60才以降の7割が尿意で目が覚める…ふくらはぎを揉んで夜間頻尿を予防【医師解説】
夜、何度もおしっこに起きてしまう──そのせいで睡眠不足となり、昼間に睡魔に襲われるなんてこと、ありませんか。実は、60才以降の7割以上の人が、睡眠中に起こる排尿感のために1回以上目を覚ましているんです(※本間之夫ほか「日本排尿機能学会誌2003」より)。しかもコロナ禍の運動不足が影響して、同様の悩みを持つ人が増えているのだそう。ただでさえ寝苦しい夏の夜にぐっすり眠るための方法を紹介します。
夜1回以上起きる「夜間頻尿」3つの原因
睡眠中に起こる排尿感で、夜間に1回以上起きてしまう症状を「夜間頻尿」といい、その原因は主に3つあると、石井クリニック(埼玉県・浦和)院長で泌尿器科専門医の石井泰憲さんは言う。
「1つ目は、尿量が多い『多尿』。特に夜間の尿量が多いケースを『夜間多尿』といい、寝る前に水分を過剰摂取していたり、薬の副作用、高血圧や心不全・腎機能障害などの病気が原因で起こります。
2つ目は膀胱が小さいケース。尿を少量しかためられないため、膀胱が過敏になり、ちょっとしかたまっていなくても尿意を感じてしまいます。この場合、昼も頻尿なことが多いです。
そして3つ目は、『睡眠障害』。眠りが浅いなど、睡眠に問題があるのに、尿意で起きたと勘違いし、目覚めるたびにトイレに行きたくなるケースです」(石井さん・以下同)
水分の摂りすぎによる「夜間多尿」が最も多い
このなかで「夜間頻尿」の原因として最も多いのが「夜間多尿」だという。
「『夜間多尿』のほとんどが、水分の摂りすぎで起こります。特に、薬やサプリメントを常飲している人は、無意識に水を多く飲んでいます。1日の尿量は平均1500mlですから、摂取する水分量を1000ml程度にすれば、症状が改善されます」
水分を過剰に摂取していないのに1日の尿量が2000mlを超える場合は、心臓や腎臓に病気があるかもしれないので専門医への相談が必要だ。
「まずは、自分が1日にどれくらいの量のおしっこをしているのか知ることが、『夜間頻尿』の原因を特定し、対処法を考えるための手掛かりとなります。そこで役立つのが、排尿日誌。おしっこをした時間と量を記録することで、頻尿の可能性、日中と夜間の尿量の差、1回当たりの排尿量などがわかります。
夜間の尿量が、日中の3分の1以下なら正常ですが、それ以上ある場合は、『夜間多尿』の可能性が高いといえます」
夜間の尿意にはむくみが関係している
夜間多尿は、水の飲みすぎだけでなく、脚のむくみも関係していると、石井さんは続ける。
「日中、座り姿勢や立ち姿勢で長時間過ごしていると重力で血液が脚にたまり、むくみが生じます。そのまま寝ると、脚にたまった血液が心臓に戻ろうとし、その過程で腎臓の血流が増します。すると、余分な水分で尿が活発に作られ、夜間におしっこに行きたくなるのです」
そのため、むくみは起きている間に解消した方がいい。
「むくみを解消するには、足首からふくらはぎへとさするマッサージや、脚を高くして横になり、15~30分過ごすのが効果的。そのほか、風呂で体を温めて血流をよくしたり、夕方の散歩、医療用の着圧ストッキングの活用もおすすめです」
特に、ふくらはぎマッサージは、「夜間頻尿」の予防にもなるので、症状が出ていない40代や50代から習慣にするといい。具体的な方法を紹介する。
ふくらはぎマッサージのやり方
■健康なふくらはぎの状態
□ 手のひらより温かい
□ 柔らかいのに弾力もある
□ 皮膚にハリがあり、押しても痛みはない
□ しこりがなく、中まで柔らかい
□ 指を離すと同時に、元の状態に戻る
※全部当てはまれば理想的なふくらはぎ。1つでも当てはまらない項目があった人はマッサージや、下記の脚上げで改善が必要です!
【1】気持ちいいと感じる強さで足首から上にもみ上げる
痛みを感じる部分やしこりのある部分は丁寧にもみほぐすこと。強い力で行うと筋肉や静脈の弁にダメージを与えるので注意。脚の冷えが気になる人は、ふくらはぎを温めながら行うと、深層部の血流もよくなるのでおすすめ。
【2】寝る2~3時間前に行う
寝る直前に行うと、夜中におしっこに行きたくなるため、寝る2~3時間前に行い、おしっこをしてから床につくのがベター。タイミングとしては食後や入浴中がおすすめ。マッサージは両脚で15~30分程度を目安にする。
■つぼ押しで代謝アップ
ふくらはぎには代謝を上げるつぼが集まっているので、マッサージと同時に左のつぼを刺激すればむくみの解消に。
・委中(いちゅう)…ひざの裏
・承間(しょうかん)…ふくらはぎの盛り上がった部分
・承山(しょうざん)…ふくらはぎの筋肉のいちばん下
・三陰交(さんいんこう)…内くるぶしから指4本分上
夕方の脚上げのやり方
血液が戻りやすいよう脚の高さは心臓より高くするのがポイント。
【1】クッションなどの上に両脚をのせる
仰向けに寝て、両脚をクッションなどの上にのせ、心臓より高い位置で15~30分キープする。クッションは腰や脚に痛みや違和感が出ない程度の高さにすること。
【2】寝る2~3時間前に行う
寝る直前に行うと、夜中におしっこに行きたくなるため、寝る2~3時間前に行い、おしっこをしてから床につくのがベター。必ず目を覚ました状態で行うこと。
おしっこにまつわる疑問を解消【Q&A】
Q:子供の「おねしょ」も「夜間頻尿」?
A:抗利尿ホルモンが原因。成長とともに治まります
「夜の尿を少なくするための『抗利尿ホルモン』は、2~10才までに分泌が充足するとされています。これには個人差があるので、2才でおむつが取れる子もいれば、小学生になってもおねしょをしてしまう子も。病気ではないので叱らずに、気になるなら医師に相談して、ホルモンを補充する薬を服用するのも手」
Q:突然の尿意、止める方法はある?
A:階段を上る姿勢が排尿感をやわらげる
「つま先に体重がかかった姿勢は膀胱を圧迫します。ですからその逆の、かかとに重心をのせた、階段を上るときのような姿勢を取ると、背骨が伸びて膀胱を圧迫しないので、尿意が抑えられます」
Q:夜間頻尿になりやすい食品とは?
A:アルコール、柑橘類、唐辛子などはNG
アルコール、人工甘味料、コーヒーや紅茶、みかんなどの柑橘類、唐辛子やこしょう、炭酸水、塩分などは、利尿作用が高かったり、膀胱を刺激しやすい成分を含むので夕方以降に摂るのは控えよう。
Q:おしっこの長さは普通どれくらい?
A:健康な排尿時間は21秒
人間に限らず、犬やライオンなど哺乳類はすべて、体の大小に関係なく膀胱にたまった尿を空にするまで21秒プラスマイナス13秒かかると、2015年のイグノーベル物理学賞を受賞した研究結果で明らかに。ちなみに、トイレの消音装置の起動時間は約25秒。この秒数よりも長くおしっこが出ていたら老化のサインかも。
教えてくれた人
石井泰憲さん/石井クリニック(埼玉県・浦和)院長で泌尿器科専門医
取材・文/佐々木めぐみ イラスト/尾代ゆうこ
※女性セブン2021年7月22日
https://josei7.com/
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