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桂由美さんの軌跡「シニア世代にもう一度ウェディングドレスを」講演会で熱弁

 日本のブライダル業界のパイオニアとしてトップを走り続けている桂由美さんが、シニア向けのイベント『Age Well Japan 2022』に登壇し、話題を集めた。デザイナー歴57年を迎えた今も、最前線で活躍を続ける桂さんが、想うこととは。講演で語られた内容をピックアップしてレポートする。

桂由美さんがシニア向けイベントに登壇

 東京・渋谷で開催されたイベント『Age Well Japan 2022』は、シニア世代の生活の困りごとをサポートするサービス『もっとメイト』を展開するミハルが主宰。“高齢者のウェルビーイング※”をテーマとし、ビッグゲストを招いて講演会を行った。

※身体的・精神的・社会的に良好な状態。

 中でも注目だったのが、特別講演として登壇したブライダルファッションデザイナーの桂由美さんだ。

 白黒の柄ジャケットとお揃いのターバンを身につけ、ゆっくりと杖をつきながらステージへと続く階段を上る桂由美さんは、「お見苦しいところをお見せしましたね」と微笑む。インナーとチーフ、ネイルは鮮やかなピンク色、色白でなめらかな肌が美しく、圧倒的な存在感を放っていた。

「4年前に股関節の手術をしましてね、リハビリをして歩けるようになったんですが、その直後にコロナでしょう。日本だけじゃなく、パリもニューヨークもイベントが中止や延期になって、家に閉じこもることが多くなったせいで、足がなかなか元に戻らなくて。歯がゆいけれど、今日はどうぞよろしくお願いします」

 ブライダル業界で57年トップランナーとして走り続ける桂さんは、その足跡をゆっくりと語り始めた。

日本でいち早くウェディングドレスに着目

 桂さんが仕事をはじめたのは今から57年前に遡る。

「当時は、結婚式といえば着物が当たり前でしたよ。97%が着物で、ウェディングドレスを着るのは、全体の3%ほどでした。ですからウェディングドレスをやるなんて、みんなに驚かれたものですよ。でも、誰もやる人がいないからこそ、やりがいがある。

 少数派でもウェディングドレスで結婚式を挙げたいと望んでいる花嫁さんたちのためにも、日本にウェディングドレスを広めていくことが私の使命だと思って頑張ってきました。

 私は、小学校時代に日本の戦争を経験しているので多少の辛いことは切り抜けられる、辛いことがあったとしても理想に向かって邁進して行けると思っていました」

 洋裁学校を経営していた母親から、「小さくてもいいから一国の主になりなさい」と言われ、桂さんはどうにか資金を工面して1964年の年末に日本で最初のブライダル専門店を赤坂の一ツ木通りにオープンした。

「店をはじめたけれど、最初の1年は30着しか売れなくて、長いこと赤字続きでしたが、母の学校で講師を続けながら、お店の2階で寝泊まりをして時間や経費を節約していました。

 頑張れた理由は、以前日本初となるブライダルショップの構想を、とあるデパートの婦人服売り場に持ち込んだときに、『着物がドル箱だから、ウェディングドレスなんて誰も着ませんよ』とあしらわれたことがありました。銀座の街を泣きながら帰ったことがあったので、絶対に見返してやるって思ってたんですね」

 1970年代後半、日本経済は上向きになっていた。

「経済が良くなってくると、どこの国でも一番に贅沢になるのが結婚式なんです。若いお嬢さんたちがドレスを着てみたいと言い始めたんです。着物は成人式のときに着られるけど、ドレスは結婚式くらいしか機会がないですからね。当時、貸衣装店がお色直しをしようじゃないかって提案したことで、ウェディングドレスが一気に広まったんです」

 ブライダルサロンが軌道に乗ったのは、開業して10年が経過した頃だった。

「ワンダラーブラウス」の概念を変える!

 世界がダイアナ妃とチャールズ皇太子の結婚式に魅了された1981年、ニューヨークで「ジャパンファッションフェア」が開催された。

「当時アメリカでは、日本の洋服に対して『ワンダラーブラウス』という言葉が使われていました。1ドルで買えるブラウス、安かろう、悪かろうの代名詞なんですよ。これを変えたいと思っていました。

 フェアは日本のクオリティーを世界に発表するいい機会ですから、私は事前調査をするため、ウェディングドレスを持ってニューヨークに飛びました。ブライダル誌の編集長や一流デパートの方に見てもらったら、日本のシルクは品質がとてもいいと褒められました。ただ、可愛いデザインのものが多すぎるっていうんですね。

 日本ではお嫁さんを可愛いって褒めるけれど、アメリカでは“セクシー”と表現するんだと。可愛いデザインだけじゃなくて、もっとセクシーラインのものも増やしたほうがいいとアドバイスをもらったんですよ。

 ちょうど世の中は、ダイアナ妃の結婚でロマンティックなドレスが最盛期でしたけど、私は着物のお引きずり姿から着想を得て、スカートをボディラインに沿わせたほっそりしたストレートにし、ひざ下から裾をふわっと広がるスレンダーなドレスを20%ほど入れたんです。

 でも、1981年~82年まではダイアナ妃のドレスの影響もあって、このスレンダーなドレスは全く動かず、私が得意としたロマンティックなドレスのほうがブームとなり、ニューヨークの有名デパートのショーウインドウに飾られて、反響を呼びました。

 ところが2年経った頃、流行が重なったのです。その当時まだ誰もそのスレンダードレスをやっていなかったので、私の名から『ユミライン』と呼ばれ、オーダーが殺到しました」

シニア世代にもう一度、ウェディングドレスを

 新たなウェディングドレスを国内外に提案し続けてきた桂さんが、今一番力を入れているのは、「アニバーサリーウェディング」だという。

「ウェディングドレスを結婚式のときだけに着るのではなくて、10年、20年、35年と、節目に着てお祝いをする、アニバーサリーウェディングを提案しています。

 2019年の5月に生田神社で結婚10年、25年、35年と節目を迎えるご夫婦のアニバーサリーウェディングをプロデュースして、ウェディングドレスを着ていただきました。

 このアニバーサリーウェディングは、3つの効果があったんですよ。

 まず、1つ目は、男性はみなさん『女房がこんなに綺麗になるとは思わなかった。惚れ直した』って言うんですね。

 2つ目は、お子さんたちも『年中、夫婦げんかをしている親を見ていたら結婚したいって思わなかったけど、アニバーサリーウェディングを見たら感動した。早く結婚したいと思った』って。

 3つ目は、“ナシ婚”なんていうけど結婚式をしていないカップルが見学に来て、『子供は生まれたけど結婚式はやるべきだと思った』って言ってくれたこと。

 暗いニュースが続いていますから。ふたたびウェディングドレスを纏って、みなさんに幸せを感じてもらいたいと願っています。

 それから、私は今、YouTubeチャンネルもはじめたんですよ(笑い)。良かったら見てみてくださいね」

 失敗を恐れず、いつも新たな世界を切り開いてきた桂由美さんのように、人生100年時代、いくつになってもウェルビーイングを実現したい。

桂由美のYouTube「桂由美千夜一夜物語」https://www.youtube.com/channel/UCSXlrxs-9sxNz3d1834taSg

取材・文/氏家裕子 構成/介護ポストセブン編集部

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