茶室や畳の大広間も!共用部分で選ぶ有料老人ホーム【まとめ】
オープンしたばかりで話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
共用部分の充実度と独自性は介護付有料老人ホームを選ぶ際のポイントの1つ。ワンルームタイプの居室の場合、自宅よりも狭くなる人が多いが、それを補い、自宅以上に豊かな生活を送るために鍵を握るのが共用部分だ。特に一軒家から移り住む場合は、共用部分が自宅との大きな違いになってくる。
今回は「茶室がある」「良質な木材をふんだんに使っている」など生活をより豊かにしてくれる共用部分を持つ介護付有料老人ホームをピックアップしてご紹介していく。望んでいる生活スタイルや趣味などにピッタリと合った共用部分があれば、自宅以上の生活空間を得ることも決して不可能ではない。
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茶室や陶芸の電気釜まで用意した介護付有料老人ホーム「クラーチ・フィエラ鷺ノ宮」
「クラーチ・フィエラ鷺ノ宮」は2017年7月に開設された介護付有料老人ホームだ。運営する「株式会社クラーチ」は2001年に設立され、シニア向け住宅の運営で実績を積み重ねてきた。
同社のコンセプトは「終の住まいとして上質で居心地のよい空間演出」「できるだけ介護を必要とせず、元気であり続けられる健康サービスの提供」「お客様の期待を上回るホスピタリティの追求」の3つだ。
クラーチ・フィエラ鷺ノ宮の共用スペースを見ていくと、その質の高さに驚かされる。最初に驚かされたのが茶室だ。本格的な茶室が独立して、まるで離れのように作られている。これは「贅を尽くす空間であること」という思いから作られたものだという。
「茶室を作ったのは本物を提供したいからです。実際入居される方も、お茶の嗜みがある方が多いですね。お茶の先生にも来てもらっていますし、弊社の社員にもお茶の嗜みがある者がいるのでご一緒しています」(株式会社クラーチ代表取締役の鮫島智啓さん)
茶室のほかにも、入居者への思いが表れている箇所がいくつもある。ガラス張りで開放感のあるロビーに用意された、リハビリスペースもその一つだ。リハビリ機器は入居者のニーズに合わせて運営開始後に導入したもので、常駐の理学療法士も今後入る予定だという。
ルーフテラスとつながったアトリエも、特徴的な共用部の一つだ。このアトリエは趣味を楽しめる空間で、キッチン設備もある。入居者自身がここで料理を作り、ルーフテラスで味わいながら語らいを楽しんでいるのだという。茶室やカフェ、キッチンのあるアトリエ、そしてルーフテラス。クラーチ・フィエラ鷺ノ宮には、リゾート施設のような洗練された時間を過ごすための贅を尽くした共有スペースが用意されているのだ。
1985年からぶれない信念で作り上げた理想郷「光が丘パークヴィラ」
緑に恵まれた都立光が丘公園に隣接する「光が丘パークヴィラ」は、1985年に医師の中村美和さんがつくった介護付有料老人ホーム。開業医として地域医療に取り組んでいた中村さんには、高齢者から先々の生活の相談が寄せられるようになっていた。そこで中村さんは当時、いろいろな施設を見てまわったが納得できるような施設がなかった。それで自分でつくろうと思い立ったのが設立のきっかけだという。
中村さんは「ホテルの機能性、マンションの気安さ、家庭の味」をほどよく調和させることを考えてここを作ったという。そして、理想の終の棲家を作るべく、30年以上試行錯誤してきた。そのコンセプトは1985年の開設当初からぶれることなく一貫している。高齢者がどのような生活を送り、そして最期を迎えるのが理想なのか。まだ介護保険制度もなく、社会的な取り組みが進んでいない中、地道に取り組んできた。共用部分の充実もその一つだ。
「作った当初はまだ高齢者施設に姥捨て山のようなイメージを持つ人も多かったのですが、ここは“高年者専用住宅”として作りました。そして医療、介護、看護ができるホテルのようにしたので、入る方も誇りを持っています。今ではこういったところも増えてきましたが、ここがその先がけになったと思います」(光が丘パークヴィラ代表の中村美和さん)
