「99才のパッチワーク作家」「94才の佃煮屋の看板娘」【90代の金言】パワフルな女性に学ぶ人生を楽しく生きる極意
「もうね、いまは楽しすぎちゃって。でも、老け込まないように、経理だけは譲ってませんから」
昭和4年4月6日東京都生まれ
好きなもの:辰巳ゆうと、松本潤、韓流ドラマ、えびグラタン
「ほら、これちょっと召し上がってみて、おいしいから」
店を訪れた客一人ひとりに、佃煮を混ぜ込んだ小さなおにぎりをすすめる。
「江戸っ子っつうのはね、食べるまで帰さない。本当にしつこいんですよ」と笑うのは、店主の草間千恵子さん、御年94才。
東京・台東区の浅草にある『佃煮処 千草屋』の現役“看板娘”だ。昨年からSNSやYouTubeで“推し活”に励む様子や、「グー!」と言いながら大好物を頬張る姿がアップされると、「何て元気なの?」「かわいい」と瞬く間に大バズり。最近ではLINEスタンプにも登場する“いま話題のおばあちゃん”となった。
「私にとっては普通のおばあちゃんなんですが、友人から『どう見ても同年代の人より元気だよね』と驚かれるので、だったら記録してみようとSNSを始めました」と語るのは、孫の麻咲子(あさこ)さん。
取材時、千恵子さんは腸の検査入院から退院したばかり。もう1週間入院予定と聞いていたが、驚異の回復力で4日も早く退院したと連絡をもらった。
「えびグラタンが食べたくて、我慢できなかったんですねえ。病み上がりでも、きれいに完食しましたよ(笑い)」(千恵子さん・以下同)
元気の源は食だけにあらず。服とスカーフ、エプロンのコーディネートを毎日変えるほど、ファッションへのこだわりも強い。
しかし、最大の活力源は「推し」の存在だ。松本潤主演の『99.9-刑事専門弁護士-』に始まり、『愛の不時着』のヒョンビン、『キム秘書はいったい、なぜ?』のパク・ソジュンなど、数々のイケメンにハマってきた。
「『どうする家康?』(NHK)は地上波とBS両方見ますし、『愛の不時着』は、17回は見たかしらね。韓国ドラマ(以下、韓ドラ)は男前と女前が出てくるラブコメが好きねえ。夢があって楽しいじゃない?」
麻咲子さんの友人とも韓ドラの話題で盛り上がるというから、根っから気持ちが若いのだろう。
現在の“最推し”は、演歌歌手の辰巳ゆうとだ。
「テレビの演歌番組を見て一目惚れ。歌もしゃべりもうまいし、人にかわいがられる性格で、応援したくなりますねえ」
麻咲子さんからもらった辰巳のアクリル製フィギュアを持ち歩き、レストランでもテーブルに置いて、一緒に食事を楽しむ溺愛ぶり。浅草の老舗レコード店『ヨーロー堂』で行われたイベントにも駆けつけた。
「ゆうとくんから『千草屋のおばあちゃんですよね』って話しかけられたんですよ! もうドキドキなんてもんじゃない。イベントが終わって食事をしているときも動悸が止まりませんでした」とうっとり。なんともかわいらしい笑顔だ。
●最期まで希望は捨てない方がいい
いままさに人生を謳歌している千恵子さんだが、4才から母親を助けて家事をし、丸ビルのエレベーターガール、進駐軍宅のメイドなど、これまでさまざまな仕事に就いてきた。
「勤めるなら絶対に自分が納得するところと決めていた。メイドの仕事はお給料がよかったんですよ。女学校卒が採用条件で、私は小学校しか行っていなかったけど、当てずっぽうで言った学校名が実在していて通っちゃった(笑い)。いい時代でした」
19才で結婚後、現在の地で洗い張りの仕事を始め、翌年呉服店に鞍替えした。しかし…。
「25才のとき、5才の長男を事故で亡くしました。染物職人だった主人(38年前に死別)は、ショックで一切仕事をしなくなり、それ以降、ずっと私が働いてきました。悲しかったけど、働くことは苦にならなかった。むしろ、そのお陰で乗り越えられたのかもしれません」
70才の誕生月、千恵子さんは50年経営した呉服店を畳み、佃煮屋を始めると宣言。実行に移した。
「もう呉服の時代じゃないと勘が働いたんです。70才だから引退? まったく考えませんでした。私のきょうだいからは反対されましたよ、1年持たないだろうって。でもね、私は『そりゃ結構だ』と言ったの。1年でつぶれようが人様に迷惑はかけない、自分が責任を負うんだから」
直感通り、店を軌道に乗せたものの、次は病気との闘いが待っていた。80代で大腸がん、肺がんを患ったのだ。それでも…。
「がんなんてまったく恐ろしくなかったわね。むしろ『迷惑かけないで死ねるなんて、こんないいことない』くらいよ」と清々しく言い切る。
現在、『千草屋』は千恵子さん、麻咲子さんの母の裕樹子さん、麻咲子さんの三代で切り盛りしている。5年前に次男で裕樹子さんの夫を不慮の事故で亡くす悲劇に見舞われたが、3人はすこぶる明るい。きっと、強い絆で乗り越えてきたのだろう。
「ママ(裕樹子さん)や孫が助けてくれているおかげで、店も安泰。あちこち連れて行ってくれるし、幸せですねえ。もうね、いまは楽しすぎちゃって困ります。すっかりラクさせてもらっちゃって(笑い)。でも、まだ経理だけは譲らず自分でしているんですよ。それをなくしたら老け込んじゃいますからね」
そんな千恵子さんについて麻咲子さんは、「いくつになっても何でもできることを教えられました。おばあちゃんのように、一生働いてもいいかなと思います」と語る。
大きな悲しみも受け止めながら、どこまでもパワフルで前向きな千恵子さん。今後の目標は?
「せっかくもらった命だから、おいしいものを食べて幸せに生きなきゃ。欲を言えば、ゆうとくんがこの店に来てくれたら死んでもいいね(笑い)。やっぱり、希望は捨てない方がいい、それがいちばんだね」
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2023年9月28日号
https://josei7.com/
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