豊かな老後と健康のために”生きがい”の見つけ方3か条「思いがけない偶然を大切に」
老後の暮らしを豊かに、健康に生きるために「生きがい」が大切だ。東京・小平市にあるオープンガーデンの美しい庭が人々を癒やしている。草花を育て、庭を訪れる人たちと交流することは”理想的な生きがい”だと、専門医は語る。あなたに「生きがい」はありますか?
美しい花々を育てることが「生きがい」
東京・小平市にある1000坪のオープンガーデンが、街の住人にやすらぎを与えている。広大な美しい庭は、200種類を超える植物が生い茂る庭園『森田オープンガーデン』のオーナー、森田光江さん(76才)が半生をかけて造り上げたもの。最愛の夫との別れのときも、自らの病で倒れたときも、色とりどりの草木たちは彼女を励ますように花を咲かせ続けた。もともとは夫が庭で野菜を育てていた横で、花を植えていたのがきっかけだという。
人生100年時代と呼ばれて久しいいま、生きている時間は延びる一方、愛する人の死や病気など、直面せざるを得ない悲しみの回数も確実に増えている。さらには、そうした出来事に遭ってなお、生きていかなければならない。
「生きがい」の反対は「無為」
森田さんが庭に救われたように、「生きがい」を見つけるにはどうすべきか。高齢者のセカンドライフに関する相談に乗ってきたシニア産業カウンセラーの青木羊耳さんが問う。
「『生きがい』の反対は何だと思いますか? 私は、『無為』だと考えています。つまり、生きがいの対極にあるのは、“何もすることがないこと”です。
大切なのは、時間を忘れて打ち込める趣味や関心事を持つことではないでしょうか。自分がやるべきことを意識的に作っていくことが、生きがいのベースになるのだと思います。
朝、起きてから何をするか考えるのではなく、前日、寝る前から『明日はあれをやろう』とやりたいことが頭に浮かぶような生活が理想です」(青木さん・以下同)
もし、いますぐに見つからないという人は、次の「3つの軸」を意識して探してみるといい。
「まずは子供の頃の夢を思い出してみてほしい。例えば花が好きだったとか、虫が好きだったとか、そういった幼い頃の趣味嗜好は生きがいを見つける際の大きなヒントになります。
2つめは現役時代に見つけた興味や関心です。サラリーマンは仕事を通じて学んだこと、専業主婦は『子育てを終えたらこれに挑戦したい』と思っていたことに目を向けてはどうでしょうか。
最後のヒントは“思いがけない偶然”です。誰かに会ってビビッときたり、本を読んで『これだ!』と直感したことなど、偶然受けた刺激が第二の人生に生きるケースが多々あります。アンテナを張りつつ、気になったことや面白いと思ったことはメモを取る習慣をつけるのもいい」
生きがいの見つけ方・3か条
【1】幼い頃の夢を思い出すべし
植物が好きだった、虫が好きだったなど、小さな頃からの趣味嗜好は生きがいを見つける際の大きなヒントに。
【2】現役時代の趣味や関心を実現させる
主婦ならば「子育てや家事が一段落したらこれに挑戦したい」、会社員ならば「仕事を通じて興味を持ったこと」などそれぞれに目を向けてみる。
【3】思いがけない偶然を大切にする
誰かに会ってビビッときたり本を読んで直感したことなど、偶然受けた刺激を忘れずにメモを取ったりアンテナを張って行動したりする。
生きがいを見つけることは、医学の視点から見ても健康長寿に有用のようだ。認知症専門医で、いのくちファミリークリニック院長の遠藤英俊さんが解説する。
「アメリカの著名な心理学者のマズローは人間の欲求を5段階で示しましたが、自分のやりたいことを見つけ、実行するというのは最上位に位置する欲求です。
自己実現の充足感とともに日々を過ごすことができ、『QOL』(生活の質)を高めることができます。これは老後を豊かに、健康に生きるために重要なことです」
理想的な生きがいとは?
さらに望ましいのは、見つかった“やりたいこと”を通じて人とつながることだ。
「老後を迎え、人との会話が減ると心身ともに老けてしまいます。実際に加齢や疾患で筋肉量が減って健康リスクが増す『サルコペニア』の研究によると、予防のために1日平均4.8人と会話することや、社会的交流を保つことを推奨されています。本人のやりたいことであるうえに、庭に訪ねて来る人たちと交流できる森田さんのオープンガーデンは、これらの条件をすべて満たした理想的な“生きがい”でしょう」(遠藤さん)
取材中も森田さんの庭には、近所に住んでいるという友人が訪れ、「こんなお花あるけど、どう?」「森田さんのところに植えてくれる?」とひとしきりおしゃべりを楽しんで、軽やかに去っていった。
「お花が好きな人って、初めて会っても価値観が同じだから不思議とすぐに仲よくなれるんです。よく、『お花は好きだけれど、こんなふうにたくさんは育てられないわ』と相談されることがあるけれど、そういう場合はまずは1つのお花をかわいがることから始めればいい。種をまいたところから芽が出て、咲き始めて、新しい種ができて、子孫を残すというお花の一生を見届ければ、花の育て方がわかるし愛着もわいてきます。生まれたての赤ちゃんの成長を見守るように、1つの鉢や一輪の花を慈しむことから始めればいいんですよ」(森田さん)
夫婦でまいた愛の種は、今日もたくさんの花を咲かせ森田さんを見守っている。
※女性セブン2021年10月14日
https://josei7.com/
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