大豆の調理法|がんや動脈硬化の発症リスクを抑え、“噛む”ことで脳も刺激するレシピ
「健康長寿のためには肉」「炭水化物よりもたんぱく質を」など食の“新常識”が次々と生まれているが、今あらためて注目されているのが大豆。古来から日本人の食生活を支えてきた最強のスーパーフードを毎日楽しむ“大豆習慣”を提案します。
大豆ってナニ?
マメ科の植物の種子の一種である大豆は日本や中国が原産地で、日本では縄文時代から栽培され食されてきた。以来、しょうゆや味噌など日本料理の要となる調味料や、納豆や豆腐といった加工食品として私たちの食生活に欠かせない食べ物に。栄養価も高く、習慣的に食べれば乳がんや心筋梗塞、脳梗塞のリスクを低下させるという研究結果も出ている。
たんぱく質の王者でコレステロールゼロ。大豆イソフラボンは更年期の強い味方
大豆はヒトの体に不可欠な五大栄養成分(たんぱく質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル)がバランスよく含まれ、脂質、糖質、ビタミンB1、ビタミンE、葉酸、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、食物繊維など栄養分たっぷり。筋肉や臓器、骨、皮膚など体の構成に不可欠なたんぱく質は肉よりも豊富で(グラフを参照)、しかもコレステロールゼロ。血液をサラサラにして、悪玉コレステロールの吸収を抑える働きもある。
さらに女性にとってうれしい成分が、大豆の胚芽に多く含まれる「大豆イソフラボン」。女性ホルモンのエストロゲンと化学構造式が酷似していることから、女性ホルモンが急減する更年期の様々なトラブルの緩和や、アンチエイジング効果も期待できるマルチな食品なのだ。
認知症予防には栄養と知的刺激。大豆を料理し、食べて一石二鳥
脳と身体の健康は表裏一体であり、バランスのよい食生活は認知症予防の要だと解説するのは、アルツハイマー病を中心に認知症研究の最前線で予防に取り組む、メモリークリニックお茶の水院長の朝田隆さん。料理もしかりだ。
「今年5月にWHO(世界保健機構)が、バランスのよい食生活と適度な運動を基本に、生活習慣の見直しを呼びかけました。ただ、この“バランス”がなかなか難しい。そこで大豆です。すべての栄養素が詰まった総合栄養食品で、高血圧の予防、自律神経の安定にも効果があります。また、認知症予防の場合は脳への知的刺激が大切で“デュアルタスク(ふたつのことを同時に行う)”が連続する料理は、非常に効果的な知的作業。きちんと栄養も摂れますから、まさに理想的です。大豆で簡単な料理をしてみる、それが面倒なら、スーパーでパック入りのサラダを買ってきて、煮大豆や納豆、サバ缶などと合わせて食べましょう」(朝田さん)
失敗しない大豆のゆで方
上菓子で用いられる豆の下ごしらえにならった大豆のゆで方です。大豆を選ぶ際は、国産かつ遺伝子組み換えでないもので、できれば無農薬のものが望ましい。粒の大きさが揃って形も整い、色つやがよく皮が破れていないものを選びましょう。
<材料>
大豆(1袋)…300g
水…1.5L
【1】大きめの鍋を用意。たっぷり湯を沸かし、大豆を一気に投入
土鍋、または厚手で大きめの鍋に湯を沸かす。大豆は布巾などで表面の汚れを拭き取っておく。“真の沸騰”といわれる100℃に達したら、大豆を一気に入れる。
【2】浮いた細かい気泡(ほこり)を丁寧に取り除く
再沸騰後に浮かんでくる灰汁のような細かい気泡(ほこり)を丁寧にすくい、すくったのと同じ量の室温の水(分量外)を足 す。細やかに鍋の火加減を調整しながら、鍋中の大豆がダンスをしているようにゆるく踊っている状態を保ち、約20分ゆでる。食べてみて少し硬いぐらいが料理に使いやすい。
【3】鍋縁に流水をあてゆっくりと温度を下げる
鍋を流しに持って行き、鍋縁に流水をあてる。鍋中に手が入れられる温度になったら、両手で優しく大豆をすくい、平ザルに広げ水気を切る。
大豆の保存法
ゆでて水気をしっかり切った大豆を1カップずつ密封袋に入れ、2日以内に使う分は冷蔵庫へ、そのほかは冷凍保存する。冷凍したものは必要量を自然解凍してから調理する。
大豆はやや硬めに仕上げ、“噛んで”味わいましょう
「大豆は素揚げにしてお塩で食べてもおいしいのですが、料理に使っても、ほのかな香りはあるものの、いい意味で味が薄いので、どんな食材と合わせても味がケンカしません。それどころか、大豆と組み合わせることで、栄養の相乗効果も期待できます。ぜひ、ゆで大豆をストックしておいて、いろいろな料理で試してみてください。また、やや硬めに仕上げれば、“噛む”運動にもなります。噛むことはあごを鍛え、口腔内の衛生維持、ひいては脳への刺激にもつながります。おいしく作ってよく噛んで、脳も体も生涯現役!を目指しましょう」(料理研究家 松田美智子さん・以下同)
毎日食べても、また食べたくなるレシピ
●中華風炒めもの
下ごしらえを万全に。中華鍋を火にかけたら炒めることに集中!
