『MIU404』第5話|野木亜紀子脚本が斬り込むリアルな社会の闇に騒然
綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。外国人留学、就労、労働環境を描いた5話には「#GOTO KONVINI」という見覚えのあるフレーズが登場し、SNSは騒然となった。もちろん、脚本が書かれたのはずっと前のことで、偶然の一致だ。社会と真剣に向き合うドラマは、ときに奇跡のような現実とのシンクロを引き起こす。『MIU404』のえぐり出す社会問題、日本の闇……。大山くまおさんが解説する。
今夜放送第6話の前にじっくりおさらいを。
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外国人技能実習制度の闇
「この国に来ちゃいけない。ここはあなたを人間扱いしない。
ひと山いくらで買って、いらなくなれば帰れという。捨てられる。
ジャパニーズドリームは全部嘘だ!」
綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』。直情径行の“野生のバカ”伊吹藍(綾野)と、理性的だが誰も信じない志摩一未(星野)がバディとなって事件解決に奔走する「機捜エンターテイメント」だ。
先週の記事(https://kaigo-postseven.com/83439)で「強度のあるエンターテインメントほど、現実に手を差し伸べてくる」と書いたが、先週放送された第5話「夢の島」は、現実の首根っこを掴んでぐいぐい引っ張り回すようなエピソードだった。テーマは外国人技能実習制度。現代の日本社会が抱える暗部である。甘い夢のようなフィクションに浸るのもいいが、リアルを題材にとったエンターテイメントは野木亜紀子脚本の真骨頂といえる。
ストーリーに入る前に、日本の外国人技能実習制度をとりまく現在について簡単におさらいしておこう。望月優大氏の署名記事「法令違反が7割超、ブラック企業を次々に生み出す技能実習制度の構造」(現代ビジネス 2019年6月28日)を読んでいただければ概要はわかると思うが、かいつまんで解説する。
《技能実習生の数は急激に伸び続けている。2011年には14.2万人だったが2018年6月末には28.6万人まで急増した(同年末には32万8000人に達したという数字もある)。そのうち、ベトナム出身者が13.4万人を占める。外国人技能実習制度は、もともと人材育成を通じた開発途上地域への貢献を目的に創設された制度だが、低賃金の出稼ぎ労働者を受け入れる方便として機能してきた。人権侵害が常態化しており、2017年に厚労省が全国約6000の事業場を対象に行なった調査では、なんと全体の7割以上で法令違反が認められた。長時間労働、最低賃金違反、残業代の不払い、暴力、パワハラ、セクハラなどである。失踪者は18年だけで9000人を超える》
失踪者は18年だけで9000人を超える(出典:厚生労働省 日本経済新聞 7月2日「データで読み解く外国人労働者 魅力薄れる日本の賃金」より)。
法令違反がこれだけ横行しているのに、ほとんど見えてこないのが外国人技能実習制度の問題である。望月氏は構造的な要因の一つとして、実習生の募集を行う民間のブローカー、つまり監理団体の存在を挙げている。それでは、ドラマに戻ろう。
「抜け道探して悪さする人間」は誰だ
なぜかコンビニ店員の格好をしている伊吹と志摩。外国人によるコンビニ強盗が多発しているため張り込みをしていたのだが、そんな折、一斉に20人が同時多発的にコンビニ強盗を行う事件が発生する。検挙されたのは、ほとんどがベトナムからの元技能実習生だった。SNSで「#GOTO KONVINI #HON NERIMA」と呼びかけられていたのだ。
強盗の共犯として疑われたのがベトナムからの留学生マイ(フォンチー)。留学生とは名ばかりで、彼女は日本語学校に通いながらコンビニなど3つのバイトを掛け持ちしていた。この時点で重いストーリーになりそうな予感がビンビンするが、屈託なく「俺は君にフォーリンラブ」とマイに言ってのける伊吹の明るいキャラにホッとさせられる。
マイが住んでいるのは古そうな木造アパートだが、舞台になった練馬区の物件サイトを検索すると、賃料1~2万円台で4畳半(キッチン、シャワー共用)の築浅アパートがいくつも出てくる。このような物件は企業が借りて技能研修生の寮として使われる。
留学生たちの苦しい生活を間近で見ている日本語学校の事務員、水森(渡辺大知)は、日本へ出稼ぎに来ることを「ジャパニーズドリーム」と呼んでいた。しかし、それは本当に「夢」と呼べるようなものなのだろうか。伊吹の恩人で、現在は外国人支援センターで働く蒲郡(小日向文世)はこう言う。
「海を超えて働きに来てくれてるんだ。大切にしないと」
「ちゃんとやってるところはやってるんだなぁ」
「なんだってそうだ。まともにやろうとする人間と、抜け道探して悪さする人間がいる」
