尿もれ、頻尿…おしっこ悩み・尿トラブルを解消|排尿日誌のつけ方と骨盤底筋トレーニング
40才以上の8人に1人が過活動膀胱(かかつどうぼうこう)に悩まされており、さらに、40代以上の女性の3人に1人に尿もれの経験がある(※)という。このように、加齢とともに“おしっこ”の悩みが増えるものの、受診にまではいたらないケースが多いのだとか。
でも実はそこに、深刻な病気が潜んでいるかもしれません。そこでおすすめなのが、おしっこの量や回数を記録する「排尿日誌」。病院に行きたくないけど、悩んでいる人はぜひ試してみて!
※30~70代女性642人に花王が調査(2017年)
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骨盤底障害で尿もれに
「40代以降の女性の泌尿器疾患は主に7つあります。なかでも特に多いのが『尿もれ』と、『過活動膀胱』です」
と、女性医療クリニックLUNAネクストステージ理事長で泌尿器科医の関口由紀さんは言う。
「尿もれとは、咳やくしゃみなどでお腹に力が入った時に尿がもれてしまうこと。腹圧性尿失禁ともいいます。一方、過活動膀胱とは、尿がたまっていないのに急におしっこがしたくなり、がまんできずにもらしてしまったり、頻尿などが主な症状です」(関口さん・以下同)
どちらも原因は多々考えられるが、女性の場合、「骨盤底障害」がかかわっていることが多いという。これは、骨盤内の臓器を支える筋肉や筋膜、靱帯などが、加齢などで弱り、ゆるむ症状のこと。加齢だけではなく、出産時に骨盤底筋群や靱帯が損傷されてなるケースも多い。実際、尿もれに悩む女性の多くが経産婦というデータもある。
「女性の骨盤の中には、膀胱や子宮、腟、直腸などの臓器が入っています。それらの臓器を支えている、恥骨から尾骨まで広がるひし形のプレートが骨盤底といい、骨盤底は筋肉や靭帯、筋膜でできています。この骨盤底を構成する筋肉群を骨盤底筋群(以下、骨盤底筋)といいます。この骨盤底筋が収縮することで尿道が締まり、尿をもらさないようにしているのです」
ところが、骨盤底筋がゆるむと、筋肉を収縮させる力も弱まり、尿道をきちんと締められなくなって尿もれなどを起こすわけだ。つまり、骨盤底筋を鍛えれば、こうした悩みは解消される可能性が高いといえる。
覚えておきたい!女性の“おしっこ”トラブルの原因7
●うっかりもれちゃう<腹圧性尿失禁(尿もれ)>
咳やくしゃみ、荷物を持ち上げた時などにお腹に力が入り、尿がもれてしまう疾患。原因は加齢のほか、妊娠や出産の過程で、骨盤底筋や靭帯などがゆるんだり、傷つくからとされる。一度傷んだ骨盤底筋は完全に元には戻らないうえ、加齢で筋肉が衰えたり、閉経後に女性ホルモンが減少して皮下組織のコラーゲンが減少すると骨盤底障害となり、尿道をきちんと締められなくなる。骨盤底筋トレーニングや膀胱訓練で改善できる。
●急におしっこがしたくなる<過活動膀胱>
急にがまんできないほどの強い尿意をもよおし、そのために頻尿(夜間頻尿)や尿もれなどの症状が出る。原因はいくつかあるが、脳と膀胱を結ぶ神経回路の障害によって、尿がたまっていないのに、膀胱の収縮が活発になるよう誤った指令が出てしまうことや、骨盤底障害などがあげられる。症状がひどくなると生活に支障をきたすこともある。また、膀胱炎も似た症状が出るので、過活動膀胱かどうかは自己判断せず、受診を。
●下腹部に原因不明の痛みが走る<慢性骨盤痛症候群>
下腹部に鈍い痛みや違和感があり、その症状が半年以上続いたり、たまに鋭い激痛が走ったりする。原因は、子宮内膜症、子宮筋腫、膀胱の間質という部分に炎症が起こる間質性膀胱炎などがあげられる。間質性膀胱炎になると、下腹部の痛みに加え、排尿後も残尿感があり、頻繁にトイレに行きたくなる。尿が少したまっただけでも膀胱が過敏に反応し、下腹部に痛みや不快感をもたらす。尿がたまるほど痛みが増す。