<材料>(2人分)
ゆで大豆…1/2カップ
エリンギ…2本
青ねぎ…1/2束
パプリカ(赤)…1/2個
にんにく(スライスする)…1片
ごま油…大さじ1
酒・オイスターソース…各大さじ2
塩・白こしょう…各少量
<作り方>
【1】エリンギは石突きを落とし長さを半分に切り、縦半分にして幅5mmに切る。青ねぎは根を落とし、青い部分は4cm長さ、白い部分は縦半分に切る。パプリカはわた、種、芯を除いて4cm長さの幅7mmに切る。
【2】中華鍋ににんにくとごま油を合わせ、中火で香りが立つまで炒め、大豆とエリンギを加える。エリンギに火が通ったら酒、オイスターソースを加えて軽く合わせ、強火にして青ねぎとパプリカを加える。さっと炒めて塩、白こしょうで調味する。
●煮豚大豆
噛むごとにジューシー。栄養MAXコンビでエネルギーチャージ!
<材料>(作りやすい量)
ゆで大豆…1カップ
豚肩ロースかたまり肉(脂の少ない部分)…500g
水…4カップ
酒…1カップ
しょうが…1片(スライスする)
ざらめ糖…大さじ3
しょうゆ…大さじ4
水とき片栗粉…(片栗粉大さじ1:水大さじ2)
<作り方>
【1】豚肩ロースはたこ糸で成形する。土鍋か厚手の鍋に入れて水、酒、しょうがを加えて厚手のキッチンペーパーをかぶせ、蓋をして煮立てる。アクを取ったらざらめ糖としょうゆを加え、弱火にして30分煮る。
【2】大豆を加えて10分煮て火を止め、蓋をして常温になるまでおく。豚肩ロースと大豆を取り出し、煮汁を漉して別の鍋に入れ、1カップ半ぐらいになるまで煮詰める。味をみて水溶き片栗粉で軽くとろみを付ける。
【3】豚肉は薄切りにして大豆と皿に盛り、【2】の煮汁をかける。好みで溶きがらしを添える。
●すり下ろし汁
なめらかで上品な口当たり。食欲不振時もこれなら!の逸品。
<材料>(2人分)
ゆで大豆…1カップ
昆布だし…4カップ
酒…大さじ2
塩…小さじ1
薄口しょうゆ…数滴
<作り方>
【1】保存しておいたゆで大豆を使う場合は、熱湯でさっとゆでこぼしておく。
【2】すり鉢に大豆を入れてすりこぎで叩くようにして潰し、はがれた薄皮を取り除く。
【3】昆布だし1カップを加え、大豆が滑らかになるまですりつぶす。鍋に残りの昆布だしを沸かして酒を加える。食す直前にすりおろした大豆を加えて熱し、塩で調味してほんの数滴の薄口しょうゆで風味を付ける。
●きゅうりとえびの酢のもの風
煮切りみりん+酢のやわらかな甘みがえびにぴったり合う。
<材料>(2人分)
ゆで大豆…1/2カップ
みりん…1/4カップ
米酢…大さじ3
しょうが(みじん切り)…小さじ1/2
冷凍無頭…えび4尾
片栗粉…小さじ1
酒…大さじ1
しょうがのしぼり汁…小さじ1/2
きゅうり…1本、塩…小さじ1/4
<作り方>
【1】小鍋にみりんを熱して半量に煮詰めて煮切りみりんを作り、米酢、しょうがのみじん切りを加える。
【2】大豆は熱湯でゆでこぼし、熱いうちに【1】と合わせて味を含める。
【3】えびは殻をむいて背開きにし、わたを取り除く。片栗粉、酒、しょうがのしぼり汁をもみ込んで15分おき、沸騰した湯でさっとゆでる。きゅうりは縦半分に切って種を除き、斜め薄切りにする。塩と合わせて10分おき、水気を絞る。器に【2】の大豆を汁ごと入れ、えび、きゅうりを盛り付ける。
