全集中!「世界の呼吸法」で長生き!中高年におすすめの呼吸法6選
瞑想から出産時まで、世界中でさまざまな呼吸法が実践されている。古今東西の呼吸法をひもといてみると、いかに人間が古くから呼吸を重んじ、呼吸によって心身を整えてきたかがよくわかる。呼吸法は、シンプルながら“息の長い”、人類最古の健康法なのだ。
『日本書紀』によれば、イザナギの吐く息から風の神が生まれたという。ギリシア語では「魂」のことを、もともと「呼吸」を意味する「プシュケー」という。はるか昔から、世界各国で「呼吸」の力が重視されてきた。その多くが、いま現在も、宗教、軍事、医療の現場で実際に使われている。
さまざまな呼吸法を紹介するので、あなたに合った呼吸を取り入れてみて。スーッと体が変わっていくはず!
ZEN呼吸法で不調をリセット|日本
江戸中期の臨済宗(りんざいしゅう)の禅僧、白隠(はくいん)が『夜船閑話(やせんかんな)』に書き残した呼吸法「軟酥(なんそ)の法」に着目した「ZEN呼吸法」を提唱するのが、呼吸アドバイザーの椎名由紀さんだ。「酥(そ)」とは、古来のバターのようなもの。白隠はこれを頭にのせて、静かに息を吐きながら溶けるに任せたという。酥と一緒に体内の毒素や老廃物を洗い流すイメージだ。
「お釈迦様は紀元前5世紀に仏教を開きますが、その教えの1つに呼吸があります。つまり、呼吸の大切さは2500年以上前から唱えられていたのです」(椎名さん・以下同)
椎名さんによれば、禅の呼吸は、「息を吐く」ことを基本に置く。
「現代人はつい忘れがちになるのですが、息は吸うことよりも吐くことが大事。禅では、自分の中にある空気を、細く長く吐き出します。吸うという動作は、体に力が入りますが、吐くと体がゆるみます。このゆるんだ時間を長くすることが、体を調えることにつながるのです」
椎名さんは15年ほど前まで、体のあらゆるところに不調があったという。片頭痛、肩こり、首こり、冷え、便秘、月経痛…。ところが「軟酥の法」に出合い、呼吸法を続けると、不思議と不調はすべて治まっていた。
「禅僧の坐禅の姿が美しいのは、それがいちばん無理のない姿勢だから。無理のない姿勢が正しい呼吸をつくり、体の不調も調えてくれるのです。線香が燃え尽きるまでの間を一炷(いっちゅう)といい、禅僧はその約40~50分をワンセットとして坐禅を組みます。初めてのかたは、朝の2、3分でいいので、静かに坐って長く息を吐く、吸う、長く息を吐く、と繰り返してみることをおすすめします」
心を整えるヨガの呼吸法|インド
同じくインドに起源を持つのが「ヨガ(ヨーガ)」だ。ヨガスタジオ・チャンドラ主宰で医師の齊藤素子さんは、「ヨガの基本にも『呼吸』がある」と話す。
「心は本来、自分の意思ではコントロールできないもの。ですが、生き物は、心が乱れると呼吸が乱れます。つまり、呼吸は心と直接つながっていると考えます。そこでヨガでは、呼吸をコントロールすることで、心を整えることを目指すのです」
息を吸うことと吐くことを1:2の比で行い、吐く息を長くすることによって、副交感神経の働きを促し、意図的にリラックスモードに切り替えることができるという。このほかにも、ヨガにはさまざまな呼吸法があるが、そのうちの1つが、「火を鎮める呼吸」だ。
「インドでは、閉経期になると、体内の“火の要素”が増えるという考え方があります。ホットフラッシュなどの原因になる過剰な火の要素を鎮めるための呼吸法が、『シータリー呼吸法』です」(齊藤さん・以下同)
舌をストローのように筒状に丸め、そこから息を吸う。鳥のくちばしのように、舌先を口の外に突き出した状態で口から息を吸い、吸い切ったら、舌を中に入れて口を閉じ、両鼻から吐く。
「女性ホルモンのバランスが崩れると、心も乱れます。更年期の症状や生理痛のときには、特に効果抜群です」
尿漏れ予防に太極拳の逆腹式呼吸|中国
