「認知症の母親の介護で疲弊する姉が心配」相談実例 初めての施設選びを費用面からFPが解説
認知症の親の介護経験があり、介護のお金の相談や手続きを専門とするファイナンシャルプランナーの河村修一さん。「地方に暮らす母親が認知症で、実家の近くで面倒を見ている姉が疲弊しているので施設を探したい」という相談を受けたという。実例相談をもとに、施設選びのポイントや費用について解説いただいた。
「認知症の母親の施設選び」実例相談をもとにFPが解説
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
※記事中では、相談実例をもとに一部設定を変更しています。
相談事例「認知症の母親の介護で疲弊する姉が心配」
都内で暮らすAさん(50代男性)の母親(80代)は、認知症で要支援2、地方の実家でひとり暮らしをされています。母親の介護は、実家から車で30分ほどの場所に暮らすAさんのお姉さんがほぼおひとりで担っているとのこと。
最近、認知症の母は、夜遅くに遠く離れたショッピングモールに買い物に出かけて帰れなくなり、警察から姉に電話がかかってきたことも。
また、昼間に外出して迷子になったりすることも頻繁に起こるようになり、そのたびにお姉さんが迎えに行くなど、負担が増えています。お姉さんは、精神的にも肉体的にも疲れ切っているご様子。
「そろそろ施設介護に切り替えるべきなのではないか」と、母と姉を心配するAさんが、介護施設の種類や費用等についてご相談にいらっしゃいました。
Aさんのお母様が暮らすための施設をピックアップしてみましょう。
費用面から考える介護施設の選び方のポイント
施設を選ぶときに、まず直面するのが費用の問題ではないでしょうか。
まず、主な介護施設には、特別養護老人ホーム(特養)などの「公的施設」と、介護付き有料老人ホームなどの「民間施設」があります。もちろん公的な施設のほうが安く抑えられます。
ただし、公的施設の場合、特養は原則として要介護3以上などの要件があります。
また、比較的費用が安いケアハウス(軽費老人ホーム)は、特養と同様に人気があり、すぐに入所できるとは限りません。
一方、民間施設では、有料老人ホームは費用がピンキリで事業者によって大きな価格差があります。サ高住は、有料老人ホームに比べて費用が安く、施設数も増えていて入居しやすいのですが、介護サービスを外部に頼まなければならないケースもあります。
→特別養護老人ホーム(特養)とは?費用や入居条件、申し込み方法「早く入居するコツ」も解説
→年金で入れる「ケアハウス」とは?種類や入居条件、費用、サービスを解説 入居した父親が退去を余儀なくされた実例も【FP解説】
→サ高住「サービス付き高齢者向け住宅」とは?費用や入居条件、サービスを解説【専門家監修】
介護施設の特徴と費用負担のイメージ
厚労省※の資料をもとに、4タイプの施設の特徴を見ていきましょう。
■介護付き有料老人ホーム
主に民間が運営。住居や食事、生活支援、介護サービスなどが一体的に受けられる施設。費用は施設によって大きな差がある。
■サ高住
主に民間が運営。安否確認や生活相談サービスのほか、食事の提供サービスを行っているところも。介護サービスは外部と契約するケースが多い。有料老人ホームに比べて費用が安い。
■ケアハウス(軽費老人ホーム)
公的な施設。生活コストを抑え、食事の提供や日常生活に必要なサービスを受けられる。介護サービスは提供されない場合もあり、介護度によって住み替えが必要になるケースも。
■特養
公的な施設。65才以上、要介護3以上などの要件がある。比較的安く利用でき、低所得者等には、食費・居住費の負担軽減制度などもある。
※参考/厚生労働省「-高齢者向け住まいを選ぶ前に―消費者向けガイドブック」
https://www.mhlw.go.jp/content/001209213.pdf
※参考/厚生労働省「施設・居住系サービスについて H26.4.28」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000044903.pdf
すぐに入居できるのはどんな施設?
