猫が母になつきません 第361話「かくにんする」
タグのアプリの中で母を表す印は「おばあちゃんの顔」アイコンにしています。スマホの地図上で「おばあちゃんの顔」はほとんど動きません。当然です、母はずっと施設にいるのですから。一緒に住んでいたときは、母がかばんや鍵をどこに置いたかわからなくなったしまった時に探したりとか、ひとりで出かけたときに今どこにいるかを確認したりするために使っていた「紛失防止タグ」。念のため母のかばんにつけたまま施設に置いてきたのですが、私はその動くはずのないタグの位置を一日に何度も見てしまいます。「おばあちゃんの顔」はいつも母がいる施設の上にあって、たまにすこーしだけ動いていることもあります。私はそれを見てただ「いるいる」と思うだけ。いなくなってさみしいとかそういう感傷的なことでもなく、その小さなタグの印が目の前にいない母の存在の証明のようにずっと地図上にあるのを確認する。それは11年間母をみてきた習慣を急にはやめられない私の代償行為なのだと思います。タグを置いてきたときには、母がかばんを施設内で失くしてまったときのためとか、しらないうちに母がひとりで外に出てしまったなど万が一の緊急な事態が起こったときのためを考えていたのですが、結局それは母のためではなく私のためのものになりました。「おばあちゃんの顔」は今日も同じ場所にいます。
【関連の回】
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。