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《78歳フルマラソンデビューの92歳現役ランナー》北畑耕一さん、今でも年に3回大会に挑戦「記録は7時間20分ぐらい」日本ではゴールできないこともある事情

 78歳で初フルマラソンを完走し、83歳での大手術を経てなお、世界の大会で最高齢記録を塗り替え続ける北畑耕一さん(92歳)。昨年のニューヨーク・シティマラソンでは最高齢完走者として選抜チーム入りも果たした。生涯現役を貫くスーパーランナーが、走ることの喜びと直面する課題を語った。【全3回の第2回】

脊柱管狭窄症の手術をするも、8か月後にフルマラソンを完走

――マラソンを始めたきっかけを教えてください。

北畑さん:70歳で仕事を辞める少し前から健康のために水泳を始めたのですが、74歳の時白内障の手術を受け、しばらくプールに入れなくなりました。ジムのインストラクターから代わりにジョギングを勧められました。まずウオーキングから始め自然にジョギングに移行していきました。75歳からは仲間に誘われて湘南月例マラソンに毎月出るようになりました。先ずは3km、その後5km、10kmと距離を伸ばして行き、2012年78歳の時フルマラソンへの願望が強くなりました。そこで湘南月例で20kmを2回(たった2回)走ったのち最初のフルマラソンをパリで走りました。

――それからさまざまな大会で最高齢記録を塗り替えることになりますが、83歳で脊柱管狭窄症に。

北畑さん:脊柱管狭窄症の手術は、麻痺や排泄障害の後遺症が残る可能性があるので、怖くて敬遠されがち。保存療法(薬)で治そうとする人が多いんです。私は2015年の暮れにホノルルマラソンを走ったのですが、その後から痛くなりだして、あまりの痛みに翌年、手術を受けることにしました。これで走れなくなるとは微塵も思いませんでした。

 3月に背中を切って手術をしたのですが、先生が「どんどん運動してください」と言うんです。それでリハビリをしっかりして、8か月後にニース・カンヌのフレンチ・リビエラマラソンに出場して完走しました。基本的には、出場する大会は日本1回、海外で2回、計年3回と決めています。

――直近のレースは昨年11月に開催されたニューヨーク・シティマラソンで、ここでも北畑さんは最高齢完走者になりました。

北畑さん:今回は3回目だったのですが、実は倍率が30倍ぐらいの人気の大会です。初参加の2014年(80歳)は年代別80歳以上で1位に、2018年(85歳)は最高齢完走者として、どちらもティファニーのお皿をいただきました。今回も最高齢完走者になったので、ティファニーの記念品が届く予定です。

 昨年は特に、緊張感のある大会でした。「チーム・インスパイア」という、がんや心臓病を克服したサバイバーや、国際的バックグラウンドのあるランナーなど、ドラマを持つランナーが、マラソンの距離である26マイルにちなんで26人選ばれましたが、私も最高齢ランナーとしてチームの1人に指名されたのです。

 ニューヨーク・タイムズなどの取材を受けなければいけないので、完走できなかったら恥ずかしいですよね。だから完走できてホッとしました。と言うのも、苦い思い出があるんです。

日本のマラソン大会で立ちふさがる壁

北畑さん:日本のフルマラソン大会の制限時間は、長くても7時間ほどです。だから途中で制限時間が来て、何度もストップされています。それが一番つらいです。例えば、2016年の湘南国際マラソンに出場したとき、テレビカメラも入る取材を受けていて、ゴールには家内や子供が待っていましたが、時間制限で完走できませんでした。恥ずかしかったですね。30kmぐらいまで行っていたので、あとちょっとだったんですけど。

 海外の場合は、走る意思のある人は走らせるんです。ニューヨーク・シティマラソンは10時間半ぐらいの人もいますよ。私よりも3時間も遅いんだから、ゴールするときは夜ですでに真っ暗です。それでもゴールが開いています。ごく僅かな例外を除いて、日本のマラソン大会はそれほど寛容では無いんです。結果として、高齢になると大会に参加するモチベーションがなくなると思います。余力があってもスピードが落ちてくるので、完走できなくなるからです。

 日本だとゴールができないので、成り行きで海外で走ることになります。2023年はシカゴまで行きましたが、風邪をひいてしまい、走れずに帰ってきました。お金ももったいないし、残念ですよね。ですから日本でももう少し制限時間を緩やかにしてもらえば、国内で走る回数も増えると思います。道路規制の問題もあって、簡単にはいかないでしょうけれど。何歳になっても、完走する意思があれば完走できる大会が増えてほしいです。

――他にも、日本と海外の違いはありますか?

北畑さん:パリでもニューヨークでも見知らぬ外国人ランナーに対する応援が半端ないです。ゼッケンに名前が印刷されている時は「KOICHI!」と声をかけてくれます。日本では身内や同じ会社の人には懸命に応援しますが、知らない人には冷ややかな印象です。

 ロンドンの大会ではゼッケンに年齢も記載されていて、ランナーが私を追い抜く時に肩をポンと叩いて、サムズアップしてくれることも。私は遅いから何千人と抜かされるのですが、中にはね、「頑張れ」とか「こんにちは」とか、日本語で声をかけてくれる人もいて楽しいですよ。

――これからの目標をお聞かせください。

北畑さん:できるだけ長くマラソンを続けることですね。タイムは確実に落ちていきます。今までの記録を調べると、1年ごとに10分ほど落ちていました。マラソンを始めた頃は5時間40分ぐらいだったのが、いまや7時間20分ぐらいのところを推移している状態です。タイムが落ちるのはやむを得ないと割り切ってやっています。

 日本の最高齢フルマラソン完走者は奥山新太郎さんの96歳です。そこを目標にしているわけではありませんが、私もできるだけ走り続けたいと思っています。

◆ランナー・北畑耕一

きたばたけ・こういち/1933年11月3日、神奈川県生まれ。伊藤忠商事を経て外資系日本法人の代表を歴任し、70歳で退職。74歳から走り始め、78歳で初マラソン完走。80歳でニューヨーク・シティマラソン年代別1位を獲得。83歳で脊柱管狭窄症の手術を受けながらも、わずか8か月後にフレンチ・リビエラマラソンを完走。以降、国内12回・海外22回、計34回のフルマラソンを走破し、最高齢ランナーとして注目を集めている。

撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香

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