猫が母になつきません 第362話「にづくりする」
施設に入った母はさっそくお友達ができて、自分の部屋でお茶しながらおしゃべりをしている写真が幼馴染から送られてきました。母が毎日自分の部屋に誘い、そのお友達が迷子になって自分の部屋に帰れないということが頻発し、母がその方の部屋に近い空き部屋に引っ越したほどです。その一方で母は夜中に起きて荷造りを始め、朝には帰り支度を完了させているという毎日を送っています。部屋にスーツケースなどはないので洗濯物を入れるための大きなランドリーバッグにすべて詰めこみ、入りきらないものは部屋にあるゴミ箱用のビニール袋に。朝食の時、母はショルダーバッグとリュックを抱え、帽子をかぶって食堂に現れるのです。《帰宅願望》の原因は人によっていろいろですが、母の場合は自分が置かれている状況を理解できず、とりあえず安心できる場所に帰りたいというものだと思います。施設が合わないわけではなく、ただただ「帰らなくては」という気持ちにかられているのです。ドイツのある介護施設には「バスの来ないバス停」があるそうです。家に帰ろうとする入居者はバス停に腰を下ろしバスを待つ。5分もするとなぜ自分がそこに座っているか忘れ、施設のスタッフが「バスは遅れているみたいですから中でコーヒーでも」と声をかけると素直に戻っていく。今は日本にもあるようです。母の帰宅願望は当分おさまりそうもありません。そして母が帰りたい家はこの先なくなることが決まっています。どこか罪の意識と、今後のことを考えるとそうするしかない状況と…。私も「バスの来ないバス停」にひとりぽつんと座って、何が正しいのかわからないけど何か答えがでるのを待っている、そんな気持ちです。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。
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