抜け道探して悪さすることを「ハックする」だなんて言い換えて、もてはやすのが昨今の日本社会である。4話の志摩のセリフ「金持ちは金儲けのために悪さする」とも通じる言葉だ。
「日本嫌い、なりたくなかった」
「理不尽には理不尽で返せ。俺たちには金を奪う権利がある」
SNSにベトナム語でこう書き込んでいたのは水森だった。「GOTO KONVINI」と書き込んでいたのも水森。水森は自分で興した人材サービスが破綻、多額の負債を抱えた後、監理団体の職員になっていたが、その監理団体は現地の送り出し機関から実習生1人につき30万円の違法なキックバックを受け取っていた。まさにブローカーそのものである。水森が監理団体の役員、喜多(坂東彌十郎)に再び監理団体で働くよう誘われるシーンでは、カメラがズームアップしながらトラックバックしていく、いわゆる「めまいカット」が使われていた(ヒッチコックの同名映画で使われたことからこう呼ばれる)。真面目に働く技能実習生は辛酸を舐める一方、国(管轄は厚労省)から許可を得た監理団体は堂々と悪さをする。水森にとって、現実が歪む思いだったに違いない。
日本に憧れて日本に来たにもかかわらず、コンビニを理不尽にクビにされたマイは、伊吹に向かって涙ながらに思いのたけをぶちまける。
「ベトナム、日本の家電たくさん。日本の会社たくさん。きれい。かっこいい。みんな日本行きたい。ドリーム。でも、日本は私たちいらない。欲しいのは、文句ない、言わない、お金かからない、働くロボット! ……日本嫌い、なりたくなかった」
ドラマからは離れるが、2019年6月にNHKで放送された『ノーナレ』では今治のタオル工場で働くベトナム人労働者が「家畜扱いされて1日中叱られています」と告発した。妊娠した外国人技能実習生が「中絶か帰国か」を迫られたという記事(弁護士ドットコム 5月19日)に対して、「実習生は妊娠するために日本に来たわけではない」「妊娠にはペナルティがあってしかるべき」というコメントが相次いでいたが、これも日本人が技能実習生を人間扱いしていない一つの証明だろう。
「国の罪は、俺たちの罪なのか」「みんなどうして平気なんだろ?」と呟く伊吹に志摩はこう返す。
「見えてないんじゃない? 見ないほうが楽だ。見えてしまったら世界がわずかにズレる。そのズレに気づいて、逃げるか、また目を瞑るか」
ジャパニーズドリームは全部嘘
今回の白眉は水森と伊吹のやりとりだろう。水森は留学生たちの窮状と日本社会の理不尽さを訴える。移民政策は行わないと言いながら(実際に安倍首相はそう明言している)、さまざまな制度でアジアから労働者を受け入れてきた。受け入れ数はすでに世界4位に達している。すべては日本人が便利で安価な生活を享受するため。
「文句があるなら国に向かって……」
「うーるーさーい! 俺は今、何十万人の話をしていない。マイさんという一人の人間の話をしている。日本に憧れてやってきた、一人の、たった一回の人生の話」
水森はマイや留学生たちが逮捕されることも、日本という国の歪みが原因だと考えていた(その金で監理団体への借金を返していた)。一矢報いたつもりなのかもしれないが、そのために一人の人間の人生を犠牲にするというのなら、「悪さ」をしている連中と大差ない。
結局、水森は自らコンビニ強盗に押し入って逮捕される。水森の書き込みの謎を解いた九重(岡田健史)が思わず訛っていたのが愛らしい。彼は愛らしいキャラになっていくのか。
人が多い場所を選んで逮捕されようとした水森は、人々がスマホを構えたところで覆面を脱ぎ捨てて、こう叫ぶ。「日本人だ! 強盗した俺は日本人だ!」。冒頭の一文は、水森が日本語とベトナム語で叫んだもの。水森の言葉は動画、あるいは記事となって多くの人に知られることになった。ジャパニーズドリームは全部嘘。「夢の島」はゴミの島。
逮捕された水森の告発によって監理団体は業務停止を受けるが、桔梗(麻生久美子)は政治家の関与を示唆している。フィクションとドラマは切り分けて考えなければいけないが、ベトナムから技能実習生を受け入れる監理団体の一つ「東亜人材(正式名称:東亜総研人材育成・交流部会)」は自民党の武部勤元幹事長が代表理事・会長を務めており、二階俊博幹事長が特別顧問を務めている。政治家がかかわる監理団体はここだけではない。
実は経済が低迷する日本は出稼ぎ先としての人気が落ちているが、ベトナム人労働者は増え続けている。これは日本への信頼が強いほか、現地の送り出し機関が整備されているという理由が大きいという(日本経済新聞 7月2日「データで読み解く外国人労働者 魅力薄れる日本の賃金」より)。ゴールデンタイムで放映されるエンターテインメントの中で、技能実習制度の問題だけでなく、監理団体の闇にまで斬り込んだのはすごいの一言である。
本日放送の第6話では志摩の抱える闇が明らかになる。さらにナウチューバーREC(渡邉圭佑)も動き出した。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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