●大豆の炊き込みご飯
大豆の香りとじゃこのうま味。何杯でもおかわりしたくなる。
<材料>(作りやすい量)
乾燥大豆…1/2カップ
米…1と1/2カップ
水2…カップ
塩…小さじ1
きくらげ(戻してせん切りにする)…1/4カップ
しらす…1カップ
<作り方>
【1】大豆は30分水に浸した後、ざるに上げて15分水気を切る。米は研いで10分浸水させ、15分水切りをしておく。
【2】土鍋、あるいは厚手の鍋に米、水、塩、きくらげ、大豆を加え軽く混ぜ、蓋をして強火にかける。
【3】噴いてきたら、ごく弱火にして鍋中の上下を混ぜ、10分炊いて火を止める。しらすを散らして蓋をし、10分蒸らしてから大きく混ぜて茶碗に盛る。
大豆でおつまみ&常備菜
「作り置いて副菜に、またお弁当にも便利。毎日食べてもあきない味なので、ご飯のおともに、料理のプラスアイテムにも」
●香味じょうゆ漬け
<作り方>
【1】昆布3cmは水で戻し、せん切りにする。
【2】小鍋にしょうゆ1/4カップ、酒・米酢各大さじ2、すりおろしたしょうが・にんにく各小さじ1/3を入れ、混ぜながらさっと火を通す。
【3】密閉容器にゆで大豆1カップと【1】【2】を合わせ、冷蔵庫にひと晩おく。冷蔵庫で3日ほど保存可能。
●素揚げ
<作り方>
【1】乾燥大豆1/2カップは30分浸水して15分水切りし、ペーパータオルに包んで水気をしっかり拭き取る。
【2】揚げ油適量を100℃に熱して大豆を入れる。時々鍋中を菜箸で混ぜながら、皮が伸びるまでゆっくりと揚げる(皮が切れないように注意)。ペーパータオルに広げ、天然塩適量をかける。
●大豆と春菊のサラダ
<作り方>
【1】春菊1束は葉先をひと口大にちぎる。かぶ1玉は皮をむいて繊維に沿って薄切り、セロリ1/2本は筋を引き4cm長さの短冊切りにする。
【2】にんじん4cmは皮をむいてせん切りにして【1】と器に盛る。
【3】フライパンにごま油大さじ2、米酢大さじ1、ゆずこしょう小さじ1/2、薄口しょうゆ小さじ1を合わせ、ゆで大豆1/2カップを入れる。中火で煮立て【2】にかけ、ゆず皮のせん切り少量を散らす。
●梅干し大豆
<作り方>
【1】ボウルにたたき梅大さじ1、しょうがのみじん切り小さじ1、煮切りみりん大さじ1(*作り方は「きゅうりとえびの酢のもの風」参照)を合わせる。
【2】ゆで大豆1カップをゆでこぼして水気を切り、【1】と合わせて15分おく。
●豆みそ
<作り方>
【1】フライパンににんにくのみじん切り小さじ1とごま油大さじ1を合わせ、中火で香りが立つまで炒める。
【2】ゆで大豆1カップを入れてさっと炒め、こうじみそ大さじ1、酒大さじ2を加えて香ばしく色づくまで炒める。冷蔵庫で3日ほど保存可能。
●きんぴら風
<作り方>
【1】フライパンにごま油大さじ1を熱し、鷹の爪の小口切り4本分、ゆで大豆1/2カップ、皮をむき乱切りにしたれんこん1節分(約100g)を加えて炒める。
【2】三温糖小さじ1を加えて照りが出るまで炒め、酒大さじ3を加えてさらに炒める。汁気がなくなったら薄口しょうゆ小さじ1を入れ、さっと炒めて火を止める。
大豆加工品で絶品おかず
「調味やオイルでひと工夫。納豆や豆乳が苦手な人にこそ食べてほしい!」