「気」の本場・中国では、太極拳の代表的な呼吸法の「逆腹式呼吸」が有名だ。国際メディカルタイチ協会会長で医師の白澤卓二さんが言う。
「一般的な腹式呼吸は、息を吐くときにお腹を引っ込め、息を吸うときにお腹を膨らませますが、太極拳の呼吸法はその逆です。息を吐くときにお腹を膨らませ、吸うときにお腹を引っ込めます。腹腔内を緊張させるので筋トレになります。これにより、お腹を中心とした下半身の筋肉が鍛えられますので、失禁予防にもつながります」
太極拳はゆったりとした動きで、体への負担が少ない武術。無理なく体を鍛えるにはうってつけだろう。
→太極拳のすごい健康効果!それを座って行う『椅子タイチ』のやり方
痛みがやわらぐソフロロジー呼吸法|スペイン
呼吸法は東洋だけで重視されてきたわけではない。1960年代に退役軍人のPTSD(心的外傷後ストレス障害)を治療するために、スペインの精神科医が提唱したのが「ソフロロジー」だ。日本には、1987年にソフロロジー式分娩法が伝わり、多くの助産院で取り入れられている。
ソフロロジー式呼吸法は、鼻からゆっくりと深く息を吸い、口を少し開けてゆっくりと長く吐き出す腹式呼吸が基本。出産時には痛みや緊張から呼吸が乱れやすくなるが、深い呼吸を続けることで、心身をリラックスさせられるという。日本でも広く知られるラマーズ法とはまた別のもので、ソフロロジーは陣痛や出産への恐怖をやわらげるとされている。ヨーロッパでは、分娩法としてだけでなく、精神科、循環器科、消化器科、歯科などさまざまな医療で活用されている。
→親が「痛い」と泣いている時何もできず困ったら…|700人以上看取った看護師がアドバイス
折れない心を養う軍隊式呼吸|ロシア
驚くほど簡単に、何者にも動じない強靭な精神を養う呼吸法もある。ロシア軍の特殊部隊将校が開発した古武術をもとに作ったトレーニング「システマ」だ。「呼吸」を核とした独自のアプローチによって、心身のパフォーマンスを引き出す。
システマ東京公認インストラクターの北川貴英さんによれば、ストレスで本来の力が発揮できない状況を、呼吸によって整えるのだという。
「鼻から吸って、口からフーッと、ろうそくの火を吹き消すように細く長く吐きます。負荷を掛けたトレーニングをしながらこの呼吸を練習していくと、パニック状態に陥りそうなときでも、自然な呼吸ができ、冷静な判断ができるようになります」(北川さん)
これを身につければ、仕事や家庭のトラブルはもちろん、護身術の一環としても役立つ。
大地を感じるフラの呼吸法|ハワイ
ハワイでは、日常のあらゆる場面で「呼吸」を行うのが当たり前の光景だという。フラインストラクターでロミロミスクール講師の武用(ぶよう)亜希子さんは、「ハワイでは、各家庭で、呼吸の大切さややり方が伝えられている」と言う。
「ハワイの挨拶『アロハ』の『ハ』は“息・生命”などと訳されます。古来は、額と額をくっつけて、鼻で呼吸してお互いの息(生命)を交換していたとも」(武用さん・以下同)
フラを踊るときは、頭頂部、へそ、股間の3つの「ピコ」を意識して、自分の先祖や家族、自然、大地とのつながりを感じながら呼吸する。
「これらのピコをまっすぐつなげるようなイメージで行うのが、ハワイアンの呼吸です。呼吸は緊張をほぐし、心を落ち着かせ、自分の“いま”に意識を向けることができるのです。
現代でいう『マインドフルネス』に近い部分もあるかもしれません。基本は鼻から吸って、その3倍以上の時間をかけて吐き切るようにします。ハワイアンは、学校で授業が始まる前や集会の日、お祈りをするときなど、日常的にこの呼吸法を行っているのです」
→「脳疲労」は認知症を招く!脳の疲れをとる方法|睡眠、アホエンオイル、マインドフルネス…
「息」とはすなわち「生き」。呼吸法を身につけることは、人生をよりよくすることにつながる。
※女性セブン2020年12月3日号