制度の有無を再三相談していたにもかかわらず、制度の指摘や内容の説明がされなかったという理由から、施設側に説明義務違反による過失が認められ、不法行為に基づく損害賠償金の支払いが命じられました。
しかしながら、親の介護費用で疑問を感じたときは、自分自身でも積極的に情報収集しておくことをおすすめします。ケアマネや施設に相談するのは先決ですが、親の住む自治体や地域包括支援センターなども活用しましょう。
※参照/「国民生活5No129 暮らしの判例」(P35)より。
https://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-202305.pdf
介護費用は制度やその活用法を知ることが大切【まとめ】
介護費用を軽減する制度のひとつに、「特定入所者介護サービス費」あります。所得要件や資産要件に該当した場合には、役所の窓口で申請し、「介護保険負担限度額認定証」を交付してもらいましょう。
交付後は、自動的に「居住費・食費」の軽減が適用されるわけではありません。必ず介護施設に“認定証の提示”を忘れてはいけません。
なお、「特定入所者介護サービス費」の給付費は、平成30年度から令和2年度まではほぼ横ばいでしたが、令和3年度から減少しています。
これは、同年に行われた要件の見直しによる負担限度額の引上げが原因のひとつと推測できます。
さらに3年ごとの見直しにより、2024年8月から居住費の負担額は60円(日額)引き上がりました。
※参照/厚生労働省 老健局「給付と負担について」(令和4年10月31日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001006632.pdf
※参照/厚生労働省「介護保険事業状況報告 年報」(平成30年度~令和4年度)
介護費用を抑えるために、制度の内容だけでなく使い方も知っておくことが大切です。制度についてわからないことがある場合は、お住いの自治体や地域包括支援センターなどにも積極的に相談するといいでしょう。
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