●ゆで野菜の豆乳ソースがけ
クリーミーでコクのある味わい。
<材料>
ごぼう…20cm
れんこん小…1節
しめじ…1パック
絹さや…8枚
塩…少量
オリーブオイル大さじ…1
<A>
豆乳…1/2カップ
米酢…大さじ1と1/2
塩…小さじ1/3
<作り方>
【1】ごぼうは皮ごと洗って4cmの長さの短冊切り、れんこんは皮をむいて5mmの薄切りにし、しめじは石突きを除いて手でほぐす。
【2】鍋に水を沸騰させ塩とオリーブ油を入れて【1】を加える。歯ごたえが残る程度で平ざるに上げ水気を切る。
【3】絹さやは湯通しして冷水に取り、ヘタを切る。
【4】ボウルにAを合わせて豆乳ソースを作る。野菜を器に盛り、ソースをかける。
●納豆のガレット風
隠し味のチーズがポイントに。
<材料>
オリーブオイル、バター…各大さじ1
あさつき…1束
<A>
大粒納豆…2パック
おろしにんにく…小さじ1/3
しょうゆ…大さじ2
<B>
パルメザンチーズ…大さじ6
片栗粉…大さじ2
白こしょう…少量
酒…大さじ1
<作り方>
【1】Aをボウルに合わせて15分おき、Bを加えてよく混ぜる。
【2】フライパンにオリーブオイルとバターを入れて弱火にかけ、【1】を大さじ山盛り1杯分ずつ広げ、フライ返しで押さえながら両面を香ばしく焼く。
【3キッチンペーパーで油を切ってから器に並べ、小口切りにしたあさつきをあしらう。
●松田家秘伝の麻婆豆腐
花山椒香る大人の麻婆豆腐。
<材料>
木綿豆腐…1丁
牛ひき肉…200g
ねぎ…1/4本
豆板醤…小さじ1
花山椒・しょうゆ…大さじ1
豆みそ…大さじ2
酒…大さじ3
豆腐のゆで汁…2カップ
水溶き片栗粉…(片栗粉大さじ1:水大さじ2)
にら…1/2束
黒こしょう…適量
<A>
にんにく・しょうがみじん切り…各大さじ1
ごま油…大さじ1
<作り方>
【1】ねぎはみじん切り、にらは5cm長さに切る。鍋で木綿豆腐をゆでる。
【2】中華鍋にAを入れて中火で炒め、牛ひき肉を加えて炒める。豆板醤、花山椒、豆みそを入れて炒め、香りが立ったらねぎを加える。
【3】酒、豆腐のゆで汁を加えて1分煮、豆腐を中華鍋に入れてざっくり崩し、黒こしょうをふる。味をみて、しょうゆで整える。
【4】水溶き片栗粉でとろみをつけ、にらを加えて火を止める。皿に盛り、好みで花山椒(分量外)を散らす。
教えてくれたのは
メモリークリニックお茶の水・院長 朝田隆さん
臨床精神医学、認知症疾患、脳機能画像が専門で、認知症予防・早期発見の最前線で活躍。おもな著書に『専門医がすすめる60代からの頭にいい習慣』(三笠書房)などがある。
料理研究家・松田美智子さん
「松田美智子料理教室」主宰。「理にかなった料理」をテーマに、旬を生かしたシンプルかつ味わい深い料理が人気。ウェブサイト「kufura」(https://kufura.jp)で料理動画を配信中!
<大好評発売中>
女性セブンで連載していた『松田美智子の旬菜食堂』をまとめたレシピ集。美しい盛りつけのお手本にも。『丁寧なのに簡単な季節のごはん』本体価格1300円/小学館
撮影/鍋島徳恭 参考文献/『大豆の科学』(日刊工業新聞社)
※女性セブン2019年12月5日・12日号