吉報!星野源、綾野剛主演『MIU404』撮影再開。改めてドラマの展開を予想する
コロナ禍で延期されていた星野源、綾野剛主演のドラマ『MIU404』放送開始を待ちながら、脚本担当の野木亜紀子の過去作品を振り返ってきたが、ついに先日、「撮影再開」の吉報がもたらされた。『MIU404』はどんなドラマになるのだろう! 「野木亜紀子作品考察」に取り組んできた大山くまおさんが、高まる期待とともに、改めて新作『MIU404』の展開を予想する。
【目次】
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東京都をはじめ日本全国で緊急事態宣言が解除され、4月以降止まっていたドラマの撮影も再び動き始めた。春ドラマを待望していた人たちにとっては朗報である。
綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』も6月4日、公式インスタグラムで「2ヶ月ぶりに、撮影が再開できました」と報告。「近いうちに。嬉しいお知らせができそうです」と告知した。綾野剛は「I’m back!!!」、星野源も「撮影再開しました。全力で面白くヤバい作品を。」とそれぞれインスタグラムに綴っている。
24時間以内に初動捜査を行う「機捜」
『MIU404』(読み方は「ミュウヨンマルヨン」)は、警視庁機動捜査隊(通称:機捜)に所属する伊吹藍(綾野剛)と志摩一未(星野源)の活躍を描く一話完結のオリジナルドラマ。脚本の野木亜紀子、監督の塚原あゆ子、プロデューサーの新井順子の3人は『アンナチュラル』(18年)以来の再タッグとなる。
舞台となる警視庁の機動捜査隊とは実在する部署で、強盗・傷害・殺人などの凶悪犯罪の初動捜査を担う。初動捜査の重要性は高まっており、初動捜査で失敗すると迷宮入りしてしまうことも多い。ハードな任務だが近年は注目度も高く、警視庁内でも希望する隊員が後を絶たないという。ちなみにTBSには同じ機動捜査隊を扱った沢口靖子主演の『警視庁機動捜査隊216』というドラマシリーズがある(現在も継続中)。
機動捜査隊には担当エリアで分かれた第1から第3まであるが、ドラマに登場するのは架空の「第4機動捜査隊」。警視庁の働き方改革の一環で臨時に新設されたという設定で、第1〜3機捜の応援だけでなく、捜査1課などの各部署の応援も行う。要するに捜査1課の7つの強行犯捜査に属さない『エイトマン』みたいなものである。
第4機捜も他の機捜と同じく、覆面パトカーでパトロールを行い、通報を受けると現場に急行して初動捜査にあたるが、勤務は24時間制で次の当番勤務は4日後になるため、継続捜査は行わない。つまり彼らにとっては24時間が勝負。キャッチフレーズの「タイムリミットは24時間 誰よりも早く犯人にたどり着け」の意味はここにある。
野木作品でそれぞれ主演した綾野剛と星野源のタッグ
綾野剛が演じる伊吹藍は、機動力と運動神経に優れているが機捜の経験がなく、刑事の常識に欠ける「野生のバカ」。星野源が演じる志摩一未は、観察眼と社交力に長けているものの、自分も他人も信用しない理性的な刑事。第4機捜の隊長からバディを組むように命じられた正反対の伊吹と志摩が対立しながら犯人を追うというストーリーだ。
綾野剛と星野源は『コウノドリ』シリーズ(15年、17年)でコンビを組んでいる。このときは温厚で優しいサクラと無表情で冷静な四宮というコンビだったが、今回は「野生のバカ」伊吹と理性的な志摩のコンビとなる。綾野剛は『空飛ぶ広報室』(13年)、星野源は『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)と、それぞれ野木亜紀子脚本作品で主演しているが、それぞれ相手役が新垣結衣だったところも面白い。
第4機捜の隊長・桔梗ゆづるを演じるのは麻生久美子。女性初の機動捜査隊隊長という設定だが、実際にも2015年に警視庁で女性初の機動捜査隊隊長が誕生している。第4機捜の隊員として、塚原あゆ子が監督した『中学聖日記』(18年)で話題を集めた岡田健史と『4分間のマリーゴールド』(19年)で毎回「廉ちゃん廉ちゃん」と連呼していた橋本じゅんが登場してバディを組むほか、『恋はつづくよどこまでも』(20年)で新人看護師・仁志琉星を演じた渡邉圭佑が動画サイト管理人、金井勇太が防犯カメラやSNSのリアルタイム監視を行う第1機捜隊員、野木亜紀子脚本の『空飛ぶ広報室』で主人公を厳しく見守るディレクターを演じた生瀬勝久が第4機捜設立を認可した刑事部トップとして登場する。
ドラマの中に本当のところを作りたい
野木亜紀子の脚本作品といえば、今の社会の中で苦しんでいる人に光をあてていくものという印象がある。
『空飛ぶ広報室』では夢破れた2人が出会って自分の仕事にやりがいを見つける話だし、『重版出来!』(16年)でも芽が出ないアシスタントのエピソードや消えたマンガ家と残された家族のエピソードにスポットが当てられた。甘いラブストーリーのような『逃げるは恥だが役に立つ』にも女性の生きづらさが重要なテーマとしてちりばめられており、そもそも主人公の2人がとても自尊感情の低い人物として設定されていた。
『獣になれない私たち』(18年)はブラック上司のもとで働く女性の生きづらさがストレートに描かれていたし、『コタキ兄弟と四苦八苦』(20年)は市井の片隅で生きる社会から取り残されたような無職の中年兄弟を描いたもの。『アンナチュラル』(17年)は一家心中の生き残りと恋人を殺された法医学者2人が、残された人たちと未来の社会のために死んでしまった大切な人たちの死因を解き明かすストーリーだった
野木自身は「苦しんでいる人たちのところって、光が当たり辛いですよね。ドラマに対する考え方はいろいろありますけど、私は『そこに光を当ててくことがドラマじゃないの?』って思うんです」と語っている(ライブドアニュース 2018年10月27日)。
もう一つ、野木亜紀子の脚本作品の特徴として、時事性が挙げられる。『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』(18年)は「社会派エンターテイメントドラマ」として打ち出されていたし、『逃げ恥』、『けもなれ』、『アンナチュラル』なども時事的な話題が取り上げられていた。これは野木自身が番組制作会社で長くドキュメンタリー制作に携わっていた部分が大きいだろう。
しかし、社会の片隅にいる人たちの苦しみをそのまま描くだけではない。「辛い中でも、どこか“温かさ”を残しています。それはテレビドラマだから」(LEE 2019年11月27日)。それは自身の「ドラマ好き」としての体験に裏打ちされているのだという。
『MIU404』はテレビドラマの王道であり、野木にとって初挑戦となる刑事ものだ。刑事ものでは、刑事たちの活躍による爽快感と被害者たちの哀しみ、犯罪者たちが犯罪に至った社会の歪みなどが同時に描かれる。「ドラマは絵空事だし、絵空事を楽しむものだとも思うんです。ただその中に、何か本当のところを作りたいとは努力してます」と語る野木が、どのような痛快でリアリティのある「絵空事」を見せてくれるか、楽しみでならない。
文/大山くまお(おおやま・ くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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