落ち着いた口調で語る中村さんは、終の棲家の理想を設計時から持ち、建設時に具現化した。ゆったりとした空間にこだわり、延床面積の半分以上を共用部分にしている。玄関やロビー、そして庭などは広く、開放感がある。共用部分がたっぷりあることは入居者の心にもよい影響を与えているという。
看取り率85%は仕組みを整えただけでは達成されない。そこには信頼を元にした入居者との自然なコミュニケーションがあった。訪れた際に職員と入居者が話している様子を何度か目にしたが、長年の付き合いを感じさせる会話内容が印象的だった。事実、元気なうちから入るため長い付き合いになることが多く、まるで家族のような関係になることが多いという。また、終の棲家をうたうこちらでは施設内で葬儀を行うこともできる。そして何と共同墓地まであるので、安心して最期を過ごす場にふさわしいと言えるのではないだろうか。
→医師が理想の終の棲家を追求してきた介護付有料老人ホーム<前編>
→医師が理想の終の棲家を追求してきた介護付有料老人ホーム<後編>
木をふんだんに使い、足腰への負担も減らした「グランフォレスト学芸大学」
「グランフォレスト学芸大学」は東急東横線「学芸大学」駅から徒歩8分の閑静な住宅街の中にある。駅前やその周辺には商店や飲食店も多く、生活に不自由することはない。渋谷駅まで電車で8分とアクセスもよく、人気の居住エリアだ。
建物に入ってまず驚いたのが、木がふんだんに使われていること。居室だけではなく、共用スペース、廊下、手すりなどその多くに良質な木材を使っており、温かみを感じる。自動販売機や消火設備の収納場所にまで使う徹底ぶりだ。それもそのはず、こちらを運営する「株式会社フィルケア」は住友林業グループの一員なのだ。
居室の床にももちろん木が使われている。しかもただの木ではなく、住友林業が戸建て向けに使っている衝撃吸収床を使っている。そのため、入居者が転倒した場合の骨折のリスクを減らすことができているのだという。また、介護の仕事は仕事中に歩く距離が長く、立ち仕事のため足腰の不調が起こりがちだ。しかし衝撃吸収材は廊下など共用部分でも使われており、入居者だけではなく職員の足腰の負担も減らしている。
また住友林業の系列会社の知見を活かして、庭の植栽もきれいに整えられている。「花笑(はなえみ)の庭」と名付けられたその庭では、入居者と共に草花を育てていて、四季折々の花が楽しめるように工夫されている。花や野菜を育てることは、高齢者の心身に良い影響を与えるといわれている。丁寧に手入れされた植栽は本格的で、居室の窓際にソファを置いて庭を眺めながらくつろいでいる入居者も多いというのもうなずける。
「入居者様と一緒に水をやったり肥料をやったりしています。土を触ることは高齢者にすごくいい効果があります。育てた花を切り花にしてアレンジメントをしたり、押し花にしたりして楽しんでいますよ。そういった活動を通じて認知症の方の気持ちが落ち着くことがありますし、認知行動療法としての効果も期待できます。庭には花の名前を全部表示しています。それを見て『これは昔、自分の家の庭に咲いていた』とか『母の家に咲いていた』といった形で昔話に花が咲きますね」(グランフォレスト学芸大学・支配人の三谷利嘉子さん)
グランフォレスト学芸大学は住友林業グループの力を使って、木のぬくもりに包まれた住環境を高齢者に提供している。共用部分にもふんだんに使われている木や、整えられた多品種の植栽は、毎日ここで過ごす入居者の心身に良い影響を与えていることだろう。
いかがだっただろうか。介護付有料老人ホームは、居室以上に共用部分に運営側の思いがにじみ出ると感じて頂けたのではないだろうか。それぞれの理想とするライフスタイルを思い描きながら、共用部分をチェックしてみると、希望する終の棲家が見つかりやすいかもしれない。
撮影/津野貴生
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。