いま改めて注目が集まる伝説の自然食研究家東城百合子さんの“人生を変える自然療法”とは?「食を制するは人生をも制す」
「若い頃に結核で死にかけました。そのとき、私は身近にある野草や薬草に助けられ、玄米自然食と自然のお手当てを実行して救われました。私はいま生きているのではなく、『生かされている』と思うと、死の床から立ち上がった感激がよみがえってきて、私はじっとしていられない思いで、健康づくりのためにかりたてられるのです」
自身の闘病体験をきっかけに自然食を中心とする「自然療法」を確立し、生涯を人々の健康のために尽くし、2020年に94才でその生命を全うしたひとりの女性に、いま注目が集まっている。
あらゆるものが24時間手に入る時代だからこそ、響く言葉
彼女の名前は、東城百合子さん。
自身の闘病時に実践した食生活や療養法を丁寧にまとめた著書『家庭でできる自然療法』は、1978年に刊行されて以来、累計100万部を突破したロングセラーであり、出版から半世紀近く経ったいまでもアマゾンの「売れ筋ランキング」の常連だ。映画監督の安藤桃子さんが「コロナ禍で寄り添ってくれた1冊」として紹介したり、女優の財前直見(57才)もインタビューで「東城百合子先生に学んでからは、どくだみやよもぎで虫よけスプレーを作ったり、びわの葉で化粧水を作ったり…」と話すなど各界で根強いファンが多い。
お総菜もインスタント食品も、薬もサプリメントもあらゆるものが24時間手に入る現代だからこそ、彼女の言葉が強く響いてくる──。
24才で重い肺結核を患った東城さんは、薬による化学療法を施すもまったく効果がなく、死の淵をさまよった。その経験から「結核菌は酸性のよごれた血の中で発達する」という持論のもと、体を酸化させる作用を持つ乳製品や動物性たんぱく質を断ち、玄米と野菜、野草を中心に小魚や大豆を食べる生活を実践。その結果、病気に打ち克ち、実体験をもって「食を制するは人生をも制す」と表明してきた。
「自然が持つ力や食物の命を大切にして食べること」
20年前、東城さんが主宰していた「あなたと健康料理教室」の料理教室を受講して教えを受け、現在は神奈川・葉山で料理教室を開催する佐藤市子さんは、東城さんから学んだことで特に強く印象に残っているのは「自然が持つ力や食物の命を大切にして食べること」だと話す。
「だから野菜1つとってもその力を最大限得るために季節のものを食べること。いまは一年中、ほとんどの野菜が手に入りますが、夏に冬野菜を、冬に夏野菜を食べてはいけない。栄養価も低いし、体にもいい影響はありません。また、釣った魚も、命をいただくのだから、頭から骨まで無駄にするべきではないと教わりました」(佐藤市子さん)
野菜も捨てるところは最低限にして、「皮ごと」食べるのが、東城さんの自然療法における重要なポイントだ。過去のインタビューでは「食べ物は天からいただいたもの。野菜は皮だって全部使います」と語り、『家庭でできる自然療法』にも<ねぎの根も大根の皮も、小松菜の根、玉葱のうす皮も根も全部捨てない。玉葱の皮はだしをとる時に一緒に入れたり、シチューなどの煮込み料理に使います。また薬草茶の中にまぜて煎じる>と記している。
自然に感謝して、すべてを食べるという考え方は、医学的見地からはどう捉えられるのか。朝倉医師会病院の内科医、佐藤留美さんが解説する。
医学的な見地でも「非常に理にかなった健康法」
「食品は加工すればするほど添加物をはじめとした余計なものが組み込まれていき、糖質や脂質も増える。その結果、高血圧や糖尿病、高脂血症などの生活習慣病など病気のリスクが高まります。だから、旬の食材をまるごと調理して食べるのは非常に理にかなった健康法だといえます」
現に医療関係者にも、東城さんの理論を生活や治療に取り入れている人は多い。70才にしてフルタイムで現役の歯科医として働く、鈴木歯科医院(千葉県東金市)の鈴木能文さんもそのひとり。
「いまも毎日、逆立ちとブリッジをやるくらい元気です。診療中も笑いながら大きな声で仕事をするので、待合室まで声が響くと言われることもあるんです」と微笑む鈴木さんだが、自然療法と出会うまでは虚弱体質で頻繁に体調を崩していた。
「特に小さな頃は偏食で本当に体が弱かった。自然療法を実践し始めたのは大学の歯学部3年生のときです。偶然入った自然食のお店に、東城先生が発刊された『あなたと健康』が置いてあったんです。当時は栄養が足りないなら肉を食べた方がいいと思っていたし、実際に毎日肉をたくさん食べていたのですが、『あなたと健康』には“肉は血をよごす”と書いてあって、逆効果だったと気がつきました。それからは玄米と野菜を中心とした食生活に切り替え、やっと病気知らずの健康な体を手に入れることができた。いまでは患者さんにもすすめています」(鈴木さん)
肉のほかにも自然療法における「避けるべき食品」は多くある。食品添加物入りの加工食品や化学合成調味料、甘味料はもちろん、肉や赤身の脂っこい魚、卵、バターやラードなど動物性の食品は控えるべしとされている。
「白砂糖や砂糖を使った加工食品もとらない方がいいと教わり、お菓子やケーキはもちろん、料理の味付けに至るまで、東城先生は白砂糖を使わないことを徹底なさっていました」(佐藤市子さん)
鈴木さんもその「教え」を守り、白砂糖をあまり口にしないようにしている。
「甘い味付けが必要なときは、茶色いものに置き換えて、黒砂糖やはちみつ、ぎりぎり三温糖まではOKとしています。私自身、患者さんの口腔環境などをチェックしていますが、なかなか症状が改善されないかたは、白砂糖が多い食生活をしていることが多い。体に悪いことは確かなのです」
■「自然療法」食べるべき・避けるべき主な食品
●食べるべき食品…玄米・半つき米・発芽米・発芽入りのパン・ひえ・あわ・きび・ハト麦・野草・海草・旬の野菜(根と葉、色の濃いものとそうでないものを抱き合わせる)・豆腐・ごま・木の実・小魚・川魚・白身魚
●避けるべき食品…動物性のバター・ラード・マーガリン・白砂糖・肉類・冷たすぎる、または、熱すぎるもの・辛いもの・刺激物・アルコール類・たばこ・清涼飲料水・コーヒー・紅茶・缶詰・インスタント食品