費用が安い公的な施設は人気が高く、入所待ちのケースがほとんどです。比較的安く入居できる「サ高住」と「ケアハウス」を比べた場合、「サ高住」のほうが、戸数も利用者数も圧倒的に多く、「すぐに入居できる可能性が高い」ことが推測できそうです。
サ高住のほうが利用者数が圧倒的に多い。※ケアハウスは毎年10月1日現在での定員数。サ高住は毎年9月末の戸数。グラフ/河村修一さん作成
■ケアハウス・サ高住の利用者数
年|軽費老人ホーム|サ高住
平成30年|94,456|234,971
令和元年|95,376|247,644
令和2年|95,421|259,272
令和3年|95,311|270,244
令和4年|95,693|278,320
※参考/厚生労働省 社会福祉施設等調査 平成30年~令和4年 総括表
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/23-22c.html
※サービス付き高齢者向け住宅情報提供システム サービス付き高齢者向け住宅の登録状況(令和6年7月末時点)
https://www.satsuki-jutaku.jp/search/index.php
「姉の介護疲れ」から施設介護を検討
Aさんのお姉さんは、母親の介護で疲れてしまっているご様子。Aさんも協力したいところですが、頻繁には実家に帰ることができない事情もあります。
母のことも心配ですが、介護をする姉の負担を減らすためにも、できれば早く入居できる施設を探したいという状況です。
認知症の介護は長引くこともあるため、在宅介護をひとりで担うのは心身ともに負担が大きいものです。
ひとりで介護を抱え込み、精神的に追い詰められてしまい大きな問題引き起こす事例も少なくありません。
厚生労働省の調査※によると、高齢者の虐待の要因は、「認知症の症状」が最も多く、虐待者側の要因では、「介護疲れ・介護ストレス」がトップに挙がります。
虐待を受けた側の主な要因トップ5
認知症の症状…56.6%
身体的自立度の低さ…44.9%
障害・疾病…35.8%
精神障害(疑いを含む)、高次脳機能障害、知的障害、認知機能の低下…31.1%
排泄介助の困難さ…30.9%
虐待をした側の主な要因トップ5
介護疲れ・介護ストレス…54.2%
理解力の不足や低下…47.9%
知識や情報の不足…47.7%
精神状態が安定していない…47.0%
被虐待者との虐待発生までの人間関係…46.5%
※参考/厚生労働省老健局「高齢者虐待の実態把握等のための調査研究事業報告書」
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001148654.pdf
※厚生労働省 令和4年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(資料2)13頁・14頁・20頁
https://www.mhlw.go.jp/content/12304250/001224158.pdf
介護費用の軽減制度の確認も
Aさんは、お姉さんと話し合った結果、母親を「サ高住」に入居してもらうことに決めました。
「サ高住」に決めた理由は、「すぐに入居できること」「費用の面で折り合いがついた」「姉が通いやすい立地で選ぶことができた」。この3つがポイントだったそうです。
Aさんは、度々帰省することが難しいため、母親の施設代の多くを援助することにしました。もともと姉弟の仲が良かったので、母親の介護方針等についても揉めることなく円滑に進めることができたそうです。
介護費用は、一定の要件を満たすと医療費控除のほか、障害者控除※などの適用もできます。障害者控除は、私も父親を介護していたときに活用しました。
少しでも経済的な負担を軽減するために、お住いの自治体の制度を確認しておきましょう。
※要介護認定を受けた65才以上の人で、障害に準じる状態の場合、市町村長などで認定を受けることで、「税法上」の障害者となり所得税や住民税が軽減される制度。
→詳しくはこちら「要介護1の父に約10万円が還付された!障害者手帳がなくても申請できる「障害者控除」の実例【介護のお金FP解説】」
認知症の親の施設選び、兄弟姉妹で介護を実践するために必要なこと【まとめ】
認知症など親の介護は長引くことも多く、「在宅介護」か「施設介護」で悩まれるかたも多いのではないでしょうか。
「在宅介護」を選んだ場合、介護者はひとりで抱え込まないようにしたいものです。地域包括支援センター等に相談するほか、日頃から離れて暮らす兄弟や姉妹、近くに住む知人とのコミュニケーションをしっかり取っておきたいものです。
後々揉めることのないように、介護を担う兄弟や姉妹の間で、役割分担や費用の配分などを決めておくといいでしょう。また、お住いの自治体に介護費用の負担を軽減できる制度がないか、確認することをおすすめします。
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