「親から子へ資産を相続したい」贈与税改正のポイントと新制度のデメリットをFPが解説
「生きている間に子や孫に資産を受け継ぎたい」「親が高齢になってきたので財産の相続を考えたい」。そんなときの節税対策のひとつに生前贈与がある。新たに贈与税の税制が改正され、今年の1月1日から適用が開始された。改正のポイントや新たな制度のデメリットなどについて、ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
贈与税の改正 新たな制度を解説
親の財産を子供などに引き継ぐ場合、生前には「贈与税」がかかり、亡くなった後には「相続税」を支払う必要があります。
贈与税の課税方法には、【1】「暦年課税」と【2】「相続時精算課税」の2つの方法があります。これらが改正され、2024年1月1日以降の贈与から適用されるようになりました。
国税庁の発表(令和4年分)によると、暦年課税を適用して申告した人は45万4,000人となっています。
一方、相続時精算課税を適用して申告した人は4万3,000人と、利用者が少ないのが現状です。そんな状況から、今回の改正では「相続時精算課税」を使いやすくする狙いがあるようです。
新たに改正されたポイントについて、以下で詳しく解説していきます。
参考/令和4年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(国税庁)11頁
https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023005-053.pdf
令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf
【1】暦年課税とは?
暦年課税とは、最も基本的な贈与税の制度です。毎年1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額が、受け取る側1人当たり110万円(基礎控除額)までは、贈与税はかからず、申告も不要というものです。
暦年課税を活用して、生きている間に財産を数年に渡って子供などに引き継ぐことで、相続税の節税効果があります。
暦年課税には、18才以上の人が両親や祖父母など直系尊属から贈与を受けるケース(特例贈与財産)と、兄弟間や夫婦間、18才未満の子供などが贈与を受けるケース(一般贈与財産)の2種類あり、それぞれ贈与税の税率が異なります。
いずれも贈与額が110万円を超えた場合には、贈与税を支払う必要があり、金額が上がるほど税率が高くなる仕組みです。
なお、毎年同じ金額を一定の期間で贈与する「定期贈与(連年贈与)」とみなされた場合、課税の仕組みは異なります。
※参考/No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合(定期贈与)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm
暦年課税の改正ポイント「贈与の加算期間が3年から7年へ」
これまで暦年課税は、贈与者が亡くなった日から、遡って3年前までの贈与額(110万円以下の贈与財産も含む)を相続財産に加えて相続税を支払う必要がありました。
新たな改正で2024年1月1日以降の贈与から、3年→7年前までに延長されました。ただし、延長された4年間に受けた贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算されません。
★改正ポイント
・生前贈与加算の期間が7年に延長
・延長された4年間に受けた贈与は総額100万円控除 v
たとえば、10年前から贈与を受けていた場合、今回の改正により、7年分の相続財産に対して課税されることになるため、相続税がアップすることに。つまり、今回の改正により暦年課税の節税効果は薄くなったといえるでしょう。
【2】相続時精算課税とは?
相続時精算課税制度とは、その名の通り「相続時」に精算して課税するもので、2003年の税制改正で導入されました。
原則60才以上の父母または祖父母などから、18才以上の子または孫などに対し、財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度です。
生前に贈与した財産額が、累積2,500万円までは非課税となり、贈与税はかかりません。ただし、2,500万円を超える部分については贈与税が一律20%かかります。
相続時精算課税制度を利用する場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に所定の書類を税務署に提出する必要がありました。
この制度を活用することで、たとえば土地や不動産などの高額な財産や、ある程度まとまった金額を親から子などに生前贈与する場合など、短期間にまとまった財産を移転できます。ただし、相続税は、贈与時の時価で計算されます。
財産の贈与者ごとにこの制度を利用するか否かを選択できますが、一度選択するとその贈与者については暦年課税に変更することはできません。
※参考/国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
相続時精算課税の改正ポイント「年110万円の基礎控除を新設」
相続時精算課税には、特別控除額2,500万円とは別に、年間110万円の基礎控除が新設され、2024年1月1日以降から適用されるようになりました。
なお、贈与した財産が基礎控除額以下の場合は、申告の必要はなく、事務負担が軽減されるなど使い勝手が向上しました。さらに、相続発生時も基礎控除額を除いた残額が相続財産に加算されます。
改正以前は贈与時の時価で計算されていましたが、新たな改正により、土地・建物が令和6年1月1日以降に発生した災害で一定の被害を被った場合には、相続税の課税価格を再計算されることになりました。
★改正のポイント
・年間110万円の基礎控除の創設
・基礎控除分までは贈与税も相続税もかからない
・土地建物が災害で一定の被害を受けた場合、相続時に再計算
たとえば、3年間で2500万円(現金)の贈与を受けた場合、改正前であれば、相続が発生した時点で生前贈与した2,500万円がそのまま相続財産として加算されます。さらに、2年目以降、贈与額が100万円でも1000万円でも申告が必要でした。
改正後は、基礎控除分までは申告の必要もなく、相続財産にも加算する必要がないため節税の効果が上がりました。
贈与税の改正【まとめ】
今回改正により暦年課税制度は節税効果が薄くなったのに比べ、相続時精算課税は基礎控除の創設等、使い勝手が向上しています。
ただし、一度、相続時精算課税を選択すると、暦年課税に変更することはできないので注意が必要です。
「暦年課税」と「相続時精算課税」どちらを選択するかは、贈与の期間や贈与金額等によって慎重に検討する必要があるでしょう。詳しくは、税理士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
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