●臓器が飛び出る<骨盤臓器脱>
骨盤底筋が弱まることで、骨盤内にある臓器(膀胱、子宮、腟、直腸)を支えきれなくなり、臓器が下がったり、腟の外へ出てしまう。欧米の研究によれば、経産婦の約3割に骨盤臓器脱がみられるという。腟に何かがはさまった違和感、圧迫される感じがあり、頻尿や尿もれなど排尿にかかわる症状がみられる。
●腟に痛みやかゆみが出る<GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)>
閉経後、女性ホルモンが低下すると陰部の皮膚、粘膜、筋肉などが萎縮し、腟の乾燥、腟や外陰部のかゆみ、痛み、尿もれ、頻尿などを起こす。2014年に疾患名がついたばかりで認知度が低いものの、もともと閉経後の女性の約50%にはなんらかの症状があるとされている。腟・外陰の保湿が重要。
●ぬれない、痛みを感じる<セックストラブル>
セックスの際に腟が潤わず、痛みを感じるなどの症状が出る。右記GSMの一症状の場合もある。女性ホルモンを補充する治療法もあるが、乳がんや子宮がん、血栓症などの既往歴がある場合にこの方法は使えず、ローションなどの潤滑剤を使用したり、骨盤底のマッサージなどが行われる。
●性欲が低下しやる気が出なくなる<男性ホルモン欠乏>
GSMと同様、近年、閉経後の女性に増えている。男性ホルモンのテストステロンが減少することで、性欲が低下するだけでなく、あらゆることへの意欲が低下し無気力になる。抗うつ剤を服用しても改善がみられない場合、男性ホルモン欠乏の可能性が高いので、男性ホルモンを投与する治療法もある。
「排尿日誌」をつければ受診の必要性がわかる
このように、40代以降の女性はおしっこに関する悩みが深刻化する。しかし、恥ずかしいなどの理由で受診しない人は多いという。尿もれや頻尿の場合、重篤な病気が潜んでいる可能性がある一方で、単に水分を摂りすぎる“多飲多尿”のケースもあると、東京都リハビリテーション病院副院長で泌尿器科専門医・指導医の鈴木康之さんは言う。
「水分を摂りすぎれば尿もたくさん出ます。実際“受診したのにどこも悪くなかった”“薬をのんでも頻尿が改善しない”という患者さんが多いのですが、そういうかたに、尿の量や回数を記録する『排尿日誌』をつけてもらうと、水分の摂りすぎのケースが多いんです。頻尿を訴えて泌尿器外来に来る患者さんの約3割は、多飲多尿です」(鈴木さん・以下同)
1日の尿量は、体重20㎏あたり500ml程度が正常な量だという。つまり、50㎏の人で1250ml、60㎏の人で1500ml程度だ。それより尿量が多い場合は多飲多尿の可能性があるため、水分摂取量を調整すればいい。
鈴木さんは、頻尿で困っている人だけでなく、尿の色が濃い人や薄い人にも「排尿日誌」をすすめているという。
「基本的に、量が少ないと尿は濃い色になり、多いと薄い色になります。つまり、色の薄い尿の人もまた、多飲多尿の可能性があるわけです」
一方、尿が赤い、濁っているなどの症状があれば、深刻な病気が潜んでいる可能性が高い。すぐに医療機関を受診しよう。 病院に行きづらい場合はまず、日誌をつけて調べてみよう。
【注意!こんなおしっこは危険!すぐ病院へ】
□尿が赤い
(膀胱がんや尿管結石の可能性あり)
□排尿時に痛む
(膀胱炎の可能性あり)
□尿が濁っている
(膀胱炎の可能性あり)
□尿が出る時に勢いがない
(体内に大量に尿が残っている可能性あり)
□「排尿日誌」で1日の尿量は 問題ないのに、なんらかの症状が続く
(膀胱に問題がある可能性あり)
おしっこに関する気になる症状があるなら「排尿日誌」をつけよう。起床後から24時間分つけるのが基本だ。2~3日つけると傾向がわかる。
飲んだ水分量も記入すること!
