「マスクで口呼吸」の弊害 免疫力低下、扁桃腺炎…認知症を招くことも
兆候は“においを感じなくなること”――新型コロナウイルスの流行によって、普段よりも鼻の機能を意識した人も多いだろう。鼻の重要さはそれだけではない。歯周病やインフルエンザ、認知症に至るまで、体中の不調や病気をシャットアウトしているのは、実はこの小さな器官だった! 全身とつながる重要な器官“鼻”の働きを見つめ直したい。
マスクが原因で口呼吸に
新型コロナウイルスによるマスク生活が定着して、まもなく5か月になろうとしている。感染拡大が衰える気配はなく、しばらくはマスクが手放せない生活が続きそうだ。
外出先でも購入できる「マスク自販機」や洋服のようにマスクを掛けられる「マスク掛け」が急ピッチで生産されるなど、「新しい生活様式」に則った設備やグッズは日進月歩で開発されている。
しかしその一方、長期間にわたるマスク生活による新たなる弊害も生まれている。
みらいクリニック院長で内科医の今井一彰さんは、マスクによる「口呼吸の増加」を懸念している。
「マスクをつけていると、鼻から呼吸がしづらく、無意識のうちに口呼吸になってしまいます。ほとんどの人は意識をせずに呼吸をしていて、口でも鼻でも関係ないと思っているでしょう。しかし本来哺乳動物の体は、口ではなく鼻から息を吸って鼻から吐いて生活するようにつくられています。それに反して口呼吸を続けることで、全身にさまざまな弊害が起きる可能性があるのです」
なぜマスクをつけると口呼吸になるのか
そもそもなぜマスクをつけていると、口呼吸になるのだろうか。
「理由の1つとして挙げられるのは、マスクをつけていると呼吸そのものがしづらいということ。鼻は外部のほこりやウイルスなどを防ぐフィルターの役割も果たしているため、鼻先から肺までの間に距離があります。ストローで息を吸い込むのと同じで、口呼吸をするときよりも筋力が必要になります。マスクをつけてただでさえ息苦しい状態でいれば、楽に呼吸ができる口呼吸を無意識に選んでしまうのです」(今井さん)
夏の暑さもこれに拍車をかける。暑い季節は、体内にこもった熱を逃がすために、口呼吸をせざるを得なくなるとも。今井さんが続ける。
「冬場なら顔を覆うマスクは体を温めてくれるのでいいですが、夏は逆効果。脳の温度を指し示す“脳温”が42℃を超えたら命の危険が生じてしまう。鼻呼吸は体温を下げませんが、口呼吸は体温よりも低い温度の空気をそのまま体に取り込み、熱を体外に逃がしてくれるため、自然と口呼吸をするようになってしまう。犬が体にこもった熱を逃がすために、舌を出して息を吐き、唾液を蒸発させているのを見たことがあると思いますが、同じことです」
●口呼吸になる原因
・もともと鼻呼吸は口呼吸より筋力が必要。マスクで息苦しいと楽に呼吸できる口呼吸になりがち
・口呼吸は体の熱を外に逃がしてくれるため、とくに暑い季節は口呼吸をせざるを得ない
●口呼吸と鼻呼吸の違い
口呼吸は病気のリスクを上げる
自然の摂理に反した口呼吸は、さまざまな病気のリスクを上げることが最新の研究によって明らかになってきた。東京有明医療大学学長で呼吸神経生理学が専門の本間生夫さんが言う。
「鼻から息を吸うのは、鼻には外部から体を守る機能があるからです。鼻毛や鼻の粘膜は異物が体に入るのを防いでくれるし、鼻から吸った空気は、適度に加湿・加温されて体内に取り込まれます。一方、口呼吸をすると、異物や乾燥した冷たい空気が、体内にダイレクトに入ってきてしまいます」(本間さん)
鼻というフィルターを通さずに空気をそのまま吸うことによって、今井さんは「口内環境が悪化する」と指摘する。
「鼻で加湿されずに直接口に空気が入ることで唾液が乾き、口の中が乾燥します。すると唾液の殺菌作用が弱まり、口臭や歯周病が悪化する原因になります。歯周病は、歯が抜けてしまうのに加え、高血圧や脳卒中を引き起こすこともある、恐ろしい病気です」(今井さん)
ウイルスへの免疫力も低下させる。今井さんが続ける。
口呼吸から鼻呼吸に切り替える指導を行った小学校で大幅にインフルエンザが減った
「冷たい空気を口から吸うと、のどが冷えてウイルスや細菌に感染しやすくなります。ウイルスなどの異物に対する白血球の攻撃力は、体内の温度が1℃下がると約30%減少するといわれていますが、鼻呼吸をしたときと口呼吸をしたときを比べると、のどの温度は約7℃も違う。つまり口呼吸を続けていれば、白血球の攻撃力は激減し、風邪やインフルエンザはもちろん、新型コロナウイルスにも感染しやすくなります。実際に、口呼吸から鼻呼吸に切り替える指導を行った小学校で大幅にインフルエンザが減ったという研究もあります」
扁桃炎のリスクも大幅に上がる。
「扁桃腺にはウイルスや細菌から身を守る働きがありますが、口呼吸をすることで扁桃腺が防御反応で炎症を起こし、扁桃炎になります。哺乳動物で人間だけが扁桃炎になる理由は、口呼吸をするからだと考えられています。扁桃腺の炎症が慢性的に続くと、免疫の異常をきたして、肝臓病や皮膚病になることもあります」(今井さん)
口呼吸だと脳への刺激が減る
一見、口やのどに直接関係ない病気も口呼吸が理由になるケースがある。本間さんは、慢性的な口呼吸をしている人は鼻呼吸の人よりも認知機能や記憶を想起する力が弱くなると指摘する。
「私たちが食べ物のにおいや味を感じるのは、咀嚼する際に鼻で息を出し入れして、大脳の嗅覚中枢が食べ物のにおいをキャッチしているからです。試しに鼻をつまんで食事をすれば、においや味はほとんどわからない。口呼吸ばかりすれば、脳への刺激が減って嗅覚が衰えて脳機能に影響を及ぼし、認知症になりやすいといわれています。実際にアルツハイマー型認知症は、においがわからなくなるのが初期症状の1つです」(本間さん)
口呼吸ではほうれい線が出やすい
健康に悪いばかりか、美容の大敵でもある。『1分で体がすっきり生き返る鼻トレ!』著者で、ヨガインストラクターの深堀真由美さんが言う。
「口呼吸をするためには常に口を開けていなければならないため、口元がゆるんで頰や口回りがたるみ、ほうれい線も出やすくなってしまう。一方で口を閉じて鼻から空気を吸っていれば、自然と口を閉じた状態をキープすることになり、口元が締まって、それに伴い顔も引き締まるのを実感できると思います。鼻呼吸に切り替えたことにより、顔が引き締まり、小顔になったという人もいます」
教えてくれた人
みらいクリニック院長で内科医の今井一彰さん、東京有明医療大学学長で呼吸神経生理学が専門の本間生夫さん、ヨガインストラクターの深堀真由美さん。
※女性セブン2020年7月23日号
https://josei7.com/
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