上皇上皇后両陛下の朝の日課「国語の教科書を声に出して読まれる」”音読”健康法を専門家が解説
小学校で盛んに行われている「音読」は、脳を活性化させ、読解力を高める効果があるといわれる。しかも、それは年を重ねた高齢者こそ積極的に行う方が健康寿命を延ばすことができるというのだ。上皇上皇后両陛下も日課にされている「音読」がなぜ私たちの健康に良いのか。専門家に話を聞いた。
上皇上皇后両陛下も毎朝行う「音読」
東京・港区の赤坂御用地内にある仙洞御所。
上皇上皇后両陛下は1959年に結婚した翌年から30年余りをここで過ごされた。そして今年4月、およそ30年ぶりにこの地に戻って来られた。
思い出深い場所で、新しい生活を始められた上皇上皇后両陛下が毎朝欠かすことなく、行われている日課がある。
それが「音読」だ。10月20日、美智子さまが米寿を迎えられた際に宮内庁が発表した文書によると、上皇上皇后両陛下は毎朝、上皇陛下が学習院初等科時代に使われていた国語の教科書をご一緒に音読されているという。
「上皇ご夫妻は平成の早い時期から、朝食後にご一緒に一冊の本を交互に音読されることを習慣にされていました。3年前には山本健吉さんの『ことばの歳時記』を音読されていることが公表され、同書が緊急重版されたことも。過去には大岡信さんの『折々のうた』や寺田寅彦さんの『柿の種』なども音読されていました」(皇室記者)
近年、音読が健康に与える効果が注目されている。脳活性研究の第一人者である東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太さんが語る。
「脳の働きは使わないと次第に衰えますが、音読の習慣を持つことで脳全体が活性化されて脳の健康が保たれ、認知機能が維持されます。音読は体にもいい影響を与えるので、人間の健康寿命を延ばす可能性が高い」
上皇上皇后両陛下も、音読が持つ健康効果に注目されているようだ。
「上皇陛下の母・香淳皇后は晩年に認知症の症状がすすみ、昭和天皇が亡くなられたことも充分におわかりになられませんでした。その様子を間近でご覧になった美智子さまが侍医に相談し、日常生活で認知機能を維持できる取り組みとして音読を始められたと聞きます」(前出・皇室記者)
仙洞御所で規則正しい生活を送られ、朝夕には御用地内の散策を楽しまれるという上皇上皇后両陛下。ご健康の秘けつは毎朝の音読にあるのかもしれない。
川島さんが振り返る。
「私は以前、上皇陛下に拝謁する機会がありました。その際、上皇陛下から“音読は脳によいようですね”というお言葉をかけていただきました」
お気に入りの文章や長年読み継がれてきた名作などを、声に出して読み上げる。たったそれだけのことで、どうして人は健康になれるのだろうか?
「声を出す」「耳から聞く」ことで認知症の予防効果も
まずは音読が脳に与える効果を見ていこう。
川島さんは、ポイントは声を出すことと、その声を耳から聞くことと語る。
「音読はただ活字を読むだけではなく発声して、その声を自分の耳で聞きます。そのため黙読に比べて、いくつもの複雑な処理を脳が同時に行います。それらが脳を刺激して、脳を活性化させるのです」
川島さんが音読時の脳の血流を示すMRIの画像を確認すると、脳の前側にある前頭前野を含む脳全体が活性化していたという。
「前頭前野は、記憶や学習、他者とのコミュニケーション、思考、感情などをつかさどります。黙読でも効果はありますが、音読をするとさらに前頭前野の働きが高まると考えられます」(川島さん)
音読は認知症の予防効果も期待できる。
東京都健康長寿医療センター研究所「社会参加と地域保健研究チーム」専門副部長の鈴木宏幸さんが言う。
「脳の神経細胞は加齢やアルツハイマー病などで衰えますが、神経細胞をつなぐネットワークは脳を使うことで新たに作られる可能性が報告されています。元気なうちから脳を働かせて神経細胞のネットワークを鍛えておくことが、認知症予防につながると考えられます」
鈴木さんが注目するのが絵本の読み聞かせだ。
6年間にわたる調査により、読み聞かせ活動を続けたグループは、脳内で記憶や思い出す機能にかかわる「海馬」の萎縮率が0.5%に抑えられた。一方で読み聞かせをしなかったグループは海馬が4.1%萎縮した。
「読み聞かせは、普段使わない言葉を声に出して読みます。例えば恐竜の名前のティラノサウルスは、声に出して言ったのがいつか思い出せない人が多いはず。日常生活で使い慣れた言葉ではなく、ティラノサウルスのような慣れない言葉を声に出すことなどが脳を刺激して脳神経のネットワークを強化したと考えられます」(鈴木さん)