「排尿日誌」では、計量カップや、空のペットボトルに目盛りをつけたものなどを使い、10ml単位で尿量を調べる。カップは500ml以上入るものがおすすめ。日誌には、おしっこをした時間、尿量、事前に尿意があったかの有無、尿もれの有無、食事内容を記入する。特にどれくらいの水分を事前に摂ったかは必ず記入を。チェックすべき点は、1回の排尿量とトータルの排尿量、そして排尿頻度。それらが下記の目安から外れている場合は、問題がある。
「多飲多尿の場合、水分を多く摂った分、排尿回数も多くなります。私の患者さんで77才の男性の場合、1回の尿量は300mlですが、1日10回もトイレに行く頻尿に苦しんでいました。しかし、水分を1日2Lも摂っていたことが『排尿日誌』でわかったんです。典型的な多飲多尿です」(前出・鈴木さん)
こういう場合、水分を摂る量を調整すれば改善する。
「水分は食事から摂れるので、無理して摂る必要はありません。尿量を見ながら、のどが渇いたら飲む程度にしましょう」(鈴木さん)
【1日の排尿回数と量の目安】
1日の排出回数 4~8回
就寝後のトレイの回数 0回
1日の尿量 1200~1500ml
1回の排尿量 200~400ml
※尿量や回数が基準値の場合、就寝後にトイレに行く必要はない。夜、トイレに起きてしまう場合は、なんらかの問題がある可能性が。そのせいで不眠がひどければ受診を考えよう。
尿意を感じたら5分がまんする訓練を
一方、排尿回数が多く、1回の尿量が200ml以下と少ない場合、膀胱が過敏になっている可能性がある。
「おしっこは本来、出そうと思って出すのではなく、トイレに入ると力を入れずとも自然と出るのが理想的。たくさんためてゆっくり出すことが大切なんです。あまりたまっていないのにトイレに行って、腹圧をかけて無理矢理出す習慣をつけると、骨盤底障害を引き起こしたり、悪化させてしまいます」(前出・関口さん)
排尿回数が9回以上の人はちょっとしかたまっていないのに腹圧をかけて無理矢理出している可能性があるという。
「頻尿の人は、尿意を感じても5分がまんする“膀胱訓練”をしましょう。1週間続けられたら次は1か月ほどかけて、がまんする時間を10分、15分と延ばしていく。そうすれば、症状改善に役立ちます」(関口さん)
骨盤底筋トレーニングや膀胱訓練などをしても、排尿回数と量が基準値にならなければ、医療機関を受診しよう。その際に「排尿日誌」を持っていけば治療もスムーズだ。
骨盤底筋トレーニングで「おしっこの悩み」を解決
前出の関口さんは、尿トラブルがあるすべての女性に、腟と肛門を収縮させて骨盤まわりの筋力を引き上げる「骨盤底筋トレーニング」をおすすめする。
「骨盤底筋が収縮できるようになれば、尿道が締められるようになるため、おしっこががまんできるようになります。GSMなどの影響で下腹部に痛みやかゆみがある人も、骨盤底筋を鍛えることで骨盤まわりの血流がよくなるため、症状が緩和されます」(関口さん)
トレーニングは、湯船の中で行うのがおすすめ。ひざを軽く曲げて座り、体の力を抜く。そして腟の中に人さし指を入れる。息を吐きながら第2関節までゆっくり入れ、肛門と膣を締める。この時、指が奥に引き込まれるような感覚があれば骨盤底筋を正しく動かせている証拠。最初はできなくても毎日続ければできるようになる。ただし、強い痛みを感じる場合は医療機関を受診すること。
●人さし指の第2関節まで入れるのが目安
●トレーニング前は、爪を切るなどして指を清潔にしておくこと。
イラスト/つぼゆり
※女性セブン2019年6月20日号