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人生100年時代の転職術|老後を充実させる仕事の見つけ方と注意ポイントを専門家が解説

 2021年4月に「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、70才までの就業を企業に努力義務として課すなど、高齢者に長く働いてもらうための法整備が進んでいる。人生100年時代を迎えた日本で、高齢者が多様な働き方を実現するためにはどうすればいいのか。キャリア形成の専門家に「老後を幸せに過ごす仕事の選び方」について話を聞いた。

高齢者が力を発揮する仕事とは?

 働くことで人や社会に貢献できることが定年後の小さな仕事の大きな魅力だ。『定年女子 60を過ぎて働くということ』の著者で、エッセイストの岸本裕紀子さんが説明する。

「定年後によくある仕事は小学校の通学路での見守りや共働き家庭のお手伝いです。見守りをする人は、子供たちに声をかけてもらって楽しいと言っていました。料理が好きな女性が共働き家庭で料理や掃除などを行うケースでも、人の役に立っているという充足感が得られます」

 高齢者が意外な力を発揮するのは「クレーム対応」だと岸本さんが言う。

「いまは病院や公共施設などにクレームを言ってくる人が増えています。若い人はそういった対応が苦手。話がこじれたりすることが多くありますが、聞き手が高齢者の場合は、相手を立てつつ話をうまく収めてくれたりすることが多いようです」(岸本さん・以下同)

 総じて高齢者は豊富な人生経験がもたらす安心感が大きなアドバンテージとなる。そうした力を発揮できる仕事を効率よく見つけるには、日頃からアンテナを張っておくことが大切だ。

「シルバー人材センターやハローワークに加えて、知り合いや家族からも仕事を受けられるようにチャンネルをたくさん持っておくことが大事です。特にシルバー人材センターは仕事がいろいろあるので、どんな仕事ができるか調べておいたらいいでしょう」

→定年後におすすめの小さな仕事20選・給与目安「老後の働き方は多様な選択肢がある」

定年後の転職で注意すべきポイント

 一般社団法人高齢者再就職支援センター代表理事の西村栄子さんは自分のやりたいことと、やれることを明確にしておくことを求める。

「定年後のキャリア転機で雇う側が困るのは何でもやりますと言う人です。何でもやりますの人は何もできないと厳しい言葉を投げかける経営者もいるので、具体的に何ができるかは明確に提示できた方がいいですね。やりたいことが明確ではない場合、自治体などが行うシニアの就業応援プロジェクトに参加するのもいいでしょう。

 東京都が実施する『東京セカンドキャリア塾』はシニアの参加申し込みが、急増しています。老後の仕事で成功するポイントは好奇心と柔軟性です。過去に固執して自分の生き方を狭めることなく、新しい世界に興味を持ってほしい」

人生100時代の働き方を実例に学ぶ

 人生100年時代、老後のあり余る時間を生かして自己実現をめざす人もいる。関東在住の竹内美佳さん(68才・仮名)は音楽大学を卒業後、民間企業を経て公立中学の音楽教員になった。 

 教員の仕事にやりがいを感じていたが、多忙のうえ中間管理職の業務も負った。私生活では3人の子供を育て上げ、58才で最後の異動の内示が出たことを機に退職した。

 竹内さんは、内示が出る前から自由に音楽を楽しみたい気持ちが強くなっていたという。そこで、退職と同時に事業利用可能な防音マンションを借りた。ひと月ほどでレッスン場が完成。学生時代の友人らとコンクール参加に向け、練習に励んだ。 

 同時に週に1度、生徒に楽器や発声方法などを教えて収入を得るようになり、初心者向けのワークショップも開催した。社会とのつながりを持ちつつ、老後は自分のペースを守ってゆっくりと音楽に向き合うようになった。竹内さんは、こう笑顔で話す。

「レッスン場という居場所ができ、時間の余裕をもって音楽に取り組んでいます。教員時代の蓄えを使いながらのんびりと、やりたいようにやっていけばいいと考えています」

 竹内さんのようなのんびりとした働き方も老後の有力な選択肢となる。

「よくあるのは、友達がやっているお店の留守番を週に何時間かすること。公民館など地域の施設のスタッフになってのんびりと働くことも多い。友達や知人のつてから思わぬ仕事が見つかるケースもあります」(岸本さん)

老後こそ人生を楽しむ仕事を選ぶべき

 気楽に働けることも老後の特権だ。

『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』の著者で、リクルートワークス研究所のアナリスト・坂本貴志さんが取材したある男性は、地方の市役所で下水道関係の仕事をしていた。定年退職後、その男性は市からのあっせんで下水道関係のトラブルを現場で解決する会社に再就職した。

 その際、役付きの仕事も紹介されたが、あえて断って現場の仕事を選んだ。役付きは給料が高くなる分、仕事量や責任を要求されるからだ。

「男性はそれまでの経験を生かし、日々のやりがいを感じて働いています。市役所時代は次の日まで業務を持ち越していたけれど、定年後は一日の仕事が終わればそれで業務は終了です。男性はこの気楽さこそがすごくいいと語っていました」(坂本さん) 

 この男性のケースは老後の仕事の大きなヒントになると坂本さんが続ける。

「人生100年時代になって就業期間が長期化するなか、高齢者は小さな仕事に重心を移していくことが求められます。定年後に必要なお金はアルバイト程度の仕事で充分に稼げますが、何より大切なのは長期にわたって働けること。長い定年後を悲観することなく、ストレスが少ない短時間の仕事から、自分に合ったものを自由に選べばいいのです」

 精神科医の樺沢紫苑さんは「老後こそ人生を楽しむべき」と語る。

「それまで一生懸命働いたのだから、老後はやらされる仕事ではなくやりたい仕事を突き詰めて、時間を使っていけばいいんです。その際、人や社会と交流すると幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌され、免疫力が高まってストレスが和らぎます。小さな仕事をすることで人の役に立ち、社会に対してささやかでも貢献できれば、心身の健康が高まってより幸せになれます」

「小さな仕事」がもたらす果実は大きい。まずは肩書や見栄、欲を捨て去れば働きがいが人生をいっそう明るいものにしてくれるだろう。

教えてくれた人

エッセイスト・岸本裕紀子さん、一般社団法人高齢者再就職支援センター代表理事・西村栄子さん、リクルートワークス研究所アナリスト・坂本貴志さん、精神科医・樺沢紫苑さん

文/池田道大 取材/進藤大郎、三好洋輝、村上力

女性セブン20221027日号
https://josei7.com/

●豊かな老後と健康のために”生きがい”の見つけ方3か条「思いがけない偶然を大切に」

●「2000万円以上かかるの?」不安な人に老後資金を工面する4つの方法【FP解説】

●70代高齢者の貧困を考える 実録ルポ「貯金がなくても楽しい暮らし実践する人々の知恵